二章 四ノ回

そつ無く朝ご飯を食べ終え、受付の直ぐ横の壁に貼ってある街の地図を見ながらミレアに街の事を聞いていた。

「アルアの街は円形の都市になっていて、全部で五つの街区に分かれているの。中央街は領主様が住まわれているお城が有って、物価が高いけど良い装備や良質な食材とかも売っている場所ね。北側に位置する外周区・北では職人さんが多く鍛冶屋さんや宿屋で使う様な食器を作る木工職人さんとか鎧とかを作る防具屋とか、あとは衣類を製作してくれる所もあるわね。ここから一番遠い外周区・東はちょっと言いにくいんだけど娼婦街しょうふがいとか貧民街ひんみんがいになるわ。正直、出所不明な物が多くて普通の人は近寄らないかな。ただ別に大通りに面してるお店や通る分には問題無いけど…一本路地を入ると危ない人達とか娼婦宿とかあるから気を付けて下さいね。外周区・南は商人街で私達が大体買い物をするはこっちね。特定の日には朝市もあってアルアの街で買い物するならここって言われる程に南で買い物すれば大体の物は揃いますので、作ってほしい料理の食材とかあればここで買ってくれば大丈夫ですよ。最後に宿屋『木漏れ日の黒猫』がある外周区・西は宿屋や雑貨、加工品のお店が多いわね。先程、聞かれた安くて良い武具を扱ってるお店があるのもこの西地区になるわね」

「ふむふむ、まぁどこに行っても娼婦街が切って切れない存在で御座るよ。拙者もそれこそ昔は…」

途中まで言いかけると虫を殺す様な目をするミレアの視線に気付き、軽く咳払いして続きを話した。

「…遊郭※ゆうかく御姉様おねえさま達によく遊んで貰ったで御座る…幼き頃の話しで御座るよ」

公娼こうしょうを集娼方式によって一定区域内に集団的に居住させておく場所。現代では風俗の法律の在り方が違う為、廃れた文化ではあるが『龍〇如〇』というゲームではとある地下に遊郭を模した場所があるので分からない方はそちらを見てみると分かり易い。因みにどうでもいい話しだが、本番行為は現代では法律で禁止である。

何とも言えない表情をしたミレアを見て彼はこうも話した。

「親無しの拙者には御姉様方のお陰で育ったようなもので御座ろう。拙者は知識は彼女らによって教えてもらったような物で御座るよ」

ようやく察したミレアはバツが悪そうに話した。

「ああ…何かごめんなさい…知らなかったとはいえ…」

「良いで御座るよ」


―――――――――――――――――――――――――


現在地/アルアの街/外周区・西/武器・鍛冶の『東国とうごく』屋』


ミレアに紹介された武器屋はこの東国屋というお店だった。歩いて三分圏内の良い場所である。

話しを聞くと、どうやら東国出身の鍛冶師が二十年前にこっちに引っ越して来たらしく割かし安価で良質な武器を置いてるという事だった。しかも、ここには何年前からか…刀らしき物が置いてあると聞いた。

拙者はお店の中で土下座をしている…。

「お願いしますで御座る!拙者、あの刀が欲しいで御座る!!」

お店の御主人と思われる方もご婦人も凄く困った顔をして彼を見ていた。

「いやぁ…欲しいと言ってくれるのは有難いが、こいつは親戚の者から金を用立てでぇと言うもんだから、買い取った物だからよぉ…」

白鞘に納められた刀のお値段…白金貨一枚!この世界で白金貨一枚というと…そもそも白金貨一枚は金貨百枚となります。そして、この世界では宿泊費用は銀貨一枚あれば素泊まり出来ます。銀貨で換算すると銀貨で約二千枚となります。宿泊で素泊まりのみと考えると二千日以上宿泊出来る事になります。江戸時代の宿泊費は約百五十文~三百文と言われています。

※銅貨一枚は幕末の時代の貨幣価値で約二十文として…銀貨一枚で百文…金貨一枚で四千文という感じです。因みに江戸時代の両替で四千文というと江戸初期ではざっと概数になりますが一両の価値が四千文と言われてました(幕末時は一両は八千文を超えてました。Google調べ)。

…と言うのも…少し前に遡る。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

≀ ※以下、無理矢理計算させて出した価値。                 ≀

≀ (幕末と異世界の設定上摺り合わせが必要な為…多分間違ってると思います)  ≀

≀ 一番高い宿泊費 ÷銀貨一枚と銅貨五枚                   ≀

≀ 300÷1.5=20 という無理矢理計算させて出した計算法。          ≀

≀ 20というのが銅貨一枚二十文という答えを出した方法です。        ≀

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――






―――――――――――数分前。


店に入り武器の刀身を見るだけで分かるその良さだ。この鍛冶師は腕が良い…銅製の剣を見てみると綺麗に磨かれており、いつ売れても大丈夫なようにしてある。その剣のお値段は金貨一枚だ。材料費が安いからと言っても職人が魂を込めて打った剣が金貨一枚とは驚きなのだ。

奥に居たご婦人が話しかけてきた。

「いらっしゃい、今日は何がご入り用で?」

「拙者は此処に刀があると聞いて参った次第なのですが、見せて頂けないで御座ろうか?」

するとご婦人が少々困った顔をして、言ってきた。

「刀ねぇ…ちょっと待っててもらえる?主人を呼んでくるから…」

そういうとご婦人が中へ入っていった。

しばらく待っていると奥からこのお店の御主人が出てきた。何というか服装はこっちの世界の感じで顔が元に居た世界のような日本人の顔立ちをした人だった。

「俺はこの店の主人をしている鍛冶師のヒダチ・タナカってもんだが、刀が見たいと聞いたが東国の者かぁ?」

「そうで御座る…一度どのような刀なのか見てみたいと思い参った次第で御座る」

「そうかぁ、それはぁ別にいいけど、結構するぞ…兄ちゃん。その奥に鞘に入った物が刀だ」

ぶっきらぼうではあるが、キチンと商売はしようする気概はあるようだ。

殆どの武器は外に剥き身にされているが一つだけ刀置きに置かれた二振りの刀が有った。

それを手に取ると伝わる刀独自の緊張感、そしてその刀自身が抜かずとも分かる…業物特有の気配。

「ご主人、鞘から出しても宜しいで御座ろうか?」

「ああ、別に構わないが刀身は触らないようになぁ」


チャッキンと音がする…静かにゆっくりと抜いていく。ゆっくりとその輝きを放ちこの世界に産み落とされたその業物の刀。鞘から出された刀は切っ先まで美しく、丁寧にそして大胆に力強く鍛錬された刀は誰もがウットリとしてしまうほどに強烈な輝きを放っていた。

そして、ゆっくりと鞘に戻し…また元の場所に戻した。

ヒダチは後ろから見ていて思った。妙に彼の刀のにである。元から刀を扱っていたかのような持ち方、それに触る前に刀にお辞儀をした事、そして横顔から見えていた彼の目付きだ。

「ご主人、良い業物で御座る」

彼は思った…あれは名刀だと!そう確信したが恐らく金子きんすが足りないのだ…。

「そうかい、アレを業物として見てくれたのは、このアルアに刀が持ち込まれてから初めての事だ」

「それで、御主人…あの刀はおいくらで御座ろうか?」

「…すまねぇ…兄ちゃんが業物と褒めてくれたし、売りたいんだがな…脇差込みでも白金貨一枚なんだ…」

つばの装飾の間に紐が通されており、その先に紙があり…書かれていたのは白金貨一枚と…。

すると、彼は綺麗なまでに土下座をしていたのだ。

「お願いで御座る!拙者、あの刀が欲しいで御座る!!」

お店の御主人と思われる方もご婦人も凄く困った顔をして彼を見ていた。

「いやぁ…欲しいと言ってくれるのは有難いが、こいつは親戚の者から金を用立てでぇと言うもんだから、買い取った物だからよぉ…」


実はご主人達から話し聞いた所によると…数年前に東国に暮らしている従兄いとこから急に金子が

必要になり、どうしてもという事で婿入むこいりした家の家宝を売りに出したそうだ。だが、それは思いの他に高価な刀だという事が鑑定で分かり、白金貨一枚で買い取ったそう。

白金貨一枚じゃ利益にもならないがどうしても売らないと大損してしまうので数年間ずっとこのお値段で置いてるらしい。


「だから、こちとら大損こかないならもっと安くてもいいと思ってるんだけどさぁ…鑑定で業物というのが分かったからなぁ…仕方なく利益無しの出血大サービスで出してる訳だよ」

