私の中

ルシア オールウェイズ ハッピー スピカ

第1話 メール

「本日の仕事が完了しました」


自宅のデスクトップの画面に表示されたメールを見て溜息が溢れたオレはソファーにうなだれた。

仕事に疲れ果てたオレは仰向けに寝転がりながら少し体を起こす。

もう一度謎のメールを眺め不思議な思いに囚われていた。

「仕事は残してきたから終わってねぇーんだよ…」

愚痴を言ってみたが返事は返ってこない。

それもそのはず、この部屋には自分しかいないから当たり前だ。

メールの差出人に心当たりは無い。

どうせなにかのイタズラだろう?

そう考えるのが普通だし、たいして気に留めることも無くその日は眠りについた。


数日後のある日、コンビニのATMで現金を引き出そうとしたのだが…

「はぁ!?」

思わず声を上げてしまったオレは突然の事に一瞬思考が止まった。

何故か預金額が増えていたのだ。

オレは稼いだ金を全て使ってしまう性格で毎月ギリギリの生活をしており、幼少の頃から貯金の二文字とは無縁だ。

特に今月はお客様やらなんやらの付き合いですでにかなりの金額を使ってしまっている。口座にある一万円であと十日間どう過ごすかと悩んでいたのだが…

目の前のATMのタッチパネル上には何故か十一万円の預金があると表示されている。

不安になり一度操作をキャンセルしてキャッシュカードを確認した。

しかし、きちんと『流川るかわ みつる』と名前が刻印されており自分のカードで間違い無かった。そもそも残高照会操作の時点でも自分の名前が表示されていたし、暗証番号も合っていたのだから自分の口座で間違いなかったのだ。そんな事も分からないぐらい気が動転していたんだろう。

口座に間違いが無いのであれば、誤入金か何かなのか?

そう思い会社へ連絡してみる。

「はい。お電話ありがとうございます。杉山商事です」

電話の声は事務の女の子だ。

「ああ、お疲れ様です。営業の流川です。ちょっと確認したい事がありまして…その声は日比野さんだよね?」

「はい。お疲れ様です。どうしたんですか?」

「いや、ちょっと気になる事があって…今月の給料の振込みってまだだよね?」

一呼吸おいてからそう訪ねてみた。

日比野さんはうちの会社で三年ほど働いている女子社員だ。

入社したての時から仕事が出来ると話題になる程の実力の持ち主で、今ではほとんどの事務作業をこなしている。その為給与の振込なんかも彼女の仕事だ。

「そうね。今月はいつも通り来週の金曜日が振込み予定ですよ」

「そっか。ちなみに臨時ボーナスとかそんなのって…」

「あるわけ無いじゃないですかw私が入社してから一度も臨時ボーナスなんて無かったですよ。どうしたんですか?急にそんな事言い出して」

だよな…

もちろんうちの会社にそんな太っ腹な事は期待していない。いや、毎月しっかり給与が貰えるだけで充分だから会社に不満がある訳ではない。ただ…

「分かった。まーたお金使い過ぎちゃったんでしょ?前借りは出来ませんからね」

ピシャリと突然のジャブ打ちに面食らってしまった。

「だ、大丈夫。今月はまだなんとかなりそうだよ」

「そんなこと言って女の子に貢いだりしてたら知らないわよー」

また昔の事を…

以前彼女がいた時に少々頑張り過ぎてしまった事があったのだが、その時のオレはかなりのジリ貧だった。毎日外食していればそうなるのも当然なのだが、三回ほど続けて牛丼屋に連れていったらあっという間に他の男に取られてしまったのだ。まあ、その男も今頃は金を食い尽くされていることだろう。冷静になって考えれば分かることだが、その時の彼女は一般的に良い女とは言えなかったんだと思う。金の切れ目は縁の切れ目…よくある話だ。

それにしてもそんな事覚えていなくても良いのに…仕事が出来過ぎるのも考えものだ。

「本当に大丈夫だから。お疲れ様」

これ以上突っ込まれてもあれなので逃げる様に電話を切った。

さて、問題の口座のお金だが…臨時ボーナスがあった訳でも、給与の振込み間違いもない。

流石に不安になり通帳の記帳を…いや通帳は家の中だ。

面倒臭いと思い少しの間悩んでみたがオレは一度自宅へ戻る事にした。

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