歯医者。それは数多のトラウマを作り上げてきた場所。
眩しい照明、口に挿入されるバキューム、そして甲高いドリルの駆動音。
治療台に寝かせられた自分はさながら、まな板の上の鯉である。
緊張、恐怖、苦痛、そして安堵。
歯医者への通院をシミュレート出来る新感覚恐怖小説。
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現在進行形で歯医者に通っているのもあってか、読んでいて痛みを思い出した一作。
奥歯の施術。これは手術であり建築工事でもある。
根管治療の経験がある方ならお分かりかもしれないが、ドリルは想定したよりもずっと奥へ入り込んでいく。
はじめてやった時は「え……まだ進むの……?」と思ったものだ。
施術時の痛みは底知れないものがあるし、頼みの綱の麻酔もどの程度効くかはその時の運次第。
おまけに病状によっては強引なアプローチが取られることもあり、精神的なショック度合いも強い。
しかし、虫歯を放置した時の激痛に比べれば安心でき、何より「永遠の苦しみなどない」と実感出来るのも事実。
天使と悪魔。
双方の要素を持つ歯医者に、複雑な思いを抱く物語であった。