悪に立ち向かう流川〜後編〜
「え??どういうこと?」
銀次郎は流川の言葉に狼狽えている。
「いや、確かに守護霊についての授業で人間に危害を及ぼすような種族は守護霊になれないと聞いていましたが...。悪魔もだったとは。」
流川は茫然自失の状態でぼそぼそと一人で喋っている。
「翼よ、詳しく教えてくれんか?」
銀次郎はオロオロとしながら流川に尋ねた。
「僕のお父さんのこと、覚えていますか?」
流川は深刻そうに空を見上げた。
「あ、ああ。秋彦さんじゃろ?いつも肩に小さなハムスターを乗せて可愛がっておったな。」
銀次郎は顎をさすりながら当時のことを思い出している。
「ええ。その守護霊のこと覚えていますか?」
流川は怪談話でもしているかのようであった。銀次郎は目を細めながら当時の記憶を思い起こした。
「ああー、なんだかよく分からない強そうな生き物だったな。全然喋らなかったが、わしが秋彦さんに近づくとえらく威嚇されたな。」
流川は黙ったままじっと聞いている。
「それでー、肌が紫で牙がすごくて...。目は金色で何だか個性的な形の翼が生えておったな。...え?もしかして...?」
銀次郎は話しながら顔がどんどん青ざめていく。流川は冷や汗をかきながら静かに頷いた。
次の日流川は玄田先生の授業を受けるべく、例の薄暗い教室に来ていた。
「さあ皆さん!!授業を始めるぞ!!!!!!この授業は、『悪』について悪魔が教える授業です!!!!!!さあ、悪とは何ですか?説明できる者!!!!!!」
玄田先生の元気すぎる声で授業はスタートした。
やはりこの授業では、悪の種類にもいろいろあるということや、どちらが悪かを判断するには全体像を見なければならないということ、人間界における悪の裁かれ方などを学べるものであった。
銀次郎は流川の実直さを理由に心配をしていたが、そこはやっぱり警察官。悪の見極め方においてはしっかりと法に従って判断できる流川であった。
玄田先生は最後に、一人一人に「どっちを悪とするか、その根拠は?」などを聞いて周り、教室からは頭を抱えて出ていく候補生が多数いた。
流川は無事に試験を終え、教卓で帰る準備をしている玄田先生に近づいた。
「あの、玄田先生ちょっと宜しいですか?」
玄田先生は教材などを厳ついアタッシュケースに詰め終え顔を上げた。
「おお!君は警察官の流川くんだね!質問かな!?」
相変わらず玄田先生は声量も圧もすごい。
「はい。あの...昨日の授業で、悪魔というのは守護霊にはなれないと、仰っていましたよね?」
流川はちょっと控えめに尋ねた。相手は先生でも悪魔。
「ああそうだ!悪魔は基本的に守護霊にはなれん。」
玄田先生はそう言い切った。
「基本的にというと、守護霊になれる悪魔も中にはいるということですか?」
流川は慎重に言葉を選ぶ。玄田先生は近くにあった椅子に流川を座らせ、自身もその横に腰掛けた。
「うーむ。少しややこしいが、最初から悪魔の者が守護霊に選ばれることはない。ただし、守護霊が何らかの原因で闇落ちして悪魔になってしまうという現象は、少ないが事例がある。まあ、そうなってしまったら被守護者は長くは生きられない。悪魔に食い殺されてしまうからな。」
玄田先生は時折ため息をつきながら、金色に鈍く光る瞳で遠くを見つめながら話している。
『きっと訳ありだ。』
流川は直感的にそう感じた。
「あの、実はうちの父親の守護霊は...先生に似た...その...」
流川は必死に当たり障りのないワードを探しながら、目をぎょろぎょろとさせる。
「悪魔...だったのか?」
玄田先生の金色の目がぎらっと光った。
『まずいこと聞いてしまったかな...』
流川は黙って頷くことしかできなかった。
「ちょっと詳しく教えてもらってもいいかね?」
玄田先生の言葉に流川は父の守護霊のこと、その容貌、父の様子などを事細かく話した。
「なるほど...。」
一通り流川の話を聞き終えた玄田先生は一度咳払いし、徐に席を立つと教壇へ向かった。
「流川くん。それは...」
「...はあ!?!?!?」
図書館の会議スペース。銀次郎の素っ頓狂な声が響いた。
「そうなんです!!」
流川も目をぎょろんぎょろんさせながら興奮気味に声を上げる。
「あの悪魔は...父に取り憑いているシンプルな悪魔だそうです!!!」
そう、流川翼の父親である流川秋彦は悪魔に取り憑かれていたのだ。
「取り憑いてるって...」
銀次郎は信じられんと言わんばかりに口をあんぐり開けている。
「そうです。よくよく考えたら父の守護霊は肩に乗っていたあのハムスターの方!!声が小さすぎて僕らにはただのハムスターに見えていただけだったんです!」
流川は大きな目をさらに大きく見開いた。
二人は当時のことを詳しく思い出そうと脳みそをフル回転させた。
「ハッ!そういえば、父は夜寝る時たまに目を開けて寝ていました。」
「確かに!なんかよく分からん言葉を寝言で喋っておったな。それに秋彦さん、たまに不自然な笑い方をしとったのお。」
「ハッ!!父はキリスト教徒だと聞いていましたが、教会には一切近づかなかったです。」
「翼が小さい頃、秋彦さんと何とかマンごっこで遊んでおった時にスーパー光線を放ったら本当にダメージを受けておったな...。」
「十字架...ってことですか!?こどもながらにすごい演技力だと思ったんですよ...!」
二人はわなわなと震え始めた。
「いやいや!そんなことあるか!?一緒に飯食ってたろあの悪魔!というか!そうだった場合あのハムスター無能すぎないか!?何も守れてないじゃないか!」
銀次郎は小さなハムスターを思い出しながら突っ込んだ。
「あ!そう。その点に関してですが、あのハムスターの守護霊は元々教会で飼われていたハムスターのようで、父に取り憑いた悪魔を脅して、守るように契約をしていたみたいです。宿・食事付きで...。」
「はあ....!?」
「なんでもあのハムスターさんは父の守護霊になる前にも何人もの人を悪魔から守っていたみたいです。守護霊界では有名な話らしいですよ。」
流川の話に、銀次郎は『さすがに祓うことはできないんだね。』と思った。
結局二人は一時間ほど、あーだこーだと言い合い、
「ま、まあ秋彦さん今も元気に生きとるし、大丈夫じゃろ。」
というところに落ち着いたのであった。
守護霊に転生した流川 春野田圃 @haruno_tambo
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