第3話 群青クールダウン
ピンポーン
梨子と海で遊びまくった翌日。今日は朝っぱらからチャイムが鳴り響いた。
「………………」
ピンポーン
眠気眼を擦りながら居留守を試みる。
ピンポーン
ダメだ諦めない。仕方ないから出てやるとするか。
「はいどちらさまで……」
「おはよ。やっと起きた?」
玄関を開けると青色のワンピースに身を包んだ奈津美が立っていた。
「…………なにしてんだよ」
「夏休みの課題。一緒にやってあげようかなって」
「…………間に合ってます」
「そうなの?だったら私の分手伝って貰おっかな」
「……はいはい分かりましたよありがとうございます」
「分かればよろしい。じゃあお邪魔します」
お節介モードに入っている奈津美に何を言っても通用しないことは分かっている。どうせやらなきゃいけない事だし、奈津美とならひとりでやるよりも効率的だろう。
そういうわけで奈津美を部屋にあげ、ふたりで夏休みの課題に取り組むことにした。
「宗介。模試の判定ってどうなの?」
「…………C」
「なるほどDね」
「…………そういうお前はどうなんだよ」
「もちろんA判定」
「……少し分けてくれよそれ」
奈津美は俺と同じで都会の大学に行くらしい。といっても俺の目指している大学ではなく、もっとレベルの高い大学を目標にしている。それなのにA判定とは……
「宗介がいいなら夏休みは毎朝勉強教えてあげようか?」
「……結構です」
願ったり叶ったりの提案ではあるが、毎朝起こされるなんてたまったもんじゃない。
「残念。勉強したくなったらいつでも言ってね」
「…………どうも」
奈津美は俺が都会に出ることに最初から肯定的だった。うちの両親を一緒に説得してくれたのも奈津美だ。ただそれからというもの「私が責任とって合格させてあげる」とかなんとか言ってお節介をやいてくる。
ちなみに梨子は3年生にあがるまでずっっと反対してた。俺が都会で一人暮らしなんて出来るわけないって言われ続けた。
「…………よし休憩」
朝っぱらから2時間も勉強し、ようやく休憩にありつけた。ていうか終わっても良くないか?
「いつまでいるつもりだよ……」
「……いつまでいて欲しい?」
「即刻帰って欲しい」
「嫌。もっと一緒にいたいもん」
「お、おう…………」
奈津美の口からそんな可愛らしい台詞が出てくるなんて思わなくてリアクションに困る。戸惑っていると奈津美は淡々と話を続けた。
「マッサージしてあげよっか」
「…………なんだよ急に」
「いいから。勉強頑張ったご褒美」
そう言うと奈津美はすぐさま俺の後ろに移動し、両肩に手を掛け、マッサージを開始した。
「……んっ…………かた……」
「悪かったな不健康で……」
「そんなこと言ってない。頑張ってる証拠」
その後も黙々とマッサージは続いた。奈津美の細い指が丁寧に肩をほぐしてくる。なんか不思議な気持ちになってきてしまう。
奈津美は急に俺の耳元に顔を近づけると、静かに囁いてきた。
「梨子のこと……どう思ってる?」
「…………近い」
「そういうことじゃなくて」
「お前が近いって言ってんだよ」
「……嫌だった?」
「…………調子狂うからやめろ」
「そう。じゃあやめない」
俺がちょっと横を向けば唇が触れ合うかもしれない。そんな距離感で囁かれるといくらなんでも意識してしまう。
「で、どうなの?梨子のこと」
「別に……うるさい幼なじみだろ」
「うるさいって…かわいそうだよ」
「もっとないの?可愛いとか、元気が貰えるとか………」
「おっぱい大きいな……とか」
「お前なぁ………今日なんかおかしいぞ」
「いいじゃん。夏だよ?」
夏を免罪符にすれば全部許されるわけじゃないだろ。明らかに今日の奈津美は浮かれているというか…どこか妖艶な雰囲気を纏っているというか……
「で、どうなの?」
「今更んなこと―――」
ピンポーン
「宗介ーーー!出ってこーい!」
俺たちの会話を遮るように、外から大きな声が聞こえてくる。それを聞いた奈津美はくすりと笑い、やっと俺から離れてくれた。
「残念時間切れ。ほら呼んでるよ?」
「行きたくねぇ……」
「なら私と3時間勉強する?」
「……………嫌です」
「なら行こう。私が出てくるね」
奈津美はテクテクと玄関に向かった。するとチャイムを鳴らした主がすぐにドタバタと我が家に乗り込んできた。
「こらこら!!なに奈津美を連れ込んでるのさ!!!」
「勝手に入ってきたのはあっちだ」
「むぅ………なら今日はここで遊ぶ!」
「いいねそれ。ゲームしよゲーム」
「は?おい勝手にいじくんなって!」
さっきまで良い感じの雰囲気だったのが一転。昔のような和気あいあいとしたノリになり、結局夕方まで遊び倒したのだった。
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます