第12話

12

「あら、皆んな楽しそうね。

お酒も飲んで、酔っ払ってサチコさんも、大岸君もではなくて、大木君だったわね。お父さんさんは酔っ払って寝てるし・・・」

と、言葉は穏やかだが、冷ややかな面持ちで話してくる。

サチコは酒に酔ってぼやけた顔だが、姿勢を糺た。

爺さんはうたた寝か、たぬき寝入りかのどちらかであろう、姿勢を糺す事も無く寝ている。

「大木君、彼女の話を聞いてあげて。

最初から最後まで、解るかな、最後まで聴いてあげるのよ。」

と、メグミを押し出し前に出す。

メグミは涙ぐんでいる。


メグミは涙ながらに語った。

そんなメグミを見るのは初めてだった。

「もう一度、私の話を聞いて欲しいの。

私、あの人と本当は付き合いたくは無かったの。でも、あの会社、私の父の会社の特別なお得意様なの。父は会社の役員だし、断れなかったの。だから私・・・・貴方に別れを告げたのよ・・・・御免なさい。別れたくないのに嘘をついたの。御免なさい。貴方を傷つけてしまったわ。」


僕はメグミを抱きしめに行きたかった。

だが、それを阻む者が現れる。

「ダメよ大岸君は私の物よ」

と、サチコが僕とメグミの間に入って両手を広げる。


「よっ!イロ男。両手に華だな」

と茶化す爺さん。

やはり、たぬき寝入りだったみたいだ。

「どっちを選ぶのよ!」

と、怒っている様にママが云う。


…どっちを選ぶって普通は豚まんよりも高級肉のビフテキでしょ…

と、心に思っていたが、出た言葉が、

「じゃ、二つまとめてもいいですか!」

だった。

二人では無く二つと言ってしまった。

「パーン」と僕の頬に平手打ち。

ママが睨んで見ている。

「何が二つよ!物じゃ無いのよ。

どちらかに決めなさい。男でしょ。」


叩かれて酔いが覚めたのか少し頭が鮮明になった。

「それでは、高級肉のビフテキのメグミさんで」

と、一つ選ぶ事が出来た。

「パーン」とまた頬をぶたれた。

今度は左側のほっぺだ。

「何するの!痛いじゃ無いですか?」


「高級肉のビフテキ何よ!酔ってるの?

それとも馬鹿なの。メグミに謝りなさい。」


「じゃ、メグミさんでお願いします。」


「そんな、私はどうなるのよ・・・・」

と、泣き出すサチコさん。


「ありがとう、ようちゃん」

と、嬉し泣きのメグミさん。

僕の頭はまだ混乱している。

そのまま僕は倒れ込む様にメグミに、

もたれ掛かりそのまま寝落ちした。


「ワインの酔いが覚めても、本気で『好き』と言った事は覚えていてね。ようちゃん。」

小声で呟くメグミ。


「良かったわね。メグミさん。大木君はこちらに寝かせて。」


「え〜ん私は良く無いよ〜〜」

と泣き叫ぶサチコ。


そんなサチコを見ながら、爺さんはアスカに声を掛けた。


「どうだったんだ、あの男との事は!」

と、今までと違いロートーンの真剣な声。


「お父さん、わたし・・・」

と、思わず父に抱きつくアスカ。

アスカの目にも涙が溢れている。


「もう忘れたいの。すべて忘れたいの。・・・

馬鹿だったの、・・わたし・・・」


弱く切ない声の中に、アスカの気持ちを察してか、父親は幼女を抱く様に、抱きしめて、云う

「辛い事は全て忘れよう。これからの未来に何も関係が無いよ。辛い事は・・・」

「そうね、辛い過去など、これからの人生には・・_・!あれ〜?、このお酒飲んだ!

飲んだの。私の大事なテキーラを、全部飲んだの。

私大事にして、ちびちび飲んでいたのに、

飲み干したの、お父さん!」

と、怒りの目を向ける。


「そんなテキーラ、これからの人生には関係無いよ(*´ー`*)」

と誤魔化すが・・・


「私のテキーラ返してよ!」


「私の大岸君を返してよ」

テキーラを飲み干されたママさんと、

恋人を吊り上げたと思った瞬間逃げられた

サチコと、

二人の女の泣き声が響くそんな夜だった。



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テキーラを飲み干して ボーン @bo-n

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