第28話 降臨2
アリエスは,一枚の紙の端切れのような物を意識が残っている,ガーネットに投げ渡すとゆっくりと優しい笑顔を浮かべた.
「エリによろしく」
それは勇者の笑みだった.
それから,魔力を全て開放して悪魔の方に剣を向けた.周囲が揺れた.
アリエスの魔力になるべく耐えれるようにエリが生成した剣だったが,アリエスの最大の魔力に耐える事が出来ないのか少しづつ朽ち始めていた.
アリエスは,悪魔に剣を向けると
「お前を殺す」
そう宣言した,魔力のコントロールなど,自身の力のコントロールを放棄したアリエスは今,ほとんど自我を失っていた.
アリエスは死にかけであった.
悪魔からの最初の一撃で動けないレベルの攻撃を受けていた.
本来動けないはずだが,今は,使命感と悪魔に対する殺意で動いていた.
命を捨てる決死の戦いだった.
アリエスは地面を強く蹴った.
(俺より早いな)
悪魔はカウンターを諦めた.
アリエスの速度は,初めに悪魔に攻撃を仕掛けた時の比ではなかった.
アリエスは,まずは悪魔を真っ二つに斬った.斬られた瞬間に悪魔の傷は治ったが,その直後に次の一撃を加えた.
アリエスは.口から血を吐き,腹部からは血を流し,アリエスの動きに耐え切れないのか,全身からも血を噴き出していた.
その決死の攻撃で悪魔よりも早く動いて一方的に悪魔が防御する前にアリエスは斬った,斬った,斬った.
「はは,流石史上最強の勇者と言ったところか.以前に,サウスの中で見ていた時よりも動きが良くなっているとは.」
アリエスに斬られ続けている悪魔は,笑っていた.
完全に復活していない悪魔と死ぬ気で全身全霊で動いているアリエスの単純な身体能力はアリエスが上回っていた.しかし,悪魔は,どんな致命傷を受けても一瞬で再生した.悪魔の余裕そうな態度から,先にどちらが力尽きるかは明白だった.
「殺す.」
殺意で動いているアリエスに冷静さも無く,ただひたすら悪魔を斬りつけて,その動きの反動で自身の肉体を痛めつけていた.自滅のカウントダウンは進んでいた.
「聖剣がなくてもこの強さ,いや,違うな聖剣がコントローラーのような役割だったのか?化け物だな,悪魔でないのが勿体ない.俺がその力は貰おうか.」
悪魔ソウルは,暇つぶしにアリエスの分析をしながらそのアリエスの猛攻を受けて笑っていた.
「殺す,殺す」
目は血走りアリエスは叫んでいた.その姿は勇者ではなく狂人だった.
「はは,必死だな勇者.怒りは本当だろうな,でも,それだけではないな,下らないが,暇だから勇者の作戦に付き合ってやるよ.」
悪魔は笑った.不敵な笑みだった.
アリエスが冷静さを失い,自滅に近づいているのは問題だったが,
アリエスがひたすら攻撃するおかげで一つ良い点があった.
悪魔の動きが完全に止まっていた.だから,その場にいたガーネットが動ける状況にあった.
ガーネットは,震える足を何とか動かして,ツインテールが解けて,服装もボロボロになり,動けないエリのもとへ駆け寄った.
「エリさん.」
ガーネットはエリに駆け寄ると急いで回復魔法をかけた.
受けたダメージを考えると完全にエリの傷を治すことは出来なかったが,エリは話せるまでは何とか魔法で回復出来た.
「ガーネット,ありがとう.はぁ.」
「エリさん,アリエスさんから」
ガーネットは,アリエスからと渡されたメッセージの紙をエリに手渡した.エリはそれを受け取ると中身を見ずに,それを魔法で燃やした.
「はぁ,どうせ,逃げろとか書いてるんでしょ.どうせ,今まで迷惑かけたと書いてるんでしょ.」
「……」
(勝てないな,凄いなこの二人)
ガーネットは,中身を見ずに内容を当てたエリに,この状況で少し感嘆してしまっていた.
アリエスは,解けた長い髪を振り回して
「まだ責任取って貰ってないし,アリエスと結婚してスローライフはする.それに,悪魔に色ボケ魔法使いの力を見せてあげるわよ.」
そう叫ぶと立ち上がり杖を構えた.
「……」
(私は……)
「私たちはまだ戦うけど,ガーネットはどうする?」
「……私も,イオナの身体を,魔族を……人間を巻き込んだ悪魔や神は許せない.」
「じゃあ,皆でアリエスの命をかけるわよ,ガーネットは回復魔法でアリエスをサポートして,良い?」
「分かった」
エリとガーネットは魔法を構えた.
未だに血をまき散らしてアリエスは悪魔を斬り続けていた.悪魔は,何度も斬られながらも笑っていた.
「おいおい,逃げないのか,無駄死になるな勇者さん.まあ,どうせ魔王の娘以外は皆殺すから,少し死ぬのが早くなるだけだがな.」
笑う悪魔に,怒るアリエス.二人の戦いはもう少し続きそうだった.
魔王を倒したが聖剣を失った勇者,国から追放される〜魔王軍の残党が出たからどうにかしてって新しい勇者に頼んでください〜 岡 あこ @dennki
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