第2話 甘夏シーサイド
ふたりとは保育園の時からの付き合いだった。なんでも母親同士が幼なじみだとかなんとかで、事あるごとに遊んでいた。
「そうすけ!あそびいこ!」
小学校の頃はよく男に間違えられていた。
「こら。危ないから走っちゃダメ」
そんな梨子とは対照的な真面目系女子の
そんな幼なじみに囲まれて過ごしてきた俺、
よく同級生からは羨ましいとかなんとか言われるが小さい頃から一緒にいる俺にはそんな感情も今更持てない。
なんてったって都会の美人が俺を待ってるからな!
というわけで大学は上京して一人暮らしを計画している。なのでこの夏が俺がここで過ごす最後の夏だ。
俺の暮らしている田舎は山か海しかない港町だ。小さい頃は毎日が冒険だったが、高校生にもなれば流石に飽きてくる。本音を言うなら今すぐに抜け出したい。嫌いってわけじゃないし、どちらかといえば好きな方だが………今の俺には刺激が欲しいのだ。
そんなこんなで迎えた最後の夏休み初日。何時から勉強したものかと寝転がって考えていると、家のチャイムが鳴り響いた。
「おーい!どうせいるんだろー!でてこーい!」
俺が居留守をかましてやろうかと悩んでいると、そんなことはお構いなしにデカイ声で呼び掛けられる。両親が共働きなのを理解しているおり、今は俺しかいないことを知ってるからやりたい放題だ。
このまま叫ばれても近所迷惑なので重い体を引きずりながら玄関へと向かうと、そこにはうっすいTシャツと短パンにサンダルとかいう小学生みたいな格好をした梨子が待ち構えていた。
「んだよ……朝から………」
「いや昼だが??12時過ぎてるが???」
「うるせえ夏休みなんだからまだ朝に決まってるだろ」
「この昼夜逆転小僧が……まぁいいや。それより行くよ」
「…………どこに」
「海!」
「いやだ」
なんで今更海になんて行かなきゃならないんだ。もう流石に飽きたわ。
「なんでー……行こうよー………」
「そのうちなー考えとくよー」
「……絶対考えてくんないじゃん」
「…………そのうちなー」
もうちょっとグイグイこられるかと思えば意外にもシュンとされてしまい調子が狂う。
「…………わたしは今日行きたい」
「……夏休みは始まったばっかだぞ」
「でも……宗介と遊べる夏は最後だもん…」
「………………あぁもぅ……分かったよ……ったく……待ってろ準備してくる」
「…………!!!うん!!!待ってる!!」
しおらしい梨子の顔を見てられなくて仕方なく折れてやると、梨子はいつものような満天の笑顔で返してくれた。
「……………どした?準備は?」
「……いや。やっぱお前は笑ってる方が良いなって思ってよ」
「な!!?」
「というわけで30分後に会おう」
「ながっ!?はやくしてよ!!!わたし溶けちゃうよ!!!」
そうして手早く準備を済ませ、ついでに冷凍庫にあった棒アイスを梨子にあげ、ふたりで近場の海へと向かった。
「人いねぇな」
「まだ7月だしね。それに午後から雨降るらしいし」
「…………おい。そんな日に俺を呼び出したのか?」
「…………それもまた一興!」
「お前なぁ……」
梨子は俺にこれ以上文句を言われる前にと着替えもせずに海へと走っていった。
「怒られても知らねーぞ」
「大丈夫!お母さんにはわたしが洗うって言ってあるから!」
そう言いながら浅瀬でバッシャバシャと水飛沫をあげている梨子。この前の制服の時は分からなかったが……梨子はいつの間にか女の子らしい体型になっている。体つきというか……主に胸部がたゆんたゆん揺れてて目のやり場に困る。
「懐かしいよねー…昔はふたりで色んなとこ行ってさ、その度に奈津美に怒られたよねw」
「お前はあん時からなんも変わってねぇよな。奈津美はあんなに大人っぽくなったってのに」
「かっちーーーん……」
俺の言葉が逆鱗に触れたのか、梨子は大きく足を振り上げ、こちらに向かって水を飛ばしてきやがった。
「最低!!このデリカシー無し男!!」
「っおい!!やめ……!!」
「海藻の切れ端をくらえ!!」
「てっめぇ……!!そっちがその気ならやってやんよ!!!」
一方的に攻撃されるのも癪なので手早くサンダルを脱ぎ、俺も海へと突入した。普段ならこんなことしないだろうが、梨子のテンションに釣られたってのと、俺も今年が最後の夏であることを自覚しているからだろう。完全に舞い上がってしまっている。
「っぶ!!こら!!顔にかけんな!!!メイク落ちるやろがい!」
「なんでメイクしてきてんだよ!アホか!」
「わたしだって女の子だよ!!メイクくらいっうぇ!?口に水はいった!!!」
高校生にもなってまるで子供みたいにはしゃぐ。誰かに見られたら恥ずかしさでぶっ倒れるかもしれないが……まぁ、あれだ。全部夏の暑さのせいにすれば問題ないだろう。きっと。
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