「そうで、御座ったか…それは大変申し訳なかったで御座る…」

そういうと完全に凹んでいる彼を見て何か思いついたようだった。

「兄ちゃん、腕は悪く無さそうだからよ、もしあれだったら冒険者ギルドに行ってみないか?」


この時、一つの天啓を受けたようなそんな感覚だった。

果たして、それは天啓となるのか、それは今後の物語で語られて行くだろう。


次回、二章 伍ノ回へ続く。


――――――――――――――――――――――――――

~歴史ポイント~番外編① 白金貨と激ムズ国家資格(名無志士のいつ使うか分からん設定)


今回の歴史ポイントはこの名無志士における異世界の白金貨についてお話しします。


※白金貨の需要と貨幣の製造※

先ず、白金貨※①は基本的にどのような場合に使われるか言うと…平民は使う事はありませんが貴族と商人は大きく関わってきます。

商業ギルドと呼ばれる所で扱っている土地関係ではしばしば見る事があります。土地売買には領地にて発行される白金貨にて提示・支払い義務がある場合があり、その時に必要になります。

また、今回の様に刀が業物わざもの系の武具になると白金貨クラスになります。

それと鑑定という魔法によって鑑定された特級とっきゅう大業物おおわざものになると白金貨より上のクラスの認定になり国家クラスの武具になる為、国王陛下への献上品、又は貴族が自身を着飾る為の道具(言い方が酷い)として扱われる事になります。


※①白金貨とは、領地りょうちを治める領主りょうしゅが独自発行している金貨の事で白金貨は金の含有率を70%以上プラチナの含有量を20%以上しないいけないという国の法律にて決まっていて、白金貨は基本的に領主がお抱えの貨幣職人に製造・発行を行っている為、ある程度の高価な土地の売買契約では白金貨一枚以上の提示・支払い義務※①-1があります。また、領主間でもその装飾の出来においても重要視されていて、より良い出来の装飾を施した白金貨は貴族のコレクターによって売買される事もあるそうです。白金貨のデザインが変更される時は例外を除いては領主が変わった時になります。

※①-1 国の定めた法律の中にある貨幣法には白金貨相当の売買をする際は必ず、支払いの際に各領主が認めた白金貨で提示し、支払い能力がある事を示した上で一枚以上の白金貨で支払いをする事を義務化すると明記されている。


一番高い貨幣は白金貨より更に上の国王が製造・発行を命じないと製作すら出来ないとされている国家こっか特級とっきゅう 大白金貨だいはくきんかという物があり、白金貨一万枚で一枚という価値が有ります。

これらを用いるのは王国内で多大な功績を上げた者への謝礼として、または戦争賠償金として支払う時にも使用されます。謝礼として頂いた物は商業ギルドにて使いやすい貨幣にて両替をするか同じく商業ギルド内にある、預け金受付(現代の銀行の様な仕組み)にて、預入あずけいれをしてから必要分を出していくスタイルもあるそうです。貴族になると国家特級 大白金貨は自身の書斎に飾ったり、応接間に人が来た時に観れるようにしたりもあるそうです。

貴族だと金貨一万枚というのは領地の運営費用という感覚になるので大した事はないようです。


※白金貨による召使いの解雇と官職と民職の補助※

白金貨が領主の独自貨幣になった経緯は、白金貨が王国に無かった15年ぐらい前の頃に金貨で大金を支払うのが大変だったという経緯があり、貴族も人を大量に雇わないといけなかったという事もあり、商人も毎回大量の金貨を商業ギルドに預けに行く時に重すぎて街中でも盗賊に襲われる事があった事から領主会議の議題に度々上るので、領主が直々に国王に掛け合いこのような制度が出来たそうです。

これにより大量の金貨を持ち運びしなくても良くなったので領主も商人もコストダウン出来たという事です。

ただ、これにより召使が各地で大量にクビになったという事で失業者を多く出してしまった事で失策と捉える者も少なくないとか…。しかし、そこは領主の腕の見せ所になります。アルアの街を治めているヒュレッツマン男爵は官職だった外門がいもん門衛もんえいの仕事を含む一部の官職を緩和して、半官半民にした事により多くの人を飢えさせること無く失業者の雇用を見出す事が出来ました。

