幸いにも発見された
突然人生が嫌になった。
人間は人生が嫌になるとどんな行動にでるのだろうか。私の研究によれば、旅に出る者、引き籠もる者、その二者に分けられるという。私の場合は紛れもなく前者であった。
自分探しの旅の話をする前に、人生が嫌になった経緯を説明しておこう。
以前の私は、人間という存在を否定するために日々学業に励み、外に出ては人間の愚かさを再確認し人類滅亡の日を狂ったように願い続けていた。人類は私の敵であり、私は人類の敵であった。そんな日常は確かに世間から見れば不幸であったかもしれない。しかし私は人間を忌み嫌う私自身を愛し、何よりその生活を愛していた。
突然、私は気づいてしまった。その時をよく覚えている。あれは和式便所の楕円形を見つめていた時だった。
「私は子孫繁栄がしたい。女性に会いたい。寂しい。」
私の頬に一滴の塩水が流れた。
ここまで禁欲的な生活をしてもなお、先祖代々受け継がれた「生殖本能」なる物は消え失せてはくれなかったのである。とにかく女性に会いたい。話がしたい。この時の私なら道を歩いている女性を誘拐する事もきっと厭わなかったであろう。しかし私は性欲に頑固対抗した。この私が、人類を軽蔑するこの私が女性を求めるとは許されないことである。女性といえど人間。いつも甘い香りを漂わせていても、心の内は罪悪感やら悪意軽蔑嘘やらでいっぱいで、それはひどく臭いものである。
私は夢想した。延々と続く緑の大地や、荒廃した人工物を。その人工物にはツタが絡まり、赤い花を爆発的に咲かせている。花は私に向かって伸びてくる。花粉が私の鼻に付くかとおもうと、花はぽとりと落ちてしまった。
夢想から冷めると私は小高い山を登っていた。当然、それは人間に会わないためである。ひどい気分だった。自己嫌悪の苦しみに駆られるあまり何度もその場にへたり込みそうになった。その度に自分を殴りつけながらがむしゃらに走った。自分がどこに向かっているのかも分からなかった。ただ走った。
そして私は遂に理想郷を発見したのである。
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