いつか夜は明けるから

色葉みと

いつか夜は明けるから

 今日、久しぶりに遠出をした。

 ゴールデンウィークだったからなのか、イベントをやっていたからなのか、はたまた両方の理由からなのか、どこもかしこも息がしずらいほど多くの人で賑わっていた。


 朝から晩まで歩き回り、くたくたになりながら帰路に着く。

 かなり疲れているはずなのに不思議と眠気は感じない。

 まあそのうち眠くなるでしょ。

 このときの私はそう考えていた。


 無事家に帰り、寝る準備をすばやく終わらせた。そして家族団欒の時間を過ごし、自分の部屋へ向かう。

 私はいつも通りアラームをセットして部屋の電気を消した。


 ……眠たくない。


 1万2000歩も歩いて、普段行かないようなところにも行って、慣れないこともして、とても疲れているはずなのに、眠気は一向にやってこない。


 ……しばらくしたら寝れるか。


 私は今日の出来事や今後楽しみなことを思い浮かべる。

 昨日まで、こうすれば眠れていたから。


 ……いつ寝れるんだろう?

 星空でも思い浮かべれば寝れるかな?


 それでも眠気はやってこない。


 ……まあいっか。身体だけでも休めておこう。


 身体は睡眠を求めているのに頭は全く眠くない。不思議なこともあるものだ。


 それから体感で5分ほど経ったとき。

 ふと、怖くなった。


 ……大丈夫、動いてる。


 左胸に手を当て、心臓の鼓動を確認する。

 なんだかんだでこれはほぼ毎晩やっていることだ。なんとなく安心して眠れるようになるから、今日もこれで眠れるはず。


 ……本当に、大丈夫だよね?


 頭の中を「楽しみな未来」が駆け巡る。


 ……明日の朝が来なかったらどうしよう。


 突然、怖くなった。


 ……楽しみなこと、たくさんある。やりたいこと、たくさんある。


 これはよろしくないと警鐘を鳴らす自分がいる。


 ……それを出来ずに、死んでしまったらどうしよう。


 眠るのが、怖くなった。

 考えても仕方のないことだとは分かっている。

 考えてもどうしようもないことだとは分かっている。

 理屈では理解していても、心が怖いと叫んで止まらない。


 ……こんなに未来が楽しみなことってあったっけな?


 未来がなくなるのが怖い。楽しみなことができなくなるのが怖い。死ぬのが怖い。

 涙が出てきた。

 このままだと絶対に寝れない。一旦電気を付けてみよう。

 冷静な自分が言う。

 何とか起き上がり、暗めに電気を付けた。


 ……怖い。怖い。怖い。止まらない。どうしよう。


 考えれば考えるほどに怖くなる。涙が、感情が止まらなくなる。


 ……怖い。怖い。怖い。誰か、誰か助けて。


 家族はみんな寝ている。

 誰かを起こして助けを求める?


 ……怒らせたらどうしよう。


 きっと助けてくれるだろう。

 でも、もし怒らせたら? もし助けてくれなかったら?

 そうなったら私は……。


 ……ダメ。家族を起こすのはダメ。


 ほんの僅かな可能性が怖くなった。

 ならばどうする? このまま耐える?


 ……それは無理だ。誰か、頼れる人は。


 絶対に助けてくれる、そう信じられる人がいたのを思い出した。

 ダメ元で連絡したその人は「大丈夫だよ」と言葉を掛けてくれる。

 私は申し訳なく思いながらもその言葉に甘えた。

 おかげでこうして書くことが出来るくらいには落ち着くことができた。


 その人に、

 ほんとうに、ほんっっっっとうにありがとう。

 と、この場でも伝えさせていただきます。(もちろん直接伝えました)


 そして明日、……というか日が昇ってから、家族にこの出来事を話そうと思います。

 またこんな出来事があるかもしれないから。


 只今の時間、午前3時10分。

 眠気が全くないから眠れはしないだろうけど、とりあえず今はそれでも良いかと考えて。

 眠れなくとも時間は過ぎていく。


 いつか夜は明ける。


 そう想っているから、きっと大丈夫。

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