第39話 お父さんのため
「どうするも何もない」
「そうか」
クララの処遇はおそらくアルミナが決めるだろう。だって王城に囚われているぐらいだ。バハラの壊滅させた功績を鑑みてもアルミナが決めるのが妥当だ。
そして、俺が予想するにクララの才能をこのまま放置しておくのは実に惜しいはずだ。生かして利用するぐらいは考えているかも。
だけど、相手はたくさんの命を、ましてはアルミナを誘拐した張本人だ。アルミナの判断に納得いかない連中もたくさんわいてくるはずだ。
「いつまでいるの?」
「俺が満足するまでだ」
どれくらい時間が経っただろう。
地下だから時間間隔がわからない。
「もしかして、師匠を待ってる?」
「うん?あぁ…………そうかもしれないな」
「師匠は言ってた。利用価値を示せと、価値を示せないなら死ぬしかないって。きっとお父さんも私も利用価値がなくなって殺された。きっと私も…………でも師匠はバカじゃない。そんな堂々と待ってても姿を現さない」
「俺の予想だがお前の師匠は現れないんじゃないかと思ってるんだ」
「どうして?」
「だって今、クララは生きているだろ?お前の師匠ならここまで簡単に足を踏み入れらえるだろうし、たとえ見つかっても王城内にいる騎士たちなんて敵じゃない。だろ?」
アサツの実力はそう簡単に測れるものじゃなかったはずだ。
それにもし本当に殺す気ならこうして王城の牢獄にとらわれる前に殺しているはずだ。
「むしろ、クララは助かった命を大切に使わないとな。死んだお前のお父さんのためにも」
「お父さんのため?」
「アルケットはきっとお前のことを思っていた。そうじゃなきゃ、あの時、あの場から離れろ、なんて命令はしないだろ?むしろ、自分の命を最優先に考えるはずだ」
「…………」
「とにかく、生きろってことだ。あ、でも普通に生きられるかはわからないけどな。クララがバハラのメンバーだったって証拠はないわけだし、でも関係がないわけじゃない。その漢字を見るに拷問されても特に何も答えてなさそうだしな」
クララの目が少しだけわかった。
さっきまで死んだような魚の目をしていたが、今は死ぬ一日前の魚の目をしている。
「当たり前、私は口が堅い。それに拷問は慣れているから」
「それはそれでどうなんだ?まあ、俺はごめんだけどな」
「一つだけ、聞いてもいい?」
「俺が答えられることならな」
クララはゆっくりと口を開く。
「どうしてもあなたはあの時、私を殺さなかったの?」
「…………子供を殺す趣味がないだけだ」
「そんな理由?」
「そんな理由だ」
「あなたも子供だよね?」
「それを言うなよ」
たしかに見た目は子供だが、中身はもう立派な中年男性だ。それに俺はまだ一度も人を殺したことがない。
…………もしかすると内心では戸惑っているのかもな。人を殺すことを。
その時、ガチャンと上から扉が開いた音が聞こえた。
「人が来たみたいだし、俺はそろそろここでお暇するとするかな」
俺はゆっくりと立ち上がり、クララと目を合わせた。
「その枷じゃまだろ。ほらよ」
両手両足を縛る枷を風魔法でいとも簡単に切り裂いた。
「え?」
「じゃあな」
俺は手を振りながら背を向けて俺は歩き出す。
これで逃げる機会は与えた。後はクララ次第。俺ができるのはここまでだ。
…………アルミナにこれがばれたらどうなるか。さすがに殺されることはないと思うが、まあ最悪アルドリヒ家の名を使って。
いや、それはそれで大変なことになりそうだからなしだな。
「まあ、なんとかなるだろ…………ってさっきの音、グルタだったのかよ」
長い道を歩いていると、グルタと対面した。
「お戻りが遅かったので、様子を見に」
「そっか、俺って何時間ぐらいいたんだ?」
「4時間ほどです。それよりアルミナ様がお呼びです。すぐに王室へ」
「…………わかった」
王室か、なんか嫌な予感がするが、まあいい時間稼ぎにはなるか。
こうして、俺はアルミナがいる王室へと足を運んだのだった。
主人公になりたい悪役貴族~シナリオ中盤ボスの悪役貴族は主人公のハーレムエンドがうらやましいので、その立場を奪ってみようと思う 柊オレオン @Megumen
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