8.異世界の海軍と、本当の海戦
シルメニア小国の王都より南の都市パンタローレ…
ボンゴルレ伯爵が納める大きな港都市に、30以上の戦列艦が港に停泊していた。
「どうですか?伯爵様。我が領内最高の艦隊は」
「実に素晴らしいぞ、将軍よ。これなら、例の鋼鉄の軍艦とやらも一網打尽に出来るぞ」
「ええ。何せ、上砲が30門、中砲が28門、下砲が30門に加え、船首には最新鋭のカノン砲が二門付いております。その上、砲弾を1600m以上の距離も飛ばせますから、敵は一溜まりもありません」
艦隊を指揮する将軍の言葉に、ボンゴルレ伯爵は満足の笑みを浮かべながら、領地から強制召集させた金属職人達に鉄板を製造させ、艦の装甲として従来の木造貼り付けさせて完成した新造の装甲戦列艦を眺めていた。
その後、この30の戦列艦を使った観艦式を行おうと艦隊を港から出航させようとした時である…
空から聞きなれない低空音が鳴り響き始めた。
「な、なんだ…この音は?」
「伯爵様と将軍様!?アレを見てください!!」
一人の兵士が空に指を指し、伯爵と将軍も兵士が指す方向へと目線を向けた。
そこには、巨大な飛竜でもなければ羽の付いた魔物でもない、あるのは金属で出来た”鳥”みたいな物であった…
「金属の鳥…いや、あれは噂でいう飛行機という乗り物か…!?」
「ま、まさかそんな物が…!?」
「伝令!沖合い50000mにて所属不明の巨大な軍艦が三隻出現しました!しかも…黒塗りの鋼鉄の軍艦です!!」
「何ぃ!?」
伝令兵の言葉に、将軍は我先に双眼鏡を使って沖合いの方向を見た。
そして、遥か沖合いにいる三隻の軍艦を双眼鏡によって豆粒程度の大きさで見つけた…
伝令兵が報告する少し前…
その沖合い50kmにいる”大型”の巡洋艦三隻にて…
―木造ノ軍艦…?コノ世界ノ人間ノカ…―
―興味ガ無イ。我々ハ急イデルノダゾ―
―分カッテイル。我々ハ、必ズコノ世界ヲ出ナケレバナラナイ―
―ネェ。オ姉チャン達…アレ、クインシーガ頂イテモ良イ?―
一隻の重巡洋艦が反転し、人間達の入る港へと船首を向けて航行し始めた。
―クインシー!戻レ!シスターサラノ命令ヲ無視スルノカ!!―
―構ワン、ヴィンセンス。アノ子ハ人間ニ対シテ恨ミガ強イ。好キニサセテヤレ―
―…了解、アストリア姉サン―
残った二隻の重巡…ニューオリンズ級重巡洋艦二番艦アストリアと七番艦ヴィンセンスはその場に止まり、飛ばしていた偵察機達の帰りを待つと共に港へと向かっていった六番艦クインシーの姿を眺めていた。
飛行機が港から離れていった代わりに、三隻の内一隻がパンタローレの港に向かって突撃してくるのを目撃した将軍は声を荒げて兵士に命令した。
「全艦!出向して迎撃せよ!敵は一隻だけだ!!我々ボンゴルレ海軍の力を示せ!!」
将軍の命を受けた兵は早馬に乗って直ちに港へ向かい、停泊している戦列艦の郡を動かすようにした。
だがその時…沖合い30000mまで接近した三隻の内の一隻が甲板から港に向けて発光させた。
その僅か23秒、30隻のうち6隻の軍艦…それも第二等戦列艦クラスの軍艦六隻がその30000m先から飛んできた砲弾を中央の胴体へと直撃し、砲弾の爆風で火薬庫を引火させて爆破させ、一撃で撃沈してしまった…
それも、僅か数分の出来事である…
勿論、その光景は伯爵と将軍にも届いており、二人はおろか周りにいた人間全員が戦慄を走らせていた。
そして…
「い、急げっ!奴が次の砲撃を行う前に出撃しろ!あんな巨大な砲弾が発射するまで…」