また、これがモデルケースとなり、各領地でも同じ政策をする事で大量に失業者に仕事を与える事が出来ました。

本来は貴族のお抱えというのは官職という扱いではありません。貴族の直属の部下、言うなれば民間会社の社長の所にいる社員という扱いになります。

しかし、こちらの世界では門衛も貴族の次男以降がする様な仕事になりますので国家公務員や地方公務員という扱いになります。その為、貴族を使うより半官半民にして雇用を促す事の方が大事と考えたヒュレッツマン男爵は外周壁側の外門を貴族から引退冒険者に変えて中央街側の内壁門と城の警備を官職(貴族)にする事で官職に仕える誇りを汚さない様に配慮しました。

また、ヒュレッツマン男爵は『官職に仕えたければ、護る事の誇りと自身の驕りを履き違えては成らぬ』と言っている程に官職だからと言って決して偉ぶってはいけない、頼られる人に成りなさいという意味も込められています。


※白金貨が必要になった歴史と貨幣職人※

白金貨の歴史はまだまだ浅いですが白金貨によってもたらされた新たな雇用や商人が街中で襲われるケースも少なくなったというのは事実である為、これによって大きく歴史が変化したと言えます。

また、白金貨を製造する上で大事な職人というのは実は『国家資格』が必要になります。

細工師には稀に細工眼さいくがんという特殊な目を持った人が居て、細工眼は努力次第では生まれ持ってなくても有する事が可能です。国家資格にはこの細工眼が必要で貨幣職人になるには『細工師の最低実務経験が五年以上、細工眼を有している事、最低年齢が十五歳以上の成人※②である事』と法律によって決まっています。

※② この世界の成人は十五歳となっており、毎年、各領地が催す『成人の儀』を受けて者を成人とみなすと法律で決められている。また、成人の儀を受けてない場合でも既に誕生日を迎えていれば成人とみなす場合もあるそうです。

また、成人の儀を受けてなくても成人とみなす場合は東国の国籍を有している者のみ成人とみなすという法律があるそうです。

国家資格試験において、合格基準に達せれば合格になるがこの国家試験は実技のみだが合格率は10%未満でかなり難関の国家資格になる為、替え玉やら貴族に根回ししてやら不正受験をする者が出た為に試験官は貴族出身者では無く、平民出身者に限られるようになった。また、実技試験の試験官は現役の国家資格を有する者が行っている。

因みに過去に行われた不正受験では試験官の九割を買収した例があり、大白金貨が数枚動く程だったと言われた事案もあった。しかし、これに関与した連中は軒並みに捕縛、爵位剥奪、お家断絶させられたとか…(結構エグイ)。


※異世界の激ムズ国家資格とその歴史※

因みにこの異世界にて超難しい国家資格三選は一つはこの【貨幣師】である。理由は上記にて…。

二つ目に【高ランク冒険者】です。特にSランク冒険者になるには…筆記試験、国に定められた国直属の面接官との面接、最後に一対一の国の近衛※③このえき騎士団長きしだんちょうとの実技試験。

まず、筆記試験は魔物、植物、国の歴史、魔法学と多岐に渡る為、どの問題が出るかはギルドマスター以外が誰も分からない。面接は国に対して敵意が有るか、有事に国を守ってくれるか?とか結構ありきたりな事が多いようです。最後に国の近衛騎士団長との実技試験は歴代の騎士団長によって合格率が違うそうなので一概に言えませんがSランク冒険者になるには合格率20%らしいです。

※③ 近衛騎士団長は正式には近衛騎士団団長と書きますが面倒なので上記のような書き方をしました。近衛騎士団は精鋭中の精鋭でほぼ貴族しか成れない職業になります。その中で近衛騎士団の団長は上記の理由も有り、相当な手練れでないと務まらない為、ある意味この役職も難しいかも知れません。

三つ目に【国家会計士】です。国家会計士の受験資格は読み書きが出来る満十五歳以上の成人である事ありますが、更にその国の生まれであり民である事が追加されます。この国家会計士の試験は書類審査・一次試験・面接・二次試験・三次試験となっており、どの国家資格より難しい試験ですが晴れて国家会計士になるとほぼクビになる事がないので一生安泰とも言われております。

その為、試験で受かるのは十名程度とも言われております。

但し、学歴とか貴族とか平民とか関係無いので読み書き出来る人は記念に受ける人も居るとか…。


そういう訳で今回はいつもよりも長く歴史ポイントになってしまいましが番外編ではこういう使うか使わないか分からない設定等を紹介する事もありますので、また懲りずに読んで頂ければ幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

名無しの志士、異世界へ転生させられ候ふ 能美音 煙管 @minoru3739

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