第4話
ビックリし過ぎたのか、口を開けながら私の方をじっと見てくる。
とうとう頭がいってしまったか、とふざけているのは当の本人には内緒だ。
「並び替えたら谷瀬竜一になるでしょ?お父さんの名前なの。」
「そうなのか…。」
そう言いながら神妙な顔つきでブツブツ何かを言っている。まだ信じ難いのだろうか。
周りの皆は知らないらしく、夜暗が落ち着くのを待ってくれていた。
私ももっと動揺させる事を言ってしまったら危険だと思い黙った。
そうすると、夜暗が何かを思い出したかのように話し始めた。
「『13』、確かそんな題名の話があったよな。小学生の時ぐらいに読んだから記憶は曖昧だが、『真っ白な箱に閉じ込められた小人の話』…みたいな感じだった気がするな。」
「真っ白な箱?まさに今の状況じゃないか。」
「13という数字は諸説ありますけれど、良くない数字ですわ。結末は覚えていませんの?」
夜暗はこくんと頷いた。
確かに『13』という題名の話はある。お父さんは数字から物語を作るのが好きだった。
悪い意味の数字から縁起がいい数字まで。
そういえば、この話は5人の小人が出てきて、最後が…
「あ」
思わず口から声が出てしまった。
そうだ。そうだった。この物語は空想のものではない。
私が小学2年生の時にお父さんが書いた話だった。
主人公は冴えない男の子。大人しく、友達がいない、所謂陰キャに属する子供。
だが真っ白な箱に閉じ込められてから仲間ができ、次第に明るくなっていく。
これはお父さんの幼少期を描いたものだ。
真っ白な箱というのは当時欠かさず通っていたお寺の比喩で、坐禅を組んでいるだけで気持ちが晴れると言っていた記憶がある。
だからお父さんにとってお寺での坐禅は空虚だが晴れ晴れしいもの、それを真っ白な箱と表現している。
他にもお寺に行く子は多く、そこで仲間ができた。
話すことでどんどんみんなへの信頼度が高まっていった。
そして、最期はこうだ。
「お坊さんに首を刈り取られる。…つまり、その箱の中の誰かが裏切り者だったっていうオチ。」
調べたら出てくる。
何せニュースや新聞で大々的に報じられたから。
お父さんは幼いながらもよく頭が回る子供だったから命からがら逃げ切れた。
もちろん無傷ではない。左足が刺されていて、すぐ応急処置ができなかったし刺されながらも走って逃げたからその後左足は壊死した。
お父さんには苦い思い出が沢山ある。
実在した話を改変して書いたものに数字を当てはめていた。
『13』はその1つに過ぎない。
「それじゃあその話通りにいくと裏切り者がいるのか?!」
「この物語を知っていた、谷瀬さんと夜暗くんが怪しいってこと…??」
不自然な話の詰め方をしている。
確かに有り得なくは無いが、知っているのを内緒にできるだろう。
「早計ですわね。確かにこの物語は今の状況と酷似していますけれど、だからといって裏切り者がいるとは限りませんわ。」
フンっと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
「可能性を見つけるのはいいが、根拠を並べられないのは真実ではないからな。まぁ、出てから考えても遅くはないが。」
山下さんは疑ったのを申し訳なさそうに目を逸らして手を前で擦り合わせていた。
よく手を動かしているから殆ど手で何を考えているかが分かるようになってしまった。
「今はひとまず、部屋をもっと細かく見る、この五人が集められた意味を考える、この二つが必要なんじゃないかな?」
「そうだな。俺とお前は頭を使う方がいいだろう、背丈的にな。」
私と夜暗は五センチぐらい身長に差があるが、それでも周りより低い。
山下さんと柳さんは百八十センチくらい身長があるけれど、私達は百六十センチ前後。
私が一番低いのは少し癪だ。薬鳳院さんは身長が高く、すらっとしている。モデル体型とでも言うべきか。
それにしても夜暗は言葉に棘があるにもかかわらず、そこら辺のチンピラとは違い自分を上げようとしない。
「分かった。じゃあ他の三人はもう一回調べてきてくれないかな。」
そう言うと三人は首を縦に降り、各々歩いていった。
皆が行き、見届けるようにして向けていた目を夜暗に向けた。
「じゃあ、私達も頑張 …」
「お前、もう答えが分かるだろ。」
私の言葉に被せるように夜暗が言った。
答えが分かっている?私が?何を根拠に?
「"根拠を並べられないのは真実では無い"。夜暗がさっきそう言ったんでしょ。そんな根拠ない。」
「ある。」
そうズバッと言い放った。
狼のように鋭い目には先程までのキラキラした宝石のようなものは感じられなかった。
どちらかというと、原石のような…。
「夜暗の考えはよく分からないけど、私は分かってない。」
「仮説でもいい。考えていることを吐け。分かっていないことはないだろう。」
「可能性の話はしたらいけないの。お父さんにそう言われて育ってきた。」
「お前は父さんの幻影ばっかり追いかけて何がしてぇんだよ!!!!!」
夜暗が急に声を張って切迫した表情でそう言った。
その声に驚いて下を向いてしまった。
私だって分かってる。でも、お父さんとお母さんは私の全てだったから。
誰にも見向きされない私を呆れもせず見守ってくれていた。
お父さんは私にとって教祖様だ。
生きるのに必要なことを教えてくださる。
私をいつでも信じてくださる。
だから私は裏切らないし裏切るなんて行為できない。
「親の言いつけは守るべきもの。」
「この状況でそんなこと言ってられっかよ。それにお前の父さんはもう…」
やめて、それを言わないで
「…死んでんだろ。」
BLUE EYE M @suzuna_777
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