第10話 二人目の彼氏

「ちょっと! 飛躍しすぎじゃないですか?! いくらなんでも、女の子とコイツと付き合うのは別でしょう?!」


高村先輩が必死に言う。

盛大なブーメランな気がするが。



「いや、今気づいたけど、俺、武田君は女子扱いだった気がする。男友達が少ない中の貴重な男子だったのは、そのせいだね」


佐倉先輩は納得顔だ。



「そ、それとこれとは……!! ケンだって、急に男と付き合うとか、普通、無理じゃない?!」


盛大すぎるブーメランだ。

先輩、自分で言ってて、大丈夫かな……。



「俺は……正直、佐倉先輩のモテのコツは知りたいです……」


そう答えた。



「今更……!! 彼女そんなにほしいの?!」


高村先輩はちょっと怒ってるように見えた。



「えと……あの……実は……。恋愛小説を書いてみたいんです……」


高村先輩への罪悪感もあり、つい言い訳のように小説の話をしてしまった。



「へえ! そうなんだ! すごいね! どんなの書いてるの?」


佐倉先輩が笑顔で身を乗り出してきた。



「ま、まだ……書きたいなってだけで……。だから、モテモテの佐倉先輩の話をじっくり聞いてみたくて……」


「それなら喜んで協力するよ。何がためになる話はあるかなぁ……」


佐倉先輩は考えてくれている様子だった。



「……恋愛小説なんて、女の人が書くものでしょ。今まで書いてたんならまだしも、なんで恋愛経験ほぼゼロなのにそんなこと……」



高村先輩が冷たい目でこちらを見た。


そりゃそうだ。

元々、男の俺が恋愛小説……BLを書こうなんて、おかしいよね。


まともなことを言われて、じわっと涙がこみあげてくる。


別に、高村先輩は俺に意地悪したいんじゃない。

普通の人ならそう思うだろう。

きっと、佐倉先輩への嫉妬の勢いで言っただけだ。


でも、自分がやってみたかったことを非難された気がして、胸が苦しかった。



「俺は武田君の小説、すごく興味あるよ。前から、武田君ってSNSで面白い文を書くなって思ってたんだ。最近見なくなったから、寂しかったよね。あんな感じで、ブログみたいな小説だったらすぐ書けるんじゃない?」



実際、そんな感じだ。

凝ったものは書けなくて、一人称のブログ調。

リアルといえばリアルだ。



「やっぱり俺と付き合って、恋愛しようよ。俺は武田君を彼女扱いできる自信あるよ」


佐倉先輩は、爽やかに、すごいセリフを言った。



「よ、よろしくお願いします……」


「ちょ……ケン?! 自分が何言ってるかわかってんの?! 付き合うんだよ? 男と!!」 



高村先輩が、血相を変えて言う。

何を言ってもブーメランだけど……。


小説の趣味を否定された気持ちもあって、応援してくれる佐倉先輩に傾いてしまった。



「明日には……佐倉先輩は東京に帰るんで……遠恋の気持ちもわかるかな、って……」



どうせ付き合ったところで、職場で顔を合わせる高村先輩に比べれば何があるわけじゃない。

恋愛ごっこに付き合ってくれるだけだ。


佐倉先輩が優しいのは知ってるし、今ですら高村先輩とは違って応援してくれた。

そこが佐倉先輩のモテポイントなんだろうとは検討がつく。

だから、そんな本格的な恋人同士にはならないだろう。


佐倉先輩の機嫌の良さや、高村先輩の焦りに比べると、冷静な自分がいる。



「遠恋……いいね。なんか文学的な感じがする」


佐倉先輩が目を細めてこっちを見てくる。

なんか恥ずかしかった。



「……わかったよ……。勝手にしろ……」


高村先輩がそう言い捨てて、残りのビールを飲み干した。



「みんなグラスは空いたから、本格的に飲みに行きません?」


佐倉先輩が言った。



「もう、根掘り葉掘り、佐倉さんの営みについて聞かせてもらいますからね!!」


高村先輩は乱暴にグラスを置いた。

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腐男子がカクヨムでBLを書き始める話 千織 @katokaikou

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