隣の席のやつがいきなり俺にマウント取ってきた!! いやいや勘違いしてるみたいですけど俺達そんな関係じゃないですよ?

武 頼庵(藤谷 K介)

 いやいや勘違いしてるみたいですけど俺達そんな関係じゃないですよ?


 毎日夜遅くまで働いて、家路につくのが当たり前になりつつある最近では、自炊なんてする暇も余裕もなく、いつも住んでいる場所にたどり着く前に外食で済ましてしまうようになって早3年。

 

 社会人になってすぐのころはそれでも頑張って自炊をするようにしていたのだけど、仕事に慣れて来たと思った時には、慣れた分だけ仕事量が増し、ようやく机に溜まった書類の束などを片づけ終わる頃には、既に自炊しようとは思わなくなってしまった。


 今日も今日とて、家路へと続く道をとぼとぼと歩きながら、夕食をどうしようかと考える。家族からも食生活を心配されているので出来ればコンビニ飯にはしたくない。


――仕方ない……。今日もに行くか……。

 ため息をつきつつ、住んでいる場所へと向かっていた足を、目的地方面へと進路変更し歩き出した。


 元寄善人もとよりよしと26歳。ウチに帰っても誰もおらず、もちろん夕食を作って待っていてくれる女性ひともいない。もちろん独身彼女無しが今の俺なのである。




からからから

ちりりぃ~ん……。


 繁華街からは少しばかり外れてはいるけど、周囲には大衆食堂やラーメン屋さんなどが並んでいて、繁華街でお酒を飲んだ後の人などが立ち寄ることが多い、少し細い路地を入った所にある一軒の小料理屋。

 そこまでたどり着いて暖簾をくぐり、少しばかり年季の入った引き戸を引いた。すると出入りを知らせる澄んだ鈴の音が店内に響く。


「こんばんは……」

「あら、いらっしゃい!!」

「空いてる?」

「もちろん!! 今日もお一人様?」

「見た通りです……」

 挨拶すると、カウンター越しから元気な声が聞こえてくる。店主で女将さんがニコリと招き入れてくれた。


「ここどうぞ」

「あ、ありがとうごいざいます」

「いえいえ」

 女性店員さんがスッと俺に近づいてきて、カウンターの一番端の席へと招いてくれた。


――今日もここか……。何か指定席のようにいつも空いてるんだよな……。

 いつも通っている――というと、ちょっと言い過ぎになってしまうけど、それでも月に最低でも2回か3回は着ているので、顔見知り以上常連さん未満という感じで、接してもらっている。


 今いるお店は、夜は小鉢に入った1品料理を中心にして、少しお酒などを飲む人が通う静かな場所で、昼間は時間限定で定食などを出している。

 俺も夜だけではなく、時々お昼を食べる為に来ることがあるが、いつも結構な賑わいを見せている。


――まぁ、来る人の多くは女将さんと女性店員さん目当ての男性客が多いんだけど……。

 今も店の中を見渡せば、俺と同年代か少し上あたりに見える男性客がほとんどで、女性客は少ない。


 でも、そんな客層になるのも分かる気がする。女将さんと女性店員さん数人で切り盛りしているお店は、時折バイトの方もお手伝い程度に入っているのを見かけるけど、ほぼいつも二人がメインで料理をしたり、接客している。


