第3話

酒場に入った私達は食事をしながら報酬の家についての相談を始めた。


「それで、どの様な感じの家が良いですか?」


「さっき行ったとおりだ、なんだっけ?500じゃなくて100人は大丈夫なんだろ?それにしてくれ」


「はい、そうですねわかってます。それ以外で何階建てが良いとか、場所はここが良いとか、何かありますか?」


インセルさんはアーミーダックの香草焼きを食べながら察したような表情をしてから返事をした。


「あぁ、そういうことか」

「…じゃぁ、スラムに近い場所に2階建ての庭付きにしてくれ。後は任せる」


「わかりました。では後はやっておきますので最終確認の際の連絡はどのようにしますか?」


「そうだな、冒険者ギルドのルーカスっつー受付に連絡をくれ。そうしたら行く」


「わかりました。ではそのようにしますね」


家についての話を終えると食事へ本格的に移行し始めた。



「じゃがいもなんですけど」


「あ?んだよ、芋がどうした」


茹でた芋を齧りながらインセルさんは反応した。


「美味しいんですか?私食べたことなくて」


「美味くなきゃ食ってねぇだろ。てかなんで食ったことねぇんだよ」


「貴族の間では芋は平民の食べ物で貧乏臭いものだという印象が強いのです。なので食べる機会がなく」


インセルさんは奇妙な顔をしてこちらの顔を見ている。


「変な考え持ってんだな。ウメェなら何でも食えやいいのに。こっちは命を食ってるんだからな」


「……インセルさんはなにか信仰している神様はいますか?」


「あ?いきなりなんだよ」


「今言った命を食べているという考えは、狩猟と豊穣の神『ド・ファーヴク』を信仰している方々の思想である、『命の輪循環ド・ルヴァーダク』に近いので、もしかしてド・ファーブク教信者なのかとおもいまして」


「ちげぇよ。俺は無信仰だ、しいて言うなら自由と道楽の神『メルツァッツァ』は信じてるぜ。あいつを信仰してる奴らの『人生遊戯論ムリュッツァル』思想は面白いからな」


人生遊戯論、人の一生は不確定であり常に目の前の喜楽を求め続ければ幸せでいられるという考え……だったはず。


「確かに人生遊戯論は素晴らしいと思いますけど、不安なことを感じることはないのでしょうか?」


「わかってねぇな。お前。あいつらの人生遊戯論っつーのはそういう不安や苦痛な現実を忘れるために、自分の好きなもの、好きな事に夢中になるっつー考えだ。加えて夢中になれば専門的な技術、知識がついて他より上に立てる。それを利用して金も稼げば生きるのにも困らないっていう……なんだろうな、好きなことを極めて人生成功しようぜっていう考えが人生遊戯論だ」


「なるほど、たしかに他の人よりも圧倒的に技術や知識が上ならばそれは専門家と呼べる人になれるので人生困りませんね。専門家ならばいくらでもお金を得て生活する術はありますから」


「な?ド・ファーヴクの思想もいいとは思うが、あいつの信者共は毎日違う場所に行き続けなきゃいけねぇじゃねぇか。それが俺は無理で信者になるのはやめたな」


「へぇー」


「んで、話がとんでもねぇ方向にぶっ飛んでったが、芋が美味いかだろ?」


「そういえばそうでした。どうなんですか?」


私がそういった瞬間、私はインセルさんの片手に頭を包まれた。


「!?」


「食えばわかる」


インセルさんはそう言うと私の口に茹で芋を入れた。


「ハグっ、むぐもぐ…」


「どうだよ」


「少し繊維質で根菜を食べている様な食感があります、あと塩が欲しいです」


「贅沢な評価だな。肉を食ってから食うともっと美味いぞ」


「なるほど、口内に残る肉の脂と後味で芋に味付けを施すんですね」


「多分そうだな。知らねぇけど」


インセルさんはバリバリと残った鳥の骨を食べながらそういった。


その後しばらくの談笑の後、私達は帰路に着いた。


 帰宅した私は侍女長やお母様に酷く叱られてしまったが私が悪いので素直に聴いた後、自身の夢を語り説得をすると、行く際は護衛を2人連れて行く事と王国騎士団と王国魔法師団の戦闘訓練を受けることを条件に冒険者が許可された。



