第5話 巫病《ふびょう》編 其の五

善財どう子は、少しワクワクした気分でバイト先の兎の事務所へと向かう。

本日の除霊は久しぶりの不思議な現象が起きそうな予感。

どう子が、兎の受付のバイトをやめない理由に仕事が楽ちんなのと時間に融通きくこと、そして、たまに説明のつかないちょっとした出来事が体験できること。

除霊中のちょっとした不思議な現象を近くで見るのが、彼女の怖いもの見たさの楽しみの一つだ。


夕方の下校途中の生徒の中に混じり、いつもの事務所の近くで路地に入った時、

突然、

右耳の後ろから男性の低い怒鳴り声・・


う・・ぅわん・・


善財どう子「きゃぁ!」


どう子は、右後ろを振り返るが誰もいない。

只々心臓の鼓動がドキドキと体を伝わり聞こえるのみ・・


どう子は怖くなり急いで事務所に駆け込んだ。


事務所のドアを急いで閉めると息を切らせながら兎の元に向かった。


兎「どうした?どう子?」


善財どう子「ハァ・・ハァ・・入口の所ですぐ近くに男の人の怒鳴り声が聞こえたんですけど・・誰もいなくて・・怖くて走ってきちゃいました。」


兎「・・・・そうか・・やはり、今日にも片を付けないと少女が危ないな・・」


どう子は、兎を見ると荷物の詰まった大きなトートバックを取り出し、何枚かのA4の紙を封筒に入れている。

そして、彼は祈祷室にいる少女はそのままにして、母親を呼び出した。


応接室のソファに3人が腰かけると兎が神妙な面持ちで話し始めた。



兎「お母さん、あなたの親族に神事に携わる方や霊感の強い方はおられますか?」


母親「いいえ、ただ、別れた主人が統合失調症の診断を受けて現在病院に入院しています。」


兎「前のご主人・・どのような症状でしたか?」


母親「別れる少し前までは普通だったんです。ある時、娘が寝言を言っているのを主人が聞いてから、俺が守る・・俺が守る・・と娘から片時も離れなくなって、見えないものを攻撃するようになったんです。精神科医でお見せしたら統合失調症の診断が出て・・・主人が完治するまでは向こうの親族で面倒を見ると言って離婚させられました・・・」


兎「望んで離婚したわけではないんですね?」


兎は、穏やかな笑顔で答えると、大きく深呼吸し母親を見つめる。




お母さん・・・・お嬢さんは過去の地縛霊の強い思念に強く強く影響を受けています。

感受性が高いため、心に影響を受けるどころか体にまで傷などの物理的現象が出ている・・・


このままだと彼女は、今は存在しない者に心が殺され、そして、自分は死んだと思い込んで肉体迄同じように殺してしまう


これは、子供が成人するまでにまれに起きる現象・・・・

我々の業界では、霊媒体質・・・・


または、





巫病ふびょうといいます・・・・


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兎《うさぎ》さん。どういう事? 白福路 @sirohukuro

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