 仕事に疲れたリーマンが、営業スマイルだとしても、ニコリと微笑みかけてくれる顔に惹かれて、ついついお店に来てしまうのも無理はないのかもしれない。


「今日は飲むのかしら?」

「あぁ……どうしようかな……」

 女将さんがカウンター席に座った後に、おしぼりとお箸などを渡してくれつつ、今日はどうするのか聞いてくれる。


「じゃぁとりあえず、いつもので良いかな?」

「うん。いつものでいいや。飲む時は後で頼むから……」

「りょうか~い!!」

 俺からの返事を聞くと、袖まくりしながら調理を始める女将さん。



 そんな女将さんの姿をぼぉ~っと見ていると、1席開けて隣に座っていた男性が俺の方をじっと見つめている事に気が付く。


――あ……この人って……。


「なぁあんた……」

「はい? なんでしょうか?」

「少しなれなれしくないか?」

「へ?」

「女将さんになれなれしくないかって言ってるんだよ」

「そうですか……ね?」

「……ちっ」

 周りの人にも聞こえるように大きな舌打ちをしつつ、男性はトクトクと瓶ビールを持ち上げコップへと注ぐ。

 俺がいつもこの店に来るたびにいるから、たぶん常連さんなのだろう。しかも俺と同じでいつも一人でカウンターに座って飲んでいることが多い。


「いいか? お前みたいな若造が――」

「はい!! お待たせお待たせ!!」

「あ、ありがとう……」

 男性が何かを言いかけたとき、カウンター越しに俺の目の前にトレーに盛られた料理の数々が渡された。


「今日はよっちゃんが好きな煮つけよ。あとご飯は大盛にしておいたからね」

 そう言いながらにっこりとほほ笑む女将さん。


「なっ!?」

 そんな俺と女将さんのやり取りを見た隣の席の男性が驚く。そのまま俺の顔をジッとにらみつけるようにしている男性をよそに、俺は「いただきます!!」と手を合わせ、目の前の料理に舌鼓を打つのだった。





 料理も食べ終わり、少しだけ飲んでから帰ろうかと思って瓶ビールを注文し、コップへと注いでいると、隣りの男性がまた声を掛けてくる。


「お前何なんだよ」

「え?」

「何で女将さんがお前なんかの名前を知ってるんだよ」

「何でと言われても……」

「俺もけっこうこの店に通ってるんだぞ。それなのに名字で呼んでもらう事は有っても名前なんて呼んでもらった事無いんだ。まさかお前達……」

 自分で自分の考えを口にして、ハッとした表情をする男性。


――いつの間にか『あんた』から『お前』呼びになってるな。特にヘイトを集めたつもりはないんだが……。

 男性が俺の方へ向けていた視線が、更に鋭く力のこもったものになる。



「なるほど……お前女将さん狙いってわけか……。いやいやムリ無理!! 会社の社長のこの俺、山取好弥やまどりすきや様が女将さんには似合ってるんだからな。お前みたいなパッとしないサラリーマンなんて眼じゃないんだよ!! おかみさんの迷惑だから消えろ。二度と来るな!!」

「…………」


 男性が大きな声を出したので、その声は店内に響き渡る。もちろん店内はその声にシンと静まり返った。


「どうなさったんですか?」

「あ、れんさん……」

 女性従業員の一人で、女将さんとお店を切り盛りしているもう一人の女性が俺たちのそばへと駆けつけて来た。


「この若造がよりにもよって女将さんを狙っているというんですよ。はッ!! あまりにも身分不相応すぎて話にならないから、ここから出ていけと言っていたんですよ」

「いや、俺は狙ってるとか言って無いですよね?」

「貴様の眼を見ていれば言わなくても分かる!! そしてその態度もな!!」

 俺のそばで困った顔をする恋さん。男性――山取さんは何も言わない俺と恋さんが、自分が行った事が正しいから何も言わないのだと思ったのか、更に自分がどれだけ身分が上だとか、いつもお店に来ているのが女将さんを狙っている証拠だとか、俺の様な奴がいるとお店の品位が下がるから出禁にした方がいいなど、もう言いたい放題にわめきだしている。


「ちょっと落ち着いてください山取さん」

 とうとう調理場ぼ方から女将さんが俺たちの方へと歩いてきて、男性を落ち着かせようと声を掛ける。


「私とよっちゃんは決してそのような関係では――」

「ほらまた!! なぜ女将さんはよっちゃんなどとこんな奴の事を呼ぶんですか!? 俺というものがありながら!! さも仲が良いとアピールするように!!」

「いや、ですから私たちは――」

「まぁどうでもいいですけどね。こんな若造……。どうせろくでもない会社であくせく小銭を稼ぐことしかできないでしょうし。俺の相手じゃないんでね。女将さんもいい加減に俺のモノにならないから、こんな奴に付きまとわれるんですよ!!」