伯爵がそう言いかけた時、沖合いにいる鋼鉄の軍艦か再び発射炎の光を放ち、まだ健在である戦列艦達を次々に当てていった。
停泊している動かない軍艦など、ただの的に過ぎない…
ましてや、対空機銃も
そして、鋼鉄の軍艦に搭載されている
かつて、”本来の世界”で水底に沈んだ重巡洋艦クインシーにとっては、レーダー射撃は得意分野であるため、電波を反射して探知した軍艦など的当て感覚で当てるのは容易い事だった…
その上、分間3~4発も発射出来るMk.Ⅸ 8インチ(203mm)3連装砲が三台、合計9門の砲塔が交互射撃を行う事で絶えず休まずに砲弾が飛び交わせていた…
伝令兵を送って僅か2分後…30もあった巨大な木造戦列艦は港に停泊したまま大炎上しながら、港内の水底へと沈んでいった…
その光景に、将軍は我先へと港へと向かって馬を走らせ、ボンゴルレ伯爵はその場で地面に座り込んで茫然としていた。
「わ、儂の軍艦が…儂の艦隊が…」
自分が手塩に育て、シルメニアの国庫から搾取して作り上げた最新鋭の戦列艦艦隊が僅か二分で全て撃沈された事に、伯爵は精神崩壊を起し、静かに笑い始めていた…
だが、その原因を作った沖合いに居る鋼鉄の軍艦は、軍艦以外にも砲身を向けていた…
伯爵が壊れ始めて一分後、再び鋼鉄の軍艦から火が放たれ、今度はパンタローレ都市まで攻撃をし始めた。
第一等戦列艦を一撃で大破撃沈させた8インチ砲の榴弾はおおよそ110kg(262ポンド)、そんな弾が当たれば木造二階建ての建築物など軽々に破壊できるだろう…
次々に飛んでくる砲弾の雨に、パンタローレの住民達は悲鳴を上げて逃げまどい、中には砲弾の爆発に巻き込まれて死ぬ者まで現れ始めた。
だが、パンタローレの住民も黙っては居なかった。
これ以上都市を破壊させまいと冒険者達が立ち上がり、都市内の冒険者ギルドから義勇兵を派兵させ、海に一番近い高台の丘にて沖合いから砲撃し続ける鋼鉄の軍艦に向けて大魔法を展開させた。
軍艦を破壊する為の巨大な火球の魔法、軍艦を麻痺させる為の落雷の魔法、軍艦を転覆させる為の竜巻の魔法など…
冒険者達が全力で出せる魔力全てを使って発動させた魔法を、破壊の使者へとぶつけていった。
しかし…
―小賢シイ、真似ヲ…スルナ!!―
鋼鉄の軍艦から発せられた女の声と共に、海の水が赤く染まっていき、空が薄暗い雲が発生すると共に冒険者達から離れた魔法が全てかき消されていった…
それと同時に、奥で待機していた残りの同型艦二隻も合流し、先に砲撃していた一隻を援護する様に冒険者達が居た高台の丘へと8インチ砲による射撃を行い、そして停止した。
―何ヤッテイルノ!?バカ!!―
―赤キ海ノ力ヲ不用意ニ使ウノハ、命令違反ダゾ!―
―オ姉チャン達ハ黙ッテテ!アンナ…アンナ非現実ノ力ナンテ…ナクナレバイイノヨ!!―
三隻の艦から発する三人の女の声が互いに言い争い始めると同時に、陸への砲撃を止めてしまった。
しかし、一隻の軍艦から発する赤き海への力により、砲撃から生き残った冒険者達が再び魔法を展開するもかき消されるという状況は変わらなかった。
だが、その時であった。
三隻の軍艦がいる場所の別方角から霧が立ち込め始め、そこから鋼鉄で出来た複数の軍艦達が一斉に出現し、先程の三隻の軍艦へと砲撃を開始し始めた。
―主砲!旋回急ゲッ!ウチーカターハジーメー!!―
