第43話 毛治谷いやしの視点

「今日はあんまり納豆たべないんだね、お兄ちゃん」


「……ああ、うん。変な時間に月見納豆を食べたもんでな。お前は夕飯しっかり食べるんだぞ、いやし」


 はじめお兄ちゃんはそう言うと、腐った白目でちょっとだけ笑った。

 それから何か考え事でもしているみたいに夕ご飯の席を立つと、キッチンに移ってぼんやり洗い物と食器の片づけをはじめる。

 

 その背中をなんとなく見ながら、私がお兄ちゃんの焼いてくれた納豆オムレツをモグモグほおばっていると――。

 キッチンから、ふと思いついたみたいに後ろ姿のままお兄ちゃんが言った。


「なあ、いやしさんや。世界ってのはいったい、何なんだろうな」


「うん?」


 いつもと同じやさしいはじめお兄ちゃんの、でもいつもと少しだけちがう声。


「こんな世界で生きてるとさ、何がどうなってんのか、さっぱりわからんときがあるよな」


「……うん」


 私は納豆オムレツをほおばりながら、ただ返事をしてみる。


「たまにさ、世界なんてみんな作りもんじゃねえかって思ったりするよ。誰かが仕組んだ悪い冗談じゃねえのかってさ」


「うん」


「本当の世界はどこにあるんだろうな。……本当のあいつは、……本当の俺はどこにいるんだろうな」


「うん」


「……でもやっぱ、みつけるしかねえよな……」


「うん」


 くわしいことは、よくわからない。

 何も知らない。


 だけど妹の私にも、これだけは言えそうです。


 お兄ちゃん。


 あなたは、もうはじめは、いまきっと――。


 世界をみつけようとしているんですね。

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