涙星
さかたいった
神の涙
その星には神が一人いました。
そこはただっ広いだけで何もない、退屈な星です。
神は太陽が見える明るい時間を
神は毎晩一人で星空を見上げていました。空にはいくつの星があるのだろうと数え始めたこともありましたが、数えている間に空は動いてしまい、また次の夜に数え直さなければなりません。
神はそのうち星を数えることのできない昼にも何かできないかと考えました。岩肌を削り取り、集めたもので形を整えて、それに意思と生命を与えました。
神はそれを
神は人を消耗する存在にしました。食料を摂取しないと活動を停止してしまうものにしたのです。神は人に種を与えました。
人たちは食べるために働きました。土地を耕して穀物を作り、収穫する。神も人と一緒になって働きました。星を数えない昼は暇だったからです。
暗くなって夜になったら、神は人たちと一緒に星の数を数えようと思っていました。しかし人は、神に話しかけてきました。神は驚きました。ずっと一人でいたので、まさかそんな事態になるとは思いもしなかったのです。神は人の質問に答え、神からも人に質問しました。そして夜の時間はさらに賑やかになっていきました。働いた昼の成果を労い、みんなで歌って踊るようになったのです。
昼は働き、夜はみんなで楽しく過ごす。そうしているうちに、神は人たちに対して愛着を覚えるようになりました。
神は人が好きでした。働き者の人が好きでした。一緒に歌って踊ってくれる人が好きでした。
その星には、少しずつ幸福が満ちていきました。
◇◇
城を造りましょう。
ある時人が神にそう提案してきました。
城とは何か。城とは、神の住まう場所。我々の尊い神を象徴する建物だ。人はそう説明しました。
城の建設はすぐに着手され、多くの人の手によって造られました。
やがて完成した城は、とても立派でした。神はその荘厳な建築物を好ましく思いました。
しかし神は城に住むことはありませんでした。神は人たちと一緒に過ごしたかったのです。そのほうが楽しいし、より多くの星の数を数えられます。
神は人たちから慕われていました。みんな神のことが大好きでした。
◇◇
ある時、空の彼方から飛来してくるものがありました。星が落ちてきたのではと騒ぐ者もいました。
落ちてきたのは見たこともない銀色の物体で、その中から異形の者たちが現れました。神は外界からやってきたその異形の者を、
宇宙人は次々と銀色の乗り物に乗ってやってきて、神と人の住まうこの星を侵略しました。一方的に蹂躙してきたのです。
戦う力がほしい。人たちは神にそう願いました。
神は人に戦う力を与えました。
人は宇宙人と戦いました。それによって宇宙人を倒せることもありました。しかし、多くの人も倒されました。前夜に一緒に歌って踊っていた人たちが次々と壊され、動かなくなりました。
そしてある人が、神にこう願いました。守る力がほしい、と。
神は人に守る力を与えました。
この星を守ってほしいと思いました。今持てる力全てを人に与えました。
神は人に城へ連れてこられました。こんなところでどうするのかと神は思いました。
人はそこで、守る力を使いました。城にいる神に、守る力を施したのです。
人は神の元から去りました。宇宙人と戦いにいきました。
神は自分が与えた守る力によって、守られました。力を使い切ったことで、城から出ることもできませんでした。
◇◇
長い時が経ちました。
多くの昼と夜がやってきました。
やがて守る力の効果が消え去り、神は城の外に出ることができました。
そこで神が目にしたのは、どこまでも続く瓦礫の山でした。それはとても寂しい風景でした。
みんなで耕した畑もぐじゃぐじゃになっていました。
神は人たちを呼びましたが、誰も応じてくれません。
みんな死んでしまったのです。
神だけを守って。
宇宙人ももういなくなっていました。この星のものは全て奪い切って、また他の星へ行ったのかもしれません。
神は昼の間、瓦礫の山を歩き回りました。
夜になると、神は足を止めて、夜空の星の数を数えました。
もう人たちの歌って踊る声は聞こえてきません。一緒に星の数を数えてくれる人もいません。
神は星の光に照らされた瓦礫の中に、淡く白い光を見つけました。神はその光に近づいていき、手をかざしました。
その光にはある人の記憶が込められていました。
その人は、神と一緒に畑を耕していました。クワを持って、すぐ近くで作業しています。
神は人に、「働くことは好きか?」と尋ねました。
人は答えました。「好きです」
「どうして好きなのか?」と神は尋ねます。
「あなたと一緒に働けるからです」
人は心底嬉しそうに笑っていました。
光が霧散して、人の記憶が消えました。
神は瓦礫の中から、他の記憶を探しました。
そして淡く白い光を見つけました。
その人は、神の隣で夜空の星の数を数えていました。遥か遠い空の彼方を指差しながら数えています。
「星を数えることは好きか?」
神は人にそう尋ねました。
「好きです」
人はそう答えました。
「どうして好きなのか?」
「あなたと一緒に数えられるからです」
人は神に向かって優しく微笑んでいました。
神はまた記憶の光を探しました。
すると、たくさんの光が集まった場所を見つけました。
神はその光に近づいていきました。
神が守る力を与えた人がいました。他にもたくさんの人たちがいます。
人は神を守るために、宇宙人と戦いました。
なぜなら、みんな神のことが大好きだったからです。
宇宙人の攻撃によって、人たちは次々と散っていきました。
それでも、最後まで戦い抜きました。
神と過ごしたこの星を、守りたかったのです。
人たちは誇らしく思いました。
自分たちの大好きな神を守ることができたから。
神の目から、雫が落ちました。次々と落ち、止まりません。
神は泣き続けました。
昼が来て、夜が来て、また昼が来ても泣き続けました。
目から溢れる涙のせいで、星の数を数えることもできませんでした。
神が流した涙は、大地に水溜まりをつくっていきました。水溜まりはどんどん広がっていきます。
水の溜まったその星は、青くなりました。まるで宝石のように。そんな美しい星は他にありません。
やがてその星は、
海の味がしょっぱいのは、神の涙の味だからです。
神は人のために涙を流し続けました。
悲しいという感情を知ったのです。
人はまた新しく作ることができます。
けれど、かつての人たちと過ごした日々は、もうやってきません。
とても大切なものを失ってしまったのです。
地球は、神と人たちの思い出の塊です。
だからこんなにも、青くて美しいのです。
涙星 さかたいった @chocoblack
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