青夏トライアングル

@Amane_18

第1話 仲良しトライアングル

「あっつ~~いぃ…………」パタパタ…


 真夏の炎天下。俺たちしかいないバス停のベンチに座り、1時間に1本しかないバスを待っている。

 俺の右隣に座っているショートボブの女子は下敷きをうちわ代わりにして扇ぎながらこちらを羨ましそうに見つめてきていた。


宗介そうすけ~そのポカリくれ~~……」


「やだよ…さっきお前のも買っただろ……」


「飲み干した~……」


「………ったく。ほらよ」


「やったぁ……さっすが宗介だぁ………」


 俺から手渡された飲みかけのポカリを容赦なく飲み始める。少しは恥じらいってものがないのかコイツには。


「っ…………ん……っはぁ…ありがとぉ…」


「はいよ……って飲み過ぎだろ梨子りこお前!」


「めっちゃおいしかったぁ……」


「そういうこと聞いてんじゃないんだよ!」


「………………ん!」


 右隣の梨子と騒いでいると、左隣にいたもう1人の女子に肘で脇腹を小突かれてしまった。


「いって………あー…騒いで悪かったよ」


「……………分かればよろしい」


 うるさい梨子とは正反対。眼鏡をかけている黒髪ロングのクールガールだ。その女子はこんなくっそ暑い中で単語帳とにらめっこしていた。


「いやいや奈津美なつみ~こんな時に勉強なんて青春の無駄使いだよ~?」


 人のポカリを飲んで回復したのか梨子は突然立ち上がり、両手を広げて語りだした。


「見よ!この広大な海を!照りつける太陽!うるさいセミ!まさしく夏!青春あおはるならぬ青夏あおなつだよ!楽しまなきゃ損!」

「というわけでふたりとも!バス来るまで海で遊ぼう!」


「「梨子だけでどーぞ」」


 梨子の馬鹿な提案にふたり揃って答える。もう何回こんなやり取りをしたか覚えていない。お決まりの流れってやつだ。


「冷めてるなぁ……青春無駄使いコンビめ…そんなんじゃ恋人も出来ないよ!」


「俺には都会の美人なカフェ店員っていう先約があるんだ。悪いな」


「はいでた宗介の意味分からん妄想!美人なカフェ店員なんて都会のイケメン彼氏がいるに決まってるじゃん!田舎臭い宗介にはむーーーり!!」


「んなもん分かんねぇだろ!なぁ奈津美!」


「…………夢見るだけならタダだからね」


「お前まで………!」


 味方だと思っていた奈津美にいきなり後ろから刺される。


「よぉし!わたし達の勝ちだね!というわけで海にレッツゴー!」


 なにがどうなってこいつらの勝ちになるのかは分からないが、梨子は意気揚々と目の前の車道をぶったぎり、海に向かって突撃しだした。


「………しゃあない。奈津美、荷物見てて貰えるか?俺は梨子の面倒見てくる」


「はぁ…………いや、私も行く。宗介も危なっかしいからね」


 そう言うと奈津美は単語帳を閉じて鞄に入れ、律儀に横断歩道へと向かって歩きだした。


「勉強はいいのか?」


「おかげさまで集中力が切れた。それに図書館で勉強する予定だし、バスもまだ30分くらいあるし…遊んであげないと梨子がうるさそうだしね」


「…………ふーん?」


「なに」


「いやなんでも」


 俺も人のことは言えないが、奈津美も大概梨子に甘い。

 実際梨子は俺達の中心といっても差し支えない。そんな梨子の明るさには助けられてる面も多いからだ。


「ほらほら早く~!気持ちいよ~!」


 当の本人は浅瀬で子供みたいにちゃぷちゃぷと遊んでいるが……高3にもなってそのテンションになれるのは最早才能だろう。


「はしゃぎすぎてこけんなよー。おばさんに怒られても知らねぇからなー」


「こけないこけない!わたしを誰だと思ってる?この海に育てられた女だぜ!」


「それは3人とも同じだろ」


「確かに!」


「ほんっと元気なんだから………っしょ」


 砂浜に着いた奈津美は靴と靴下を脱いで裸足になり、丁寧に日焼け止めを塗り始めた。


「………………なに?」


「いや……わざわざ塗るんだなって…」


「日焼けしたくないの」


「ふーん……………」


 制服のスカートから覗かせる奈津美の綺麗な白い脚。ただ日焼け止めを塗っているだけなのだが、なんだか少し色っぽくて…………


「……はいそこにえっちな人がいまーす!奈津美の生足ガン見してる変態がいまーす!」


「は!!?見てねーし!?」


 変な気持ちで幼なじみの脚を見ていたのがもうひとりの幼なじみにバレる。というかわざわざ言わなくてもいいだろやめてくれよ。


「……………宗介が塗る?」


「遠慮しとく……」


 隣で座っていた奈津美からもからかわれ、恥ずかしさで死にたくなってしまう。


「むぅ…………わたしも生足なんだけどなぁ!ほれほれ!」


 不満そうな顔をしてる梨子はスカートをたくしあげ、自身の脚を強調するかのように海水を蹴りあげ、バシャバシャと水しぶきをあげていた。


「パンツ見えても知らねーぞー」


「見えたらとしっかりと脳内に保存するんだぞー」


「しねーよ」


「しろよ!」


「はいはいイチャイチャやめてください」


「「してない!!」」


「……そうですか」


 俺達のやり取りに呆れつつ、奈津美はスッと立ち上がって梨子の元へと向かった。


「…………っ…つめた……」


「でもそれがいい!」


「確かにね。ほら宗介も来なよ」


 珍しくはしゃいでいる奈津美から手を差しのべられる。すると、何故か梨子も手を伸ばしてきた。


「宗介!さいっこうだよ!」


 このふたりは小さい頃から度々こういうことをする。いつまでも人を子供扱いするのはやめて貰いたい。


「へいへい……」


 俺は急かされるままに裸足になり、ズボンの裾を曲げ、差しのべられたふたつの手を取りに向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る