「いやえ……そのお話は何度もお断りしたはずですけど……」

「いや、あなたは分かってない!! こんな奴私の力でどうとでもなるんですよ!! 社会的に抹殺する事なんて簡単ですからね」

 ニヤッと笑いながら俺と女将さんの方を見る山取という男性。


「はぁ……どうでもいいですけどね俺は……」

「なんだと!!」

「というか……お店の中で大きな声を出して……。お店の迷惑になっていると思わないんですか? ここには俺達だけが居るわけじゃないのに」

「ふん!! そんなこと気にするわけがないじゃないか!! 私の力があればどうとでもできる奴らばかりなのだから」


「と、とりあえず、この場は私の顔に免じて治めてくださいませんか? 今日の所は料金も頂きませんので、どうか……」

「ふん!! 女将さんあなたも良く覚えておくといい!! 私の事をこんな扱いしたらどうなるかをね。良いだろう今日の所は女将さんに免じて帰ってやろう」

 そう言い残すと、カバンなどを手に取り、ドスドスと音が聞こえてきそうなほど荒い足取りで、お店のドアを勢いよく開けビシャン!! と叩きつけるようにドアを閉めて彼はお店から出ていった。


――何だアイツ……。

 俺は男性の出ていったドアの方をじっと見つめていた。


 女将さんはお店の中に居るお客様に頭を下げ、ほんのお詫びのしるしと1品を無料でサービスしてくれた。俺もその騒ぎの一旦であったため居心地が悪くなったので、お店から出ていこうと請求書を手にしたのだけど、恋さんと女将さんから「まぁまぁ」「ゆっくりして行ってね」とにっこりとされると、さすがにそのまま出ていく事が出来ず、心の中でもやもやを抱えながらも、出された料理を口に運んで更に瓶ビールをもう1本だけ頼み、しばらくしてからお店を後にした。




 それからしばらくはお店に顔を出す事も無く、自分の仕事をこなす事に精を出していたのだけど、とある日に1本の電話が仕事用ではなくプライベート用のスマホへとかかってきた。


「え? 迷惑行為が?」

「そうなのよぉ~。もうどうしていいかわかんないの。頼れるのはよっちゃんしか思いつかなくて。こうして相談に乗ってもらおうと思って」

 電話の相手は小料理屋の女将さん。電話では詳しい話もできないかなと、まだ営業時間になる前のお店へと足を運んだ。


 お店の中に入ると、女将さんと恋さんが俺を待っていてくれた。すぐに俺は二人の元へと行き、座敷になっているところで座りながら、二人から話を聞き始める。


「どんなことが有ったの? 思い出せるだけ話してくれないかな?」

「えぇ~っとぉ……」

 女将さんは顎に指を当てつつ考え始める。


「まずはお店の前にゴミが――生ごみが大量に放置されるようになってて、それからお店に無言電話がかかってくるようになったわ。それから最近お店に来てくれるお客さんかが少なくなったなと思っていたら、常連さんからこんなものを見せてもらって……」

 女将さんがうぅんと考えていると、恋さんが代わりに有った事などを話してくれた。そして常連さんからみせてもらったというものは、SNSに書き込みされたお店の悪評の数々。


「これは……」

「たぶん、これもお店にお客さんが来なくなった原因だと思うんだけど……」

「あぁ……これは酷いね」

 SNSにあるグルメ紹介のサイトページには、色々な評価がされてはいるけど、悪質と思われる書き込みが複数されている。更に一つのサイトだけではなく、大手のサイトから個人でしていると思われるブログのようなものにまで、あること無い事書き込みがされていた。


「なんだこれ?」


『このお店の女将は若い男に夢中になっている』

『若い男の客には贔屓をする店』

『どうやら若い男の客に手を出しているらしい。そ手を使って常連を増やそうとしている』

『常連になったら掌返し。高額料金を取られる』


 身に覚えのないことまでも書かれている様で、恋さんもみていると眉間にしわを寄せた。女将さんは「あららぁ~」「これよっちゃんのことかしら?」なんて言っているけど、ちょっと困惑した顔を隠せないでいる。


