第3話心臓に悪いこと

次の日。

さつきは上司になると言う朧車から地獄の説明を受けていた。

てっきり閻魔大王の近くで働けると思っていたが、現実はそんなに甘くないようだ。


ここでは罪人に罰を与える拷問を行うと淡々と言われた。


「さて、説明は以上だが質問はあるか?」

「はい。閻魔様の近くで働くにはどうすればいいですか?」

「閻魔大王?そうだな、𝐧𝐨. 𝟐にでもなれば近くで働けるぞ。」

「そうなんだ。どうやってなるの?」

「え?なりたいのか?」

「まぁ。」


ギョ。とした顔でマジマジとさつきの顔を見る。

そして品定めが終わったかのように呆れたため息をついた。


「はぁ、やめとけ。お前みたいな人間になれるわけないだろう?」

「そうなの?」

「当たり前だ。𝐧𝐨. 𝟐と言えば獄卒の憧れ。何百年と働いている妖怪ですら、その地位につけないんだ。」

「へぇ。狭き門なんだね。」

「あぁ。だから昨日来たばかりのお前には無理だ。奇跡的になれたとしても何千年も後だろうよ」


そうなのか。と興味なさそうにしてはいるが、実のところやる気がみなぎってきている。

この朧車も獄卒として務めてからもう何百年も経っているそうだ。


それにそんな事くらいで、閻魔の隣を諦める訳にはいかない。

気合いを入れ直して朧車に向き直った。


「で、私は何するの?」

「拷問だって。でもできるか?同じ人間を痛めつけなくちゃいけないんだぞ。お前のような小娘…」

「あぁ、そういうのいいから。これ?使えばいい?」

「そうだが…」


少し心配しているかのような目を朧車は向ける。当の本人はへっちゃらな顔して大鎌を手に亡者の前に出た。


「あ?なんだガキ?お前みたいなお子ちゃまが何しにきた《ドゴォッ》ブブェラ!?」

「何しにって、罪人しばきに。」

「すげぇ。一切のためらいもない。」


簡単にガラの悪いオヤジ亡者を吹っ飛ばし次に向かう。

あまりの無情さに朧車は冷や汗を流していた。


その頃閻魔ー


「はぁ。」

「あれ?閻魔様、どうしました?」

「赤鬼か。昨日の女の子いただろう?天国行きを断った。無事か心配なんだよ」

「あれれー?もしかして惚れてたり?」

「違う違う!天国の神からな、めちゃくちゃ怒られたんだ。」

「え?なんでです?」

「それが…」


ズーンと沈み込む閻魔。

訳を話すと、神様に天国行きの者を地獄に送るとは何事かとネチネチグチグチ言われた挙句


「仕方ないから1ヶ月、猶予をやろう。しかしその者に何かあって転生できぬ体にしてみろ。閻魔だろうが関係なく土下座させる。」


と、トドメを刺されたようのだ。


「うわぁ…神様っぽい。」

「引くだろ?そりゃ間違えたのワシだけど…」

「年々性格がキツくなってますね、神様。むしろあっちの方が閻魔にふさわしくなってません?」

「ははは、だがいいのか?神が閻魔になったら失敗をその先何千年もグチグチ言われるぞ?」

「それは嫌だッ!!閻魔様、ずっとここにいて下さいね!!」


いやぁ!と泣き真似をする赤鬼を疲れた顔で笑う閻魔。

その時、さつきの上司になった朧車が閻魔宮にやってきた。


「閻魔様、今お時間いいですか?」

「おぉ、朧車。あの子はどうだ?」

「いや、それがですね。」

「??」


深刻な顔をして黙り込む。

この重い空気にまさか何かあったのかと心臓をバクバクさせながら次の言葉を待った。


「あれ?もしかして着いた?」

「おや?この声は…」

「あ、閻魔様。調子はどうですか」

「…。」

「ん?あれ?どうし、、」


途端、閻魔の悲鳴が響く。


「いやぁぁぁぁ!?!何その血!!なんでそんな真っ赤なの!?もしかして怪我した?!」

「え、いやコレは」

「とりあえず担架!!病院!!深刻化しない内に早く!!」

「お、落ち着いて」


見事に泡くってる閻魔と頭を抱えて半泣きでオロオロする赤鬼。

朧車の中から出てきたのは全身を血で真っ赤に染めたさつきだ。

一体何事だ?と周りから色々な妖怪が集まってきてしまった。


「おーい、閻魔様」

「これが落ち着いていられるか!!」

「うわ、びっくりした。大丈夫ですって、なんともないですから。」

「あまりふざけた事を言うんじゃない!!(神に渡す)大事な体になにかあったらどうするつもりだ!!」

「ズキュン!!…。」


しーん。

と、閻魔の一言で静まり返える閻魔宮。

つられて慌てていた妖怪達も一瞬で落ち着き、閻魔とさつきを交互に見た。


「さつき、閻魔様とそういう関係だったのか?」

「いや、私の片想い」

「え!?そうだったのか!!だから𝐧𝐨. 𝟐になりたいのかっ」

「うん。さっきのはどういう意図だろうね」


周りのどういう事?と言う視線にも気づかないまま慌てふためく閻魔と赤鬼。

その様子におかしくなってしまってさつきはついに笑い出してしまった。


「ぷっ!あっはは!閻魔様、見てください。」

「動くなさつき!!君に何かあったらワシはっ」

「わぁ、嬉しい。でもこれ、返り血ですよ?」

「返り血?」

「はい。亡者をしばきすぎて真っ赤になっただけです。」

「亡者を…しばきすぎて?」

「見事なもんでしたよ、閻魔様。こいつ鬼より鬼らしい。」


あっはっはっは。と笑うどこか似た2人。

その一言に閻魔は腰が抜け、ドスン!と自分の大きな椅子に座り込んでしまった。


「なんだ…そうだったのか。紛らわしいな。」

「そんなに心配してもらえるとは。嬉しいですね」

「当たり前だろ、君に何かあったらワシはどうなる。怪我なんぞしてくれるなよ」

「っ。はぃ…」


すぐに顔を赤くして俯くさつき。

2人のこの様子を見た周りはやっぱりそういう事!?と話題になり、閻魔宮はこの話で持ち切りになったのだった。









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閻魔様に恋して @Yun77

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