次の日、私はギルドに行きインセルさんをアルテミア王族認定冒険者にする為に書類を書いた後、土地の購入と建築のために土地売り屋と建築家のところへ向かい相談を行った。


結果、アルテミア王国スラム街『テミヘル』から徒歩10分の位置にある買い手の居ない土地約2000坪を個人名義で購入、そこに温水風呂トイレが合計5つ存在する広大な庭付きの2階建て貴族邸を建てることとなった。



「おう、貴族。久しぶりだな」


以前から少し変化して革の胸当てと指ぬきグローブを着けたインセルさんが来た。


「こんにちは。お久しぶりですね。あと、自己紹介してませんでしたね。私はスカイ、スカイ・P・アルテミアです」


「おう、知ってる。指定依頼者にしてくれといったが、まさか王国認定冒険者になるとは思ってなかったわ」


「ふふ、驚いてくれて嬉しいです」


「おう、お前のお陰で装備変えたから結構良いぞ。で、そろそろ本題だな。」


「えぇ、そうですね。実はこの土地を購入してお礼の家を建てる予定なのですが、この土地に魔族の遺体が埋まっていたんです」


「魔族のところに行けば良いんだな?」


「理解が早くて助かります」


「行くのは良いけどよ、先にその死骸を見せてくれ、どこの魔族に行きゃいいのかわからねぇ」


「えぇ、こちらです」


インセルさんを案内する。



「こいつぁ、面倒なやつが埋まってんなぁ」


そういったインセルさんの視線の先には、膝を抱えるように土に埋まっている白い皮膚に二本の黒い角と羽の生えた魔族がいる。


「クィザんとこだ」


「クィザですか?それってソルの冒険に出てきたあの?」


「そ、旧世代の支配者クィザとその部下達のクィザ十座のところな」


「私もついていきます」


それを聞いた私は思わず言ってしまった。


「は?貴族お前頭沸いてんのか?死ぬぞ」


「大丈夫です。私は王国騎士団と王国魔法師団の戦闘訓練を受けていますし、護衛も二人つれていきます。」


「でもなぁ、人数が増えると移動とかに金がかかって面倒クセェんだよ」


「大丈夫です。王族による指名依頼で冒険ギルドにだします。それにお金ならば私のポケットマネーに加えて道中で稼げば問題ないはずです」


「あぁ…ッチ、金は良いが人数制限で離れることになったりしたらどうする」


「王族の権力を利用すれば専属移動機を借りることもできますし、権力とお金を使って優先権を購入できます」


それらを聞いたインセルさんは呆れた顔をしながら言った。


「……お前中々に貴族やってんな」


「使えるものは使う、それが貴族ですから」


諦めたような鼻笑いを漏らしながらインセルさんは返事をした。


「ふっ、そうか……シャアねぇ良いぜ。7日後な準備しておけよ、北口で集合な」


「はい!!」


◇◇


7日後。


私は護衛の王国騎士団内で4番目の実力者であるエルバンと魔法師団内で4番目の実力者であるミュフラを連れて、北口出入り門へ向かった。


「おまたせしました」


重たいリュックを背負いインセルさんに声を掛ける。


「おう、来たかってお前荷物多いな」


そういうインセルさんの荷物は肩に掛けている麻袋と腰のポーチだけである。


「それだけでいいんですか?」


「服は買えば良い、飯もそこらで取れる、俺は武器は使わねぇ。結果的に最低限の衛生道具と薬、金で良いんだよ」


「なるほど。あ、そうだ紹介しますね。護衛の騎士団所属エルバンと魔法師団所属ミュフラです二人共4番目に強い方々ですので安心できますよ」


2人は同時に挨拶をする。


「「よろしくお願いします」」


「おう、よろしくな………5本か6本くらいか。この国は攻められたら速攻で滅ぼされそうだな」


「インセルさん。大丈夫です。我が国の兵たちは実力のムラが強く、騎士団魔法師団ともにトップは10本指級です」


「……なんかそれも逆にキメェし不安だわ。ま、いいや。無駄話はこれくらいにして行くか」


「はい!!」


こうしてわたしたちは、極北の大陸『エンプライザ』にある旧世代の支配者クィザの国へ向かっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アンダー&ハイ Hr4d @Hrad

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