第22話 盗賊更生プログラム
「……お、俺たちはやってましぇん……。ほんとうれす……」
「う〜〜〜ん。どうやら本当みたいね……」
ちり紙……、じゃない。死神盗賊団とやらの盗賊全員を締め上げ、お縄にし。
ボスらしき人物を尋問したものの、どうやらここではなかったらしい。
「じゃあ、この近くでやりそうなやつとか、もしくは襲撃したのが誰かを知ってそうなやつとかいない?」
「あ……、スカー盗賊団が、最近でかい仕事をするって息巻いてたって話は聞い……、聞きましたが……」
「それほんとう? 嘘言ってないわよね」
「いまさら嘘言ってどうするんれすかあ!!」
半泣きになりながら必死に首を振る盗賊団のボスに、とりあえず嘘は言ってなさそうかと見切りをつけて胸ぐらを離す。
「じゃあもういいわ。邪魔して悪かったわね。ジミー!」
「……はい」
「しょっぴいて」
「……はぁっ!? 正直に話したら見逃してくれるんじゃあなかったのかよお!?」
「何言ってんの! そんな甘い話があるわけないじゃないの!?」
あんたら全員、強制労働機関送りよ! と言い捨てると、盗賊団のボスが「そんな……」と情けない声をあげてうめいた。
「に……、ニア様……。これじゃどっちが悪者かわかりませんよ……」
「は? 何言ってるのジミー。どっからどうみてもあっちが悪者じゃない」
あっちは
こっちは
誰がどうみても明らかに正義はこちらにあるでしょーに。
「え〜……」
「ほら。ぼけっとしないの。こいつらとっとと片付けて、次行くんだから」
「は……? 他にも行くんですか……?」
「当たり前でしょ! ローラー作戦って言ったじゃない!」
ローラー作戦とは文字通り、しらみつぶしにこの辺の盗賊を当たっていって、エリク兄を襲った盗賊を見つけ出す作戦なのだ。
ひとつずつ潰していけばいずれ必ず目標には辿り着く――はず。
こうして私は、近隣の盗賊団を順繰りに壊滅させていき、壊滅させた盗賊たちを強制労働機関という名の街の自警団や青年団にぶち込み、真っ当ないち社会人に更生させるという事業を並行して進めていった――。
◇
「おい……、ニア。最近お前の噂がすごいんだが……?」
「へあ?」
一体、なにしてるんだ――? と。
エリクにそう尋ねられ。
――あれから。
いくつかの盗賊団を壊滅させ、情報の整理に王宮に戻ってきたタイミングで、エリクに捕まってそう尋ねられた。
「何って……、お兄さん探しだけど」
「…………そうだとは思っているが。それでなんであんなに盗賊がみるみる改心していくんだ……」
「え……? 人徳……?」
特に深く考えずに反射的にそういうと、エリクが深いため息をついた。
「婚約者殿は、我が国の盗賊問題を解決するためにいらしたんですか? と真顔で聞かれたぞ……」
「そんなわけないじゃない。単なる副産物よ」
つい先日、冒険者ギルドや商人ギルドに立ち寄り、このあたりの盗賊が主にどこを拠点にしているのかを聞き出し、ちょうど地図を広げて書き出していたところだったのをエリクにちらりと見られ。
「現地に痕跡が残ってないんだもの。だったら、犯行に及んでそうな盗賊を片っ端からテコ入れしていこうと思って」
「あんまり危ないことは……、と言っても、ニアにはあんまり意味ないか」
それでも、万が一ってこともあるから気をつけろよ、と肩を叩かれ。
わかったわよ、とは答えたものの、いまだこれといった情報も見つかっていないのだ。
引き続きローラー作戦を決行すると言う予定には変わりなく。
ただ、私だって別に、何も考えずに盗賊を一掃して行っているわけではない。
一口に【盗賊】といったって、いろんな人間がいる。
その大半は、普通の暮らしを送ることが難しかったために、盗賊に身を落とすしかなかったものがほとんどだ。
まあ……、中には単に精神性が残虐なやつとか荒事が好きなだけの奴もいるけど……。
そういう人間をふるい落とし、真っ当な生活に戻れそうな人に真っ当な仕事をあてがい、更生プログラムを組んでいるのだ。ジミーに手伝わせて。
「そういえば、エリクがつけてくれた兵士、優秀ですごく助かってる」
ジミーは、最初の印象が地味で見た目こそぱっとはしなかったが、一緒に仕事をするとすごく仕事のできる人間だった。
ぶーぶー文句を言いながらもこちらの意図を理解してくれるし、高圧的なわけでもへりくだっているわけでもない、フラットな感じが、実のところ割と盗賊たちからもウケは悪くなかった。
「ああ、ジークのことか」
「そう。勝手にジミーって呼んでるけど」
「なんだそれ」
そうして、そうやってふはっと笑うエリクは、相変わらず爽やかであった。
元伝説の魔術師令嬢、役立たずは出ていけと言われたので冒険者コンに参加したら庶子の王子とマッチングしました! 遠都衣(とお とい) @v_6
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