霧から出現した艦隊の旗艦らしき重巡洋艦は、甲板に搭載されていた探照灯を目潰しとして三隻の軍艦の内一隻に照射し、同じ大きさの主砲…20.3cm砲5基10門を行動不能になった一隻に向けて一斉に発射させた。
―アノ艦ハ…!?引ケッ!クインシー!!―
アストリアがクインシーに警告を出しながら、探照灯を照射している重巡洋艦に向けて砲撃を開始、双方ともに弾を
一方、霧の中から出現した複数の軍艦達もまた旗艦の重巡洋艦の砲撃に合わせながら、敵方の砲撃に怯む事無く弾を夾叉させるように撃ちこみ始め、互いの艦体近くで砲弾による爆発で水柱を作らせていた。
距離、9000…8000…7000…
お互い命中させる事も無く打ち合いによる威嚇のようであるが…一瞬の油断を見せれば海の藻屑として消える。
そんな豪雷の爆音と水柱による戦が続いた。
そして、アストリアがクインシーに接近し、再び警告を出しながら曳航用のワイヤーを出そうとしていた。
―引ケェ!クインシー!アノジャップノ艦ハ
アストリアのその言葉に、クインシーは艦の
しかし、姉の言葉に冷静になったのかクインシーは砲撃を止め、艦を反転させた。
―分カッタ。従ウヨ、姉サン―
クインシーはそう言いながら、目的地である味方艦体に合流すべく艦を航行させ、そして再び旗艦の重巡洋艦:鳥海に睨みつけて言葉を発した。
―ソロモンノ恨ミ、絶対ニ果タシテヤル―
―何時デモカカッテ来ナサイ―
互いに言葉を放ち終えると、黒塗りの軍艦達は赤い霧に包まれてながら奥底へと消えていった…
残っていた別の軍艦達もまた、次々と白い霧の中へと入って行き、そのまま消えていった…
殿として最後まで残っていた旗艦の重巡洋艦…高雄型重巡洋艦の四番艦:鳥海はクインシー達の砲撃によって焼かれたパンタローレの街並みと、奴等…水棲生艦が放つ赤い霧と海によって無力化された現地の冒険者達の無惨な姿を遠くから眺めていた…
―…酷イ有様ネ。同ジク、水底ニ沈ンダ者がやる事ではないわ―
その声と共に艦体から淡い光を放ち、誰もいない甲板の上に軍服を着た女性の霊体がゆっくりと現れ、静かに涙した。
―私達の戦争は…何時になったら終わるのでしょうか…―
そう呟いた鳥海の
時同じくして…
丘の上で傷ついて力尽きた冒険者達の姿を見ていた黒いローブを来た人族の女性がいた。
「彼等による創生の闘争は、まだ終わらないわね…」
そう言い残した女性は黒い霧を纏いながら静かに姿を消した…
―――――――――――――
パンタローレの悲劇と同時刻にて…
ヴェールヌイを含む連合艦隊は”敵側”の航空攻撃に晒されていた。
「取り舵いっぱい!前方の航空魚雷を避けよ!!」
敵水棲生艦にいる航空母艦から飛び立つTBFアヴェンジャー艦上攻撃機による航空魚雷郡を回避し、SBDドーントレスによる爆撃機の爆撃の雨を避けていた。
一方の連合艦隊側から放たれた艦上戦闘機達は敵のF6Fヘルキャットによる猛攻を避けるのにいっぱいであった。
「やはり、零戦の後期型である五二型甲でも駄目か…」
「あれが一番こちらに流れ着いたとはいえ、地獄猫相手には厳しい物だろう」
「せめて烈風の修復製造が間に合えばいいものの…それは贅沢か」
オルフェウスとアレクサンドルは無線で呟きながら、互いの航空隊の様子を双眼鏡で確認しながら指示を送っていた。
改良版である五二型とはいえ、2000馬力もあるヘルキャット相手に引き離すのは難しく、その上装甲面でも弱いために一発でも被弾すれば大破炎上は免れなかった。