「まぁ……ここまでされてるのに動かないわけにはいかないかな……」

「……お願いできる?」

「二人と……お店の為だからね」

「あら? 私達の為なの?」

 フフフと笑いながらニヤッと俺を見る女将さん。


「とにかく!! 動いてもいいかな?」

「よろしくお願いします」

 女将さんと恋さんは俺に頭を下げた。










「お邪魔するよ」

「いらっしゃいませ……」

 お店のドアを開けて1人の男性が入って来る。


「おやぁ? いつになくお店にお客さんが少ないねぇ」

「えぇ……で」

「酷いなぁ。それじゃまるで私が何かしたみたいじゃないか」

「…………」


 女将さんは何も言わず、男性をカウンター席ではなく、店の奥にある座敷スタイルのテーブル席の1つへと案内した。お店の中にあまりお客様はいないけど、念のためにそのテーブル席を一つだけ予約制としてセーブしておいた。


 そして男性がその席へと歩いて来る。


「なっ!? なぜお前がここに!!」

「お待ちしてましたよ。山取さん……」

 

 そう、以来、毎日の様に来ていた山取は、何かがあったのかと思うくらいにお店に寄りつかなくなった。なので何時山取が来るか分からないので、テーブル席を一つだけ常に予約にしていて、そこに俺がいつでも来れるようにしていたのだ。


 山取がお店に入った瞬間に、お店の奥に待機していた俺はその予約席へと向かい、彼が席に来るのを待つようにしていた。


 あの日から、3カ月という時間が空いてしまっていたけど、もとより結構時間がかかってしまう作戦だったが仕方がない。



「チッ!! 女将さんこんな奴と同席なんてしたくないんで、席を変えてもらいますよ」

「いえ……山取さん。本日のあなたの席はこちらで間違いないですよ」

「なんだと!!」

 おれが山取にそういうと、俺の方をギロリと睨む。


「席に座って話しましょうか、あなたが今までしてきた事をね」

「…………」

 仕方がないというそぶりを見せ、山取は俺の対面の席へと腰掛ける。そのタイミングでお茶を持った女将さんと、恋さんが俺の横へときて腰を下ろした。スッとお茶の入った湯呑が俺たち全員の前へと音もなく置かれる。



「山取さん。本日はあなたを待っていたんですよ」

「はん!! 貴様に何ぞ待っててもらう理由なんぞないな!!」

「いえ!! こちらとしては……いえ、このお店と女将さんとしては大有りなんですよね」

「なに?」

 そういうと俺は持ってきていたカバンの中から、いくつかのファイルを取り出して山取の前へと置いた。


「あぁ、ここからは申し訳ありませんが会話を録音させていただきますね」

「なんだと!? 何故そんな事をする!! プライバシーの侵害だろう!!」

「これが証拠として残されるものなので……。まぁ、まずはそのファイルに眼を通してください」

「ファイルをだと……?」

 そういうと手元にあるファイルに手を伸ばし、ぺらぺらとめくっていく。次第に山取の顔色がさぁ~っと音を立てているかのように青ざめ始めた。


「な、な、ななんだこれは!?」

「なんだと仰られてもですね、あなたがなされたことの証拠ですよ」

「ど、どうしてこんなものが……。というかこれこそプライバシーの侵害だろう? それに何だこれは!! どうやってこんなことまで」

「それは、その中に書いてあることを御認めになる……という事でよろしいですか?」

 山取は顔を上げ俺の方を睨む。


「こんなことをしてただで済むと思うなよ!! これこそ名誉棄損で訴える事も出来るんだからな!!」

「名誉棄損も何も……。そこに書かれた事はあなたがやったという事実とその証拠が書かれているだけですよ?」

「ぐぬっ」

「まぁ、逆に名誉棄損で訴えられるのは、貴方の方になると思いますけど」

 俺がそういうと、女将さんと恋さんがコクコクと頷く。



「何が名誉棄損だ!! 本当の事じゃないか!! 女将さんが貴様に対する対応などがその証拠だろう!!」

「それは……女将さんが俺に対して何をしていると?」

「何かではない!! 現に貴様に対して贔屓しているではないか!! 貴様も女将さんに唆されたのだろう? その色香を使ってこの店に来るように、そして男女の関係に――」

「それはあり得ません!!」

 山取が俺に対して女将さんとの関係について言及し始めたとき、隣に座っていた女将さんが大きな声でソレを制した。


「私とよっちゃんは……いえ、善人とは姉弟なのですから」

「はぇ?」

 山取から変な声が漏れた。


「それに善人からはしっかりと料金を貰ってますし、男女の関係? 依怙贔屓? そんなものしてません!! まぁその……会話とかは姉と弟ですから、普段通りにしちゃってるかもしれませんけど」

