世界は2人に託された!!

わだち

第1話 世界は二人に託された!!

「あーあー、…これ聞こえてるのかな?まあ、一方通行だし確認のしようがないか」


シークは、戦場用撮影機のカメラが付いた頭をパンパンとたたきながらつぶやく。


「まったく…ただでさえうちの国は前線に立てる人間少ないのに、こんな使い方したら国滅んじゃうよ。イテテ」


先ほどの戦闘でかなり深めの怪我を負ったシークはなんとか回復魔法で応急処置をしたが、最前線でしかも怪我を負った本人の処置などたかが知れてる。


傷口は一見塞がっていて問題無いように思えるが、激しい動きなんかしたらきっと開いてしまうだろう。


「隊長たちはなんとか本拠地に入り込めたかな。頼むよみんな、あんたら強いんだから」


最後にみんなともう一度会って話したいな…それにあの人にも…




シークの母国は絶賛大ピンチの状態であった。

山と海に囲まれたその国は、天然の要塞として圧倒的な硬さを誇り、長年大陸の端に在り続けていたのだった。




しかし、事情が変わる。

あるとき、その国の海岸沿いのはるか先で明らかにこの世界のものではないゲートが開いたのだ。

ゲートからは人型の「今から侵略します」みたいなノリのやつらが続々と出てきて、平気で海を歩いてくる。


陸側にしか敵はいないと思っていたその国は大混乱。


大多数の犠牲者を出しながら、一回目の侵攻をなんとか食い止めた。



直ちに陸側の国たちに休戦を申し出るが、長年、この国を目の上のたんこぶだと思っていた他国はこれを拒否し、逆に前線の戦闘員を増やすしまつ。


国内の戦闘員ほぼ全員が戦場に駆り出される羽目になってしまった。

しかし、このままでは左右違う敵に挟まれたこの国は、ジリ貧でいずれ滅んでしまう。



そうなることを回避するべく、国は一大作戦を敢行する。


作戦は単純、国内最強の隊にゲートの向こう側の侵略者の本拠地をつぶしてもらう。


最強の隊がいなくなっている間、他の戦闘員は陸側の侵攻を食い止める。

それだけだ。


ただ、そこに問題が一つ生まれる。

最強の隊が出向くとき、向こうさんも本腰で二回目の侵攻をするそう。


そこで選ばれたのが最強の部隊『立花隊』の七番シークであった。

戦闘スタイル的に広い場所の方が向いている彼が、本体がゲートの向こうに行っている間に一人で海岸線を守る。

資源も人員もカツカツすぎて「一人で頑張って!」となったらしい。


で、一人でなんとか敵の侵攻を食い止めていたがそろそろ限界のようだ。



シークが座り込んで撮影機とお喋りしているとカメラのレンズが一瞬ピントを合わせるように動いた。



とほぼ同時に海岸沿いの砂浜に座りこんでいたシークの視線の先で紫色のゲートが大きく開いた。

中からは続々と人型の怪物が飛び出して海の上を相変わらず平気で歩いてくる。


シークのいる砂浜まで来るのはもう少しかかるだろうか。




「最後だろうし、言いたいこと言ってやろうかな」

そう言うとシークは撮影機を顔の前まで持ち上げた。


「あーまず反対側で侵攻食い止めてる皆さん、お疲れ様です。こっちはなんとか止めますんでそっちはお願いします」


「あと上層部の皆さん、普段国のために色々頑張ってんのは知ってます。感謝してます。ただ一つ、今回の作戦はねーだろ。バカか」


ゲートを出てきた怪物たちはもうだいぶ距離の近いところまで来ている。

そろそろ最後にしなくては…


「最後にアイラ、今までも隊のことで予定すっぽかしてごめんね。それでも僕と一緒にいてくれてありがとう。

もう会うことは難しいけど、僕はずっと君のことを思っているよ。本当に本当に愛してる…」


彼女の笑顔を思い出すと自然と涙がこぼれる。


怪物たちはもう目と鼻のところまで来ていた。


シークは立ち上がって最後に少し震える声で囁いた。


「…幸せになってね」





手の甲で涙を拭きとり、もう一度大剣を構える。

言いたいことはだいたい言えた。

もう傷口も傷まない。


「うぉぉぉぉぉーー!!!!!!!!!」


声と共に前へ駆け出す。


先頭の怪物に目掛け剣を振り上げたそのとき———



パーンッというはじけるような音と共にシークの前にいた怪物たちが灰になって消えた。

状況を整理するためにとっさに頭を振って周りを見回す。



「ふぅ~なんとか間に合ったな」

もう何年も昔に聞いた声、もう聞くことはないと思っていた声。

振り返ると刀身の細い剣を二本腰に携え、黒に白い模様の入ったフード付きコートを羽織った青年が立っていた。



「イデアさん、なぜここに…」


「ん、なんかお前が全国中継されてたから」


全国中継!?戦場用撮影機の映像が!?


「…で任務の方は?」


「さっき丁度終わった。なんかあの侵略者、侵略してくるだけあってこの大陸滅ぼせる力あるらしいよ」


「それが任務でわかったことですか…なんとなくわかりそうなもんですけど」


「んー他にもあるけど、今はそれが一番重要。この情報を他国に伝えて休戦協定結んできた」


「!?」

サラッとすごいこと言わなかったかこの人。

っていうか、また脅しまがいなことしたんだろうな…変わらないな。


「だから陸側で頑張ってた子たちもこっち向かってきてるって」


「ただ、悠長に待ってもいられないってことですね」


さっきイデアが消し炭にした怪物の数は敵の総数から見れば大した数ではない。

現に今もゲートから続々と新たな怪物たちがあふれ出してきている。


「そう、颯爽と現れて、『助けに来たよ。あとは後ろで休んでて』とか言えたらいいんだけど…ここまで最速できたから、力もあんまり残ってない」


相変わらず、後先考えないで行動するこの感じ…


「いいですよ。二人で止めちゃいましょう!」


「ああそうだな!」

イデアが勢いよく剣を抜く。


そのまま敵に向かっていくのかと思いきや、思い出したかのようにイデアが振り向く。


「あ。そうだ。シークお前、『幸せになってね』じゃねえんだよ。お前が幸せにしろ、バカか」

剣の柄頭で頭を小突かれる。


一応、怪我人なんですけど…


「まあいい、詳しい説教は帰ってアイラにしてもらえ」


「はい、そうします」


イデアは怪物たちに向き直って剣を構える。

シークもそれに合わせた。


「よしじゃあ…立花四番イデア・ルーライト」

「立花七番シーク・カイル」


二人は怪物色に染まった海へ駆け出した。

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世界は2人に託された!! わだち @guwen

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