第2話

少し気になることがある。

この部屋は光源がないのに明るいし、穴がないのに空気が循環されている。

というか息苦しさがない。

やはり何か秘密がありそうだ。

壁に手を当てながら歩いていると近くにいた山下さんに声をかけられた。

「何か見つかったかい?」

「いえ、なにも。そちらも見つかってないようですね。」

「あぁ、敬語はいいよ。不思議なところで出会ったんだ。年齢も性別も関係ないだろう。」

「分かった。山下さんは優しいんだね。」

「そんなことないよ。そういえば聞きたかったんだけど…」

そう言い、神妙な顔つきになった。

「なんでも聞いてよ。隠し事はしない主義なの。」

私は小さい頃から“小説家”の父に言われていたことがある。

“人を信じるためには信じられろ。隠し事は禁忌だ。全てを曝け出せ。”

その時はそれはやり過ぎなんじゃないかと思っていた。

だけど、友達が増えてゆくたびに言われることは、

“なんでも話してくれるから私も話しやすいよ。未零ちゃんは優しいんだね。”

そう言われるのがなんだか心地良かった。

私を皆が理解してくれる。

私が皆を理解してあげる。

そうする事で友達が増えてゆく。

私の歯車がずっと回っている感じがして楽しかった。

ここの皆も私の友達にしたい。

不思議な場所で出会ったこの出会いを大切にしたい。

だから隠し事なんてしない。

「じゃあ聞かせてもらうね…。義眼のことなんだけど…

 眼球がないのは生まれつき?それとも事故とかで?それとも…」

「山下さんはすごいね、そこに焦点を当てるなんて。私だったら絶対無理。」

「ごめん、やっぱり…」

「いや、いいの。私が目をなくした…いいえ、とられたのは6歳の時。」

そう、6歳の夏のとある日。



私の家は貧乏だった。

お父さんは売れない小説家。

お母さんはパートを掛け持ちしていて全然家にいない。

生活するお金はギリギリあった。学校にも行かせてもらった。

それだけで幸せだったはずなのに。


「ねぇ、君。綺麗な目をしているね。お金がたくさん貰える仕事があるんだけど、どう?」

その時、初めて他人に褒められた。

貧乏だったからよくいじめられた。

先生にも邪険に扱われた。

認めてもらえたかの幸福感で、思わず「やる」って言ってしまった。

その仕事は、目をあげるという単純なものだった。

それだけで100万くれると言った。

お母さんに喜んでほしかった。

お父さんに勇気を出してほしかった。

子供というのは単純すぎた。

金に目が眩んで、大人しく目をとってもらった。

封筒に入ったお金を渡され、中身を確認せずにるんるんで家に帰った。

それが駄目だったのだ。

お母さんに封筒を渡したら泣き崩れた。

私を抱きしめた。

痛いほどに。

私は何が起きているのか分からなかった。

喜んでいるのかと思った。


…お金が偽物だったのだ。

全て、偽物。

私の目はこの紙切れの為になくなってしまったのだ。

当時は義眼なんてもの買えなかったから包帯だった。

いや、包帯を買ってくれただけありがたかった。

私はお母さんにもお父さんにも愛されていた。

私も同様に愛していた。

だからこそこの悲劇は起こったのだと思っている。

今となっては腹立たしいことだった。



「…あ、ぅ、ぅお、あぁぁ、」

「や、谷瀬さん?!大丈夫?話させてしまってごめん、一旦深呼吸をしよう。」

「あ、ぁ、ぅあ、ん、…」

「寝ちゃ…った、…びっくりした、無理させちゃったかな。

 それにしても…」


「んん、…」

「谷瀬さん!」

山下さんの声で目が覚めた。

あの幸の薄い顔からこんな大声が出るなんて考えもしなかった。

…って、なんで寝てたんだっけ。

「谷瀬さん、ごめんね。僕が話させちゃったせいで。」

そうだ。あの事、話したんだ。

朧げな記憶ではあるものの、お母さんのあの時の顔は鮮明に思い出せる。

「…おぇ、」

思い出して吐きそうになるから早く忘れたいものだが。

「谷瀬を見ていて思ったんだが、ここ、食料がねぇよな。」

「なんで私を見て思ったの?」

「吐きそうにしてるから水でもと思って。」

意外と優しいところあんじゃんと言おうとしたけど口が悪い返答が返ってきそうだからやめた。

「ただ、吐きそうにしている人に水は駄目ですわ。自分で飲めるようになるまでは多量摂取してしまって吐き気を強める可能性がありますのよ。少しずつという加減が人によって違う場合も…」

「こいつがこう言うんでやめたがな。まずまず水がねぇってことに気付いたんだよ。」

確かに、穴がないのだから搬入口などもないはず。

私達はここで餓死をするしかないのか?

「それなら、定時になると補給されるとか言ってたな。」

柳さんがそう口を開いた。

定時になると補給される?どこから?誰からそれを聞いたんだろう?

「そういえば柳が一番最初に起きてたな。誰から聞いたんだ?」

「ちょっと待って、どういう順番に起きたの?」

一番最後に起きた私からするとちんぷんかんぷんだった。

「あぁ、最初が柳。その次が俺。その次が薬鳳院。んで山下。最後がお前だ。」

「そう、私が最初だ。ここにはスピーカーも何もないのにおかしい話だとは思うが、私が起きた直後に上から聞こえてね。あと、妙なことも言っていたな…」

上から…。やっぱりなにかあるとしたら上、天井なのだろうか。

ただ、誰の身長をもってしても届かないぐらい高いけど。

「妙なことって?」

「“ここは漆黒の闇。出るべからず。”だったかな。」

漆黒の闇?一面真っ白なのに?

そういえば、薬鳳院さんも山下さんも洞察力に優れていたな。

夜暗と柳さんは場を回すのが上手い。

皆案外すごい人なのでは?

それにしてもなんでこの5人なんだ?

なにか共通点があるはず…。

「ねぇ、皆。少し試したいことがあるんだけど。」

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