オチャメな魔族とターキッシュディライト

フィステリアタナカ

オチャメな魔族とターキッシュディライト

ぬし。何をしているのじゃ」


 オレがソファーに座って魔波動受像機テレビを見ていると、ポンコツ魔族のタンヤオが真横から話しかけてきた。


「ロクムの特集をやってな。それを見ていたんだよ」


 魔波動受像機の向こう側にいるアナウンサーが、隣の帝国の帝都の様子を紹介していた。


「主。ロクムとは何ぞや?」

「ターキッシュディライトのことだよ。帝国の名物お菓子の1つだな」

「なぬ!」


 タンちゃんは魔波動受像機に近づいて、食い入るように見ている。


(あのな。受像機てれび見えないんだけど)


「主! このお菓子わらわも食べてみたいのじゃ!」

「そうか」

「ベルガモットオレンジ、はちみつ、石鹸、レモン味が食べたいのじゃ!」


(タンちゃん。1つ食べちゃいけないヤツが入っているぞ)


「帝国のお菓子だからなぁ」

「お願いなのじゃ。ちゃんと毎日ハミガキするから」


(タンちゃん。ハミガキは毎日やろうな)


「あっ、ジンに頼めばいいか」

「王がクロムを持っているのか? 主、早く行くのじゃ!」


(タンちゃん。クロムも食べちゃいけないやつな、特に六価クロム)


「まあまあ、そんな焦らんでも」

「希少価値のあるお菓子は早く食べないと無くなってしまうのじゃ!」


(帝国の一般的なお菓子なんだけどな。まあいいか、説明するのが面倒くせぇ)


「よっこらしょ。じゃあ行くか」


 オレが王城の会議室から出ようとすると、タンちゃんは魔法陣を書いてどこかにワープしやがった。


(まったく――仕方ないヤツだな)


「――出ねぇ」


 黒い板状のモノリスを取り出し、タンちゃんに電話をかける。


「あっ、もしもしタンちゃん。今どこだ? 何? 帝都の王城にいるって? 何でだ? 帝王を脅してナナムを頼むだと? いいから戻って来い。砂糖たっぷりメロンソーダをやるから」


「ふぉふぉふぉ。戻ってきたのじゃ!」


「じゃあ、ジンの所に行くぞ」


 そう思い会議室を出ると、ちょうどジンの姿が見えた。


「おーい!」


 ジンはこちらを見る。


「どうしたの?」

「ロクムって献上品の中に無いか?」

「無いよ。でもロクムなら、今調理場で作っているよ」


(イヤな予感がする)


「お嬢が作っているのか?」

「うん」


 お嬢の得意料理はゆでたまご。きっとロクムじゃなく、違う物ができあがっているだろう。


「王。妃が作っているのか?」

「そうだよタンヤオ」


 タンちゃんは微妙な顔をしている。


「タンちゃんさ、きっと美味しいロクムができているさ。とりあえず調理場に行こうぜ」


 タンちゃんとジンと一緒に調理場に行くと、そこには実験用の眼鏡と厚手の手袋をしたお嬢がいた。


「ばっ! お嬢! 何しているだよ!」

「ほぇ? 今、最後に苛性ソーダを入れるところなんですよ」


(石鹼ができてしまうじゃねぇか!)


「妃! わらわに苛性ソーダを寄越すのじゃ!」


(タンちゃん? メロンソーダと勘違いしているだろ?)


「お嬢。ゼッタイに加熱するなよ、毒が出ちまう。タンちゃん、あのバケツごと王城の外へ持っていくぞ!」

「主! 天才なのじゃ! ピクニックとはハイセンスじゃ!」


(もういいや、何でも)


 調理場でバケツを受け取り、オレはタンちゃんを引き連れ、王城から外へ出る。


「あっぶねー」

「主? 何が危ないのじゃ?」

「とりあえず城から離れるぞ」

「ピクニックじゃ!」

「あっ、そうだ。タンちゃん。そのバケツの中身は燃やすなよ」

「ん? 何故じゃ?」

「あとで説明する。とりあえず行くぞ」

「主は酷いのじゃ。わらわに教えてくれないのじゃ――そうじゃ! 実際に燃やせばわかるのじゃ!」


(ああああ! バカ野郎!)


『インフェルノ!』


(あーあ、綺麗に火柱が上がっちまったよ)


 こうしてオレの退屈な日常は続くのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オチャメな魔族とターキッシュディライト フィステリアタナカ @info_dhalsim

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