第26話  襲来5

ぶつかり合った,アリエスとサウスであったが,一度両者ともに距離を取った.

「しかし,二人には私を攻撃できるのか?これは,君らの友の親友の肉体だぞ」

サウスは馬鹿にするように笑っていた.


(サウスってこんな性格では無かった気がするんですけど.……いや,今は良いですか,そんなこと.)

アリエスは,考えることを一つ後に回して,

「ガーネットさん」

友の方向を見た.


ガーネットは,小さく息を吸い,真っ直ぐと

「二人で倒してください.イオナはもう,戻りませんから.」

そう覚悟を決めて声を上げた.


アリエスとエマは,それを見て目を合わせてから息を吸った.


「タイミングは,エマが合わせて」

アリエスがそう言うと折れた聖剣をしまい.右手を挙げた.


「相変わらず勝手よね,アリエスは.支援は任せなさい.」

エマは,そういうと杖を構えた.


アリエスの右手には,エマの魔法によって剣が生成された.


「2対1ですか?まあ,ちょうど良いハンデですかね.」

サウスは笑い,剣を構えた.


しばらくの無言の睨み合いが続き両者同時に動いた.

地面を蹴る音が聞こえたと同時に金属音がぶつかる音が辺りに響いた.シンプルな力は拮抗しているように見えた.


「流石勇者.聖剣が無くてもこれほどとは」

サウスは,そう言いながらアリエスの周辺に大量の魔方陣を発生させた.魔法陣からは黒色の塊が表れてその全てがアリエスに向いていた.


普通の魔法ならばアリエスには効かないが,サウスレベルの魔法になると話が別である.避けなければ,それなりのダメージを受ける.しかし,今一歩引けば,剣での攻撃を食らってしまい,アリエスは自分から動くことが出来なかった.


(シンプルな技量で負けてるし,今は拮抗してるけど.多分,あっちは全力じゃない.結界を無理やり突き破ったときに,魔力も消費したから,まあそうだな.)

だから,アリエスは,避けるのは諦めた.


アリエスの予想通り,サウスが一段階ギアを上げると二人の力のバランスは崩れて,アリエスはバランスを崩しながら後方に飛んだ.

アリエスを囲む魔法陣の数は増えて,先ほどの魔法陣と合わせて全ての黒色の塊が,真っすぐと,アリエスを取り囲うように降り注いだ.避けるのは不可能であった.


次の瞬間,魔法の衝撃で土煙が上がった.


「勇者パーティーか.」

サウスの視線の先には無傷のアリエスが立っていた.アリエスの周辺に防御魔法が張られており,魔法攻撃は全て防がれていた.


「防御は任せました.エリ」

アリエスはそう言うと全てのリソースを攻撃に割くことに決めた.


「防御?それをするのは最低限の仕事よ.私が支援するから何も考えず剣を振りなさい,アリエス.」

エリの叫びと共に,光の矢が浮かび上がり,無差別に,無数の矢がサウス向かって飛んだ.


その光の矢と共に,アリエスもサウスとの距離を詰めた.アリエスにも,数本の矢が当たり,一本突き刺さりながらもアリエスは真っ直ぐ進んだ.


「やはり,面倒だな勇者パーティー.」

サウスは,避けれる光の矢は避けて,飛んでくる光の魔法の矢を全て魔法で撃ち落とした.結果として,光の矢が地面に刺さるか,しかし,魔法と魔法の激突でサウスの視界は一瞬奪われた.


戦闘で視力と魔力探知両の方を活用していると言っても,その一方が奪われた普通,一瞬隙は生まれるものである.


死角から,両手で剣を持ち,大振りでアリエスがサウス目掛けて剣を振るおうとしていた.全てのリソース攻撃に割り当てているので,先ほどのぶつかった時の比ではない攻撃力になっていた.

「そのぐらいやってくる事は分かっている.最強の勇者パーティーだからな」

しかし,サウスは,普通では無かった.


サウスは,アリエスの攻撃速度より早い速度で,振り返り大振りでガラ空きのアリエスの腹部目掛けて剣を向けた.


アリエスは目を見い開き,驚きの表情を浮かべていた.もう,アリエスにどうする出来なかった.エマの防御魔法も魔法攻撃には強いが物理攻撃に対しては大した効果を発揮しなかった.


「死ね,女神の手先.」

そう,サウス?が叫んだ.

剣は振るわれた.それとほぼ同時に辺りが一瞬輝いた.


振り切った剣は,二つに割った,光の矢を.


(死ぬかと思った.)

アリエスは,そう思いながら,サウスの後方から剣を振り切った.

それは,致命傷になる一撃だった.


サウスは,倒れて,血を吐きながら

「何故だ.」

そう,小さく呟いた.


「勇者パーティーの魔法使いを舐めない事ね.保険は幾つも用意しておくものよ.」

エマは,ツインテールを振り,そう言って拘束魔法を使い,とりあえず,サウスの両手両足を縛った.


アリエスは何も考えていなかった.ただ剣を振ることしか考えていなかった.だから,あの場で自身の死を少し覚悟した.

しかし,エマは,それが失敗する可能性を考えていた.

だから,魔法の光の矢全てに,転送魔方陣を組み込んで,アリエスに一本矢を指すことで遠隔の魔力操作で,アリエスと矢を入れ替える事に成功したのだ.


「……ありがとう,エマ.」

アリエスは光の矢を抜き,小さくため息をついた


「アリエス,仕方ないわ.話し合いは今回無理だったのよ.助けるのも.」

エマは,そう言って下を見た.


との戦いはあっさりと決着がついた.



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