金糸雀のスカーフを貴女に

地崎守 晶 

金糸雀のスカーフを貴女に

「ふふ、かわいいわね」


 貴女に微笑みかけられてご満悦の金糸雀かなりあが妬ましい。

 勇気を出して二人きりで動物園に来たのに、貴女の白い首筋に浮かぶ鬱血痕が嫌でも目に入る。

 わたくしのことなんて貴女の目には映らないの?

 その痕を付けたのは誰?

 晴れ晴れとして軽やかな早月さつきの空さえ今は怨めしい。

 繕った笑顔の裏で悶々としていると、せっかくの合瀬はもう夕暮れで。後は土産物屋を残すばかり。

 ふと、嫌いになった色が目に入る。


「お姉様、我が儘言ってよろしくて?」


 買い求めた品を、物陰で貴女の首に巻く。

 憎い金糸雀の色のスカーフ。ふわりと甘い香りにくらりとなる。

 貴女の身に付けていない色を。赤い痕を覆い隠すように。


「有難う。綺麗な黄色。似合うかしら」

「ええ、お似合いですわ、お姉様」


 主張する。叩き付ける。

 わたくしのものだと。


 



 




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金糸雀のスカーフを貴女に 地崎守 晶  @kararu11

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