第3話
「なんだ?」
「みんな行き詰ってるだろうし、”ウミガメのスープ”っていうゲームをしてみない?」
私の考えはこうだ。
この洞察力に優れている4人は簡単な推理ゲームでは測りきれないような力を持っている。
今回のこの謎は難しすぎるのではなく、きっと不安の中での焦りが生じているのだろう。
そこで頭を回転させながらも少しはリラックスできるゲームをすることで皆の力をアップさせようというわけだ。
細かいことによく気付くから、落ち着いたら見えてくるはず。
勝利の糸口が。
「ゲームして何になんだよ。まさか楽しいからとかいうふざけた理由じゃねぇだろうな。」
夜暗はチラとこちらを睨みつけた。
やはり気持ちが焦っているのであろう。
皆、表面上は安平然としているように見せているだけなんだ。
「それも少しある。でも私なりの考えがあるから、1回やってみようよ。」
「まぁ、どうせこのままだとすることがなくなるから気晴らしにしてみよう。」
柳さんがフォローを入れてくれた。
「じゃあ問題は私が出すね。
問題に対しての質問はYESとNOだけで答えられる質問にすること。分かった?」
皆で円状になって座り、4人は真剣に私を見つめる。
毎回立っていた山下さんと薬鳳院さんも今回は珍しく座っていた。
「それじゃあいくよ。」
『とある作家が新作小説を発表した。
その本の物語や登場人物は、多くの人が知っているものとほぼ同じで誰もが結末を予想できるほどだった。
しかし誰もその作家を断罪しなかった。なぜか?』
「まぁ、だいたい作品を盗作するのは駄目だからな。
その物語は誰かの人生を描いた本なのか?」
さすが警察官とでも言うべきだ。目をつけるところが違う。
「どちらかと言えばYES。良い質問ですね。」
「その本は他にも似ている内容の本がありますの?」
「YES。焦点が違ったりするかもしれないけれど。」
その物語の主人公によって話の見え方は変わってくる。
”全く同じ”内容の本はないが、”似ている”本は沢山存在するだろう。
「法には触れない範囲での犯罪だったとかかな?」
「それはNO。これに関しては犯罪として疑われるような事はしていない。」
「結末は複数あるのか?」
「どちらかと言えばNO。ただそれはあんまり関係ないかな。」
予想外に分からないものなんだなと思いながら皆の顔をぐるりと見渡した。
そうすると、薬鳳院さんが少し笑っていた。
解けたのかと感心したが、本人は声を発する様子はない。
「薬鳳院さん、もしかして分かったの?」
薬鳳院さんはちらりと私の方を見て、先程よりも笑顔でこう答えた。
「いや…楽しくって仕方がないのよ。ここでこんな刺激に出会えるなんて。」
心底嬉しそうに言う薬鳳院さんにゾッとしたが、今まさに刺激的な状況に出会っているのにそう思うということはこの場所に慣れてしまったのかもしれない。
この場所にどのくらいの時間いるのかも分からないから無理もない。
「言っておくが、俺は分かったぞ。」
突然夜暗がそう言った。
皆まだ解けていないのか、びっくりした表情で夜暗を見ていた。
「まだ分かっていないのか?ヒントは”過去”だ。」
「過去…もしかして亡くなった方の話なのか?だがそうすると結末が1つというのは関係がある…」
そう呟くと、柳さんははっと急に顔を上げて分かりきった顔をした。
「私も分かりましたわ。単純な話でしたわね。」
薬鳳院さんも分かったらしい。
山下さんはまだ頭を抱えていた。
ウミガメのスープは普通何個も質問をしていくものだから問題文だけでは絶対に答えには辿り着けない。
といっても、皆が分かっているからこれ以上質問なんてする気も起きないだろうが。
「もう1つヒントをやろう。結末は1つ、それは本の中の話だ。実際には幾つも仮説がある。」
「仮説…そういうことか!分かったよ、ありがとう。」
山下さんはスッキリした顔で安堵していた。
皆んなに置いてけぼりにされるのが嫌だったのだろう。
「じゃあ夜暗、答えを。」
夜暗はドヤ顔でこちらを見た。
「正解は歴史小説だったから。だから皆知っている。
結末も教科書には1つに定まっている書き方をされているが実際のことは誰も分からない。」
完全な名推理だが、ドヤ顔で説明されると褒めたくなくなる。
「正解。それにしても皆流石だね。推理小説とか好きだったの?」
「私は警官だからな。分かって当然だ。」
「私は幼少期から様々な本を読んできましたの。」
「僕は特に何も…」
「俺はお前の言う通り、推理小説が好きなんだ。お気に入りの作家さんがいるぐらいにな。」
皆理由がバラバラなのが分かった。
ただ、夜暗にお気に入りの作家がいるとはびっくりだ。
薬鳳院さんは本を読んでそうな気品な感じがするからしっくりくる。
「お気に入りの作家って?」
「一瀬竜谷(いちせ りゅうこく)先生だ。知らないかとは思うが。」
その名前を聞いてまたもやびっくりした。
まさかその名前が出てくるなんて。
思いもしなかった。
「それって…私のお父さん、だよ…?」
「は??!」
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