慟哭を思い出しました

 誰にも知られたくないこと言いたくない事があります。けれど文学においては
必ず読み手がしっかり彼らを垣間見てしまうのです。
 今までレビューなんて興味が在りませんでした。ですがこの短編を読了して、いてもたってもいられませんでした。
 還暦を過ぎて面白いことばかり追い求めてすっかり心が鈍くなっておりました。
 この作品に出会えて私は、主人公と一緒に激しく泣きました。嗚咽という言葉は
心のどこかにしまい込んですっかり忘れておりました。そんなものはちっとも必要なかったから我ながら慌ててしまいました。
 彼が教え子の日記をその子の魂を守る為に、もう二度と振り返らぬ為に。
 それでも教え子への記憶は罪悪と覚えて心の澱に居続けてしまうのに。
 彼は子の母に嘘を吐きました。泣きながら幸せに、虚構という名の真実を完成させてゆきました。
 私はこんな嘘はついたことがありませんただ善人であろうとして自分よがりの嘘は日時茶飯事ですが。
 真実を語る事と語らない事はどちらが罪深いか。永遠のテーマです。答えはまだないです。そんなのは神様だけがご存知の事です。そこには命題に思い悩んで戸惑う人ばかり。だからこそ私は彼の心に是を思います。
 幸せの在処にしか帰る術のない
彼の道すがら、確かに私は隣にいて一緒に泣いたのです。そして慟哭を思い出しました。
 この作品は私にとって、自分はまだまだヒトであったと思い出させてくれました。
 どうもありがとう心から。

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沈黙