過去の大戦にて生存率の低さを問題視していた為、今の異世界に流出してからはコックピットからの脱出する機能を後付け改造されたが、それでも海の上空で炎上すれば厳しい物である。
だが、それでも今のこの状況からすれば貴重な制空権を取る為の兵器として使わざるを得なかった…
ただ、相手の差を埋めるには搭乗員の熟練度を付ければいいのか、今飛んでいる航空部隊の搭乗員は全員熟練員と呼べるに等しい凄腕の持ち主であった。
彼の有名な友永隊の如く、寝る時間も惜しんで飛行訓練を重ねた精鋭達はヘルキャット達の猛攻を何も苦もせずに避け続け、中には追い回して撃墜する者もいた。
それでも、飛び続けるのにも限界があるため、長引けば不利なのは変わらなかった…
一方のエルミアは…この激戦の海を目を見開きながら光景を焼きつけ、恐怖を覚えて震えながらも一兵卒として動き続けた。
(これが…これが異世界で行われた戦争…!?)
エルミアが知っている海戦とは、船に積まれた無数の砲弾が飛び交い、船通しが接近して白兵戦をするか、もしくは竜が空を駆け巡って火を吹く程度であった。
しかし、今目の前で起っている戦いは別だ…
一つの砲門が間髪入れずに発射する度に巨大な水柱が上がり、水中からは敵駆逐艦や艦上攻撃機から放たれた魚雷の群れが泳いで爆発し、空には黒色と緑色の飛行機が機関砲の火を吹かせながら飛び交っていた。
それこそ、伝説の魔王退治に出てくるの御伽噺の戦争と同じみたいに…
(あまりにも酷い…魔力も異能もない世界で…こんな悲惨な…)
魔力を持たずに育った異世界では、進化する為に科学に頼り、発展させてきた。
その発展する力が一気に爆発させたのは、皮肉にも二度に渡る世界大戦であった。
侵略と復讐による絶え間ない怨嗟。
それによる人間への終わりなき
扱い方を知れば、魔力や力の無い平民ですら人を殺せる銃の様に、兵器の扱い方を知っている亡霊や亜人達の連合軍に鋼鉄の軍艦や飛行機を与えれば戦えるのだ。
だが、その力を持ってしても、目の前の”まつろわれた兵器”達の恨みには悪戦苦闘をするばかりであった…
あの二度目の大戦よりも改修されたとはいえ、やはり強大な”合衆国”で作れた兵器の前にはそう上手くは行かない…
エルミアが乗るヴェールヌイの高角砲の援護をして敵戦闘機を撃墜するも、数が多すぎた。
その上、性能差による長期戦には時間が経つにつれ徐々に弱り始めた。
緑色の塗装された零戦が燃料不足による速度低下により、後ろに回りこんできたヘルキャットの機関砲を受けて炎上…
また一つ…また一つと落下していった…
そのヘルキャットを次々に飛ばし、別方角へと曳航し続ける3隻の軍艦を狙い続ける空母がいた…
―絶対ニ…進マセナイ…アノ冷タイ水底ニ、沈メテヤルヨ…!!―
黒色のタールに塗れて鈍く輝く軽空母…
カサブランカ級護衛空母の19番艦ガンビア・ベイはレイテの復讐者として、姉の9番艦セント・ローとインディペンデンス級空母の2番艦プリンストンと共に猛獣の如く追い続けた…
その遥か後ろから、星のシンボルマークを付けた青く塗装された戦闘機の群れに狙われてるも知らずに…
――――――――――――――
申し訳ありませんが、現在ストックあるのがここまでです。
現在続きを書く予定の目処が立っていませんので、ご了承を…
追憶のヴェールヌイ(先行公開+未完成版) 名無シング @nanasing
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