第27話 降臨1

「ありがとうございます,お二人とも」

ガーネットは,深々と頭を下げた.彼女の言葉には少しの後悔が含まれているのか少し震えていた.


その様子を見て,アリエスとエリは下を向いた.今までの活動の重さを感じていた.

「「……」」



「大丈夫,イオナの死体は埋葬する.それに,遺書は届いたので.それで,」


ガーネットの,そう言いかけている途中で早とちりにアリエスが言葉を遮った.

「遺書?」


「ああ,イオナは……」

ガーネットが彼女が貰った遺書の内容を説明しようとした時,大地が大気が全てが揺れた.


少し気が緩んでいた面々は再び戦闘態勢に戻った.

アリエスは,冷や汗をかき,エリは,小さく手を震わせていた.


それから声が聞こえた,

『仕方ないか.不完全でも.肉体の完成は間に合わなかったか.ちょうど良いのがある,』

その声はこの世の物とは思えない禍々しい声であった.声は,気を失い死にかけのイオナの肉体を奪ったサウスから届いていた.


「……アリエス」

エリが叫ぶときには,アリエスは既に動いており,サウスに止めを刺そうとしていた.イオナの肉体を残して埋葬すること,今この瞬間の危機を天秤にかけて,イオナの肉体が無くなっても止めを刺す必要があると,アリエスは直感していた.


「分かってる.」


アリエスの攻撃が届く前に

『遅い』

その声が聞こえて,倒したサウスから,強力な衝撃波が飛んだ.近くにいた,アリエスはもちろんその場にいた人物は全ては吹き飛んだ.建物は衝撃で一部が破壊された.その後,サウスから謎の光が打ちあがった.その光は天井を突き破り,何かを目指して飛んだ.


その光は,アリエスとエリに負けた,魔族の面々に直撃した.

その光に触れた瞬間,魔族の面々は震え始めた.うめき声と叫び声が辺りに響き,ゆっくりと何かが光を伝って,サウスの方向に運ばれた.

何かが出なくなった魔族からゆっくりと崩れて灰になっていった.


光で魔族から何かを集めきったサウスは,光に包まれた.


本来なら今すぐに近づき止めを刺すべきだったが,その何かの圧倒的な存在感にアリエス達は動くことが出来なかった.


サウスだった何かは,その場でゆっくりと立ち上がった.


そこには,イオナの姿もかつてのサウスの姿も,禍々しい何かが立っていた.

紫色の肌,黒色の蝙蝠のような翼,羊のような角,それはまるで


「「「「悪魔」」」」

その場にいる,全員がそう声を震わせながら呟いた.それは神話に出てくる悪魔そのものに見えた.


悪魔は,高笑いをしてから

「正解.我はソウル,不完全で蘇ったのは癪だが仕方あるまい.」

そう言って両手で拍手をしていた.


「……ソウル.神話の悪魔の名前,それも,4つの災の何でそんな.」


ガーネットが口を開くと悪魔は笑った.

「はは,どういうも何も,お前ら魔族は悪魔を蘇らせるための器として,あの方が作った存在.まあ,お前の場合はあのお方の器となる人物を生むための繋ぎだがな.」

その悪魔の様子は隙だらけであった.


「……」

(悪魔ですか,神様に会ったことないのに,でも,今なら.)

アリエスは,息を吸って覚悟を決めて,地面を蹴り悪魔の首を狙うために剣を振るおうとした,完全に油断している悪魔に対して攻撃が決まったとアリエスは思ったが,


次の瞬間アリエスは腹部の一部が抉り取られて,建物の壁に激突していた.アリエスは口から血を吐き,気をほとんど失っていた.

実力の差が分からないレベルで開いていた.


「勇者君.まだ話は終わってないよ.いや,聖剣が無いから違うか.」

悪魔は笑った.その笑いがガーネットとセナの空気を最悪の状況にした.

ガーネットは,絶望して座り込み,セナは何か震えていた.


そして,それは,エリの逆鱗に触れた.

「アリエス……私は,ただアリエスと二人でのんびり出来ると思ったのに,大好きなアリエスと.それなのに,何が悪魔よ」

エリは,そう叫ぶと,ただ純粋に相手を殺すために魔力を集めて凝縮した魔法を悪魔に向けた.


悪魔は,その魔法を小さく指を振って魔法で撃ち落とすと,右手で衝撃波を放ち,エリを壁に激突させた.エリは,口から血を吐き,トレードマークのツインテールが解けていた.


その隙にセナは走り出してその場から逃げ去った.


「色ボケ,魔法使いが.話を続けるぞ.我は気分が良いから話をしてやってるのだ.まあ,あの人間は後で始末しよう.」

悪魔がそう笑うと


「……貴方の目的は何ですか悪魔さん.」

唯一,喋れるガーネットが悪魔に尋ねた.尋ねる以外の選択が無かった.


「利口だな.まあ,続きだ.そもそも,魔族と人類の戦争は,悪魔と神の戦いの延長線上だ.かつて我々悪魔は神の手によってこの滅ぼされた.しかし,あのお方はタダでは滅ぼなかった,我々が蘇るための器として魔族を用意した.それが魔族だ.」


「……」

ガーネットは,ゆっくりと下を向き,深呼吸を始めた.


「神は魔族を滅ぼそうとしたがそれが出来なかった.魔族は,神が生み出した生命ではないから直接殺せなかった.」

悪魔は話を続けた.


「……だから神は人に殺させようとした.」


「大体,正解,魔王の娘だ,賢いな.まあそこの勇者の神は,まだ助けを出してるだけマシだが,勇者が聖剣を折ってるのだから,ははは.ああ,運が回ってきた.」

悪魔は笑った.


「神と悪魔のせいで不毛な争いのせいで.みんな」

ガーネットは唇を嚙みながら叫んだ.


「不毛?必要だ.まあ,とりあえず厄介な勇者にとどめを刺しておくか?」

笑う悪魔の叩く右手が落ちた.


「悪魔と神が悪いんだな.」

目を血走らせたボロボロのアリエスが立っていた.


「なかなかやるな」

右手を回復させた悪魔は笑った.

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