第1話 08/08TURN

 ナコエーはメイドの突然の行動に戸惑いながらも、最初から抱いていた疑問を口にする。

「……急にどうした。今さらだが、この臭いは平気なのか?」

「はい。私は嗅覚障害なのですが、お薬のおかげで少しだけ臭いがわかります」

「薬……か」

 この液体は何かの薬だとワジュメゾンは速断していた。

 薬ならば飲むか塗るなどして何かしらの効能を働かせるものだが……本当に薬なのだろうか。

 メイドはエプロンドレスのポケットから取り出した防護手袋をはめ、大壺を冷静に立て直していく。

「薬学者を待たなくていいのか?」

「待つ必要はありません、私がお片付けします。液体は毒性が非常に強いので貴女様は離れていていください」

「……毒薬か」

 大壺に付着した液体を雑巾で拭き取るメイドの姿に健気さを覚えたナコエーは、悩んだ末に目的を打ち明かす。

 この城の闇の部分に思えた彼女が、この国をどう思うのか気になったのかもしれない。

 言うべきではないと考えながらも好奇心が勝ってしまった。

「王の間はどこにある?王妃には悪いが、国王を殴りたいんだ」

「あちらの大階段を上り進めば辿り着きます」

「……国王を殴っていいんだな?」

「国王様は貴女様のような勇敢な戦士にお会いできると喜びになられます」

「勇敢な戦士じゃない、傭兵だ。……困り事があったらギルドハウス・アジキングに来て、あたしを雇え」

「傭兵様……なのですか……?」

 ナコエーの言葉に心を打たれたのか、メイドは大粒の涙をこぼしながら頷いた。

「傭兵様……。私はお兄ちゃんにもう一度会いたいです……。こんな依頼でも受けてくれますか……?」

「もちろんだ。ギルドハウス・アジキングで待っているからな」

「はい……必ずお伺いします……。……あの、お名前は……?」

「王妃から聞いていないのか。あたしは、ナコエー。お前は?」

「メヘフと申します。ナコエー様、ご武運を……」

「メヘフ。お兄ちゃんに会わせてやるからな」

 ナコエーは大壺をメヘフに任せて、大階段へと歩き出した。

 大理石で作り上げられた壮大な大階段を一段一段上がるたびに、足元から広がる重厚さが緊迫感を生み出す。

 国王ギユマエユト。

 搾取する側の頂点に立つ者が、この先にいる。

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ポルキリーフォーカナレッジ 創生の正義 儚月雷叶 @hakanatsuki_raikana

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