第8話 ゴブリン村にやってきた

銀色の短い髪をなびかせ、鼻歌を歌いながら尖り耳が特徴的なエルフ、エレノアは一人歩いていた。


サモンと別れ、一週間が経ち。

未だに誰ともパーティを組む事無く、ただ、歩いている。


「お腹空いたなー」

ぐううとお腹を鳴らせたエレノアは、木になっているリンゴを見つけると、一個むしり取り笑顔で頬張った。

「少し酸っぱいけど美味しい!!ああ、三日ぶりの食事だぁ」

サモンから貰った干し肉を僅か二日で食べ終わり、食べるものも無く困っていたエレノアにとってはこの酸っぱいリンゴですらごちそうに感じていた。


「それにしても、誰もパーティに入れてくれない……」

サモンと別れた後、エレノアはいくつかの種族に遭遇し魔王になるつもりは無いかと尋ねていたが、どの種族も魔王になるとは言わなかった。

それどころか、吸血一族には血を吸われそうになるわ、鎌一族には殺されそうになるわと散々な目に遭っていたようで、エレノアはこの第一層にいる事自体無意味だと思い始めている。


「そもそも、第一層出身で魔王を目指す物を探す事自体が間違いだったのかな」


第一層の魔物は弱い。

ここを根城にし、生活をしている種族のほとんどが魔王を目指す事などしない。

魔王になれるわけが無い。

魔王がいようがいまいが関係なく平和に過ごしたい。

魔王がいなくなった今の魔界の治安の悪さに巻き込まれ、迷惑している。

第一層に住まう魔物はある意味被害者でもあった。

関係の無い争いに巻き込まれ、弱者だと虐げられ、奴隷のように扱われる今の魔界にうんざりしている。

人間に魔王が負けた事で一番がっかりしているのはここに住まう魔物達だ。

また始まる魔王を決める為の争いに巻き込まれてしまう事が……。

それ故に自ら争いの場に行こうと誘ってくるエルフのエレノアに嫌悪感を抱く。

ある所属はエルフの頼もしさに一度は魔王を目指そうとはした物もいたが、目の前に立つエルフが戦えないと分かると、すぐに旅立つ事を止め、エルフを追い出した。

それにもう一つ、エルフを嫌う理由もある。


【エルフは人間側に付く事が多い】


魔界でエルフの地位はそこそこ高い。けれど、パーティに入れたいと思う種族は少ない。

人間側に付き裏切る可能性のあるエルフをパーティには入れない。

魔界ではエルフはそう言われている。

しかし、エレノアは人間界に行きたい。

ならば、第一層に行けばエルフの噂はそこまで広がっていないのでは無いかと来てみたが、ほとんどの種族が知っていた。

煙たがられ、追い出され、時には襲われる。

けれどエレノアは諦めず歩き続ける。

仲間になってくれる種族を探して。


「えっと……この先には確か」

エレノアは手に持っている地図を確認する。

この先にあるのはゴブリンが集まる村だ。

「ゴブリンか……よし、ダメ元で行ってみるか」

エレノアはエルフである事を隠す為に、ローブに着いてるフードを被り、特徴的な耳を隠す。

エレノアは集落の入り口に立つ、こん棒を持ち、片手にパンパンとリズムよく叩くゴブリンに話し掛けた。


「あの……ここってゴブリンの村ですよね」

ゴブリンはぎろりとエレノアを睨む。


……まずい。襲われる。


エレノアは逃げる準備をしたが、ゴブリンは笑顔になり、エレノアに話し掛けてきた。

「やあ。ここはゴブリンの一族が集まる集落さ。なにかご用かな?」

「えっと、ここで一番えらい方に会いたいのですが?」

「村長かい?なら、ここを真っ直ぐ進んだ先にある、屋根の両端に大きな角が左右に付いてる家が村長の家さ」


エレノアはお礼を言うと、村の中に入り、言われたとおり真っ直ぐ進むと、屋根の両端に大きな角が左右に付いている家を発見した。

村長の家と言うだけあって他の村人の家と比べ立派な家である。

エレノアはドアをコンコンとノックをし、ドアを開ける。


「村の入り口にいた人は随分と優しい人だったけど……実はボクを貶める為の罠だって事は」


エレノアは恐る恐るギシギシと軋む廊下をゆっくり進んでいく。

明るい部屋にたどり着いた。

中には、顎が長く、下顎から鋭い牙の生えた風格のあるゴブリンが立っている。

エレノアはゴクリと唾を飲み込み、恐る恐る話し掛けた。


「あ、あの。あなたがこの村の村長さん?」

「ああ、そうだとも。こんにちはエルフさん」

ゴブリン村の村長は、エレノアの存在を知っていたようで、笑顔のまま話し続けた。

「ここ最近、第一層にいるはずの無い、エルフがうろうろしている。そう噂に聞いててね。君がそうなんだろ」

「はい……」

「要件もなんとなく分かる。しかし、悪いが、君の力にはなれないよ」

「……そうですか。わかりました。いきなり来てすみませんでした。迷惑でしたよね」


エレノアは気持ちが沈んだのだろう、表情が一気に暗くなった。


「残念そうだね。そんなに人間界に行きたいかい?」

「はい。でも、無理ですよね……ここに来るまでに色々な所属に話してみたんですが」

「ふむ。なんとか力になってやりたいがな。うちの村一番の戦士を君の旅のお供にしてもいいが」

村長の突然の言葉に、

「本当ですか!!」

エレノアは声が弾み、身体が身軽に動く。

「ただし。しょせんはゴブリンだという事を理解してもらえるかな?」

「えっと、それは……」

「エルフなら、わかるよね。いくらこの村で強くても一歩外に出れば、弱小。第二層ですら、生き抜く事が難しいさ」

「……」


ゴブリンは弱小。

人間界で勇者が最初に遭遇するモンスターの代表格。


そんな魔物が魔王になれると思ってんのかと村長は言っている。


「ゴブリンでははっきり言ってまるで役には立たない。なら、どうするか。一応私の友達を紹介しようか」

「友達ですか?」

「そう、友達。強いよ。ここら辺じゃ、一番と言ってもいい」

「そんな方がいるんですね!!ぜひ、紹介して欲しいです!!」

エレノアは身体を前のめりにして、テンションが上がり、目をキラキラと輝かせ村長を見た。


「ああ、ここからずっと西にある所に住んでいるsy……」


村長の言葉を遮るかの様に廊下の方からドタドタとエレノア達に向かって走ってくる音が聞こえてくる。

足音が収まり、一人のゴブリンが息を切らせ焦った表情で村長に話し始めた。


「た、大変です!!オークの軍勢です!!」


ゴブリンの村にオークが襲撃した瞬間だった。

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魔王になる為に なむむ @namumura

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