「姉と……弟だと?」

 俺と女将――姉さんはこくりと頷いた。


「それと、善人は私の高校からの親友であるこの恋ちゃんといい感じなんです!! そんなこと言って邪魔しないでもらえますか?」

「「え!?」」

 姉さんは恋さんの体をギュッと引き寄せ、恋さんは姉さんの言葉に驚き顔を真っ赤にして俯く。俺は姉さんの顔を見つめた。




「まぁ、まぁ俺と女将さん――可憐姉さんは年が2つ離れた姉弟です。それは間違いじゃないですよ」

「そ、そんな……バカな……」

「まぁあなたがどのように感じていたかはこの際どうでもいいんですけど、あなたがお店にした事などには責任を取ってもらう事になりますね。姉さんからも正式な依頼として弁護士を通して訴えさせていただきますので」

「弁護士? 訴える?」

「えぇ……。申し遅れました。は弁護士の元寄善人と申します」

 スッと胸ポケットから名刺入れを出し、その中から一枚の名刺を取り出して、山取の前にしっかりと見えるように滑らせるように置いた。



 その名刺を見たり俺の顔を見たりと山取は忙しなく動く。



「シッカリと償ってもらいますね」

 俺はそんな山取を見ながらにっこりと微笑んだ。










 山取はその後、しっかりと姉さんとお店から訴訟を起こされ、証拠も何もかもを抑えられていた事で裁判は順調に進んでいる。

 それにより、地方版ではあるけどニュースにもなった事で、ちょっとした話題の人となった。会社は社長のしでかした事を早めに沈静化を図り社長を解任。それでも少しばかり利益が下がった事で損害賠償をするという方向で進んでいるらしい。

 自慢していた社長としてのステータスも、今ではもはや見る影もなく、今では裁判所へと向かうとき以外は、外出することもままならない状態になっている。


 色々な勘違いをし、自己完結と自己満の為に動いたが故の自業自得。

 俺も姉さんも、時々山取と顔を合わす事があるけど、もう俺達の事など気にしている素振りもない。


 お店にも俺達姉弟にも、平和な日常がようやく戻ったのだった。





「ねぇねぇ……」

「ん?」

 いつものように仕事が終わって姉さんのお店に寄り、夕飯と晩酌を同時にしていると、俺の席の隣にスッと姉さんが座った。


 そして、テーブルの上の片づけをしている恋さんの方へと顔を向けると、にこりと笑う。


「あなた達……もう肉体関係になってるの?」

「ぶふぁ!!」

「いやん、きたないわねぇ……」

 口に含んでいたビールを噴き出す俺。その隣で俺が噴き出したビールをせっせと拭きだす姉さん。


「ねぇ、どうなのよ?」

「ま、まだだし!! そもそもまだ付き合ってもないし!!」

「え? そうなのぉ? てっきり私はもう……ねぇ、恋ちゃん?」

「え? いやその、わ、私はその……いつでもいいよ?」


「え?」


――いつでもいいよ? え? 何が? どっちが?

 恋さんは顔を真っ赤にしてさっさと食器を載せたトレーを持ったまま厨房の中へと入って行った。


「まぁ、がんばんなさいな!! おねぇちゃんは応援してるから!!」

「え? あぁ……うん……」


――あれ? もしかして俺の気持ちって姉さんだけじゃなく、恋さんにもばれてた?


 顔が熱くなるのを感じて、俺はビールを一気飲みして暑さを紛らわそうとしたけど、先ほどの恋さんの言葉が脳裏から離れず、尚更赤くなってしまったのだった。







※あとがき※

お読み頂いた皆様に感謝を!!


 ちょっと長くなってしまいましたが、新作短編を掲載しました。

 今回のお話しはいかがでしたでしょうか?


 学生同士のアオハルもいいですし、こうして社会人となった大人の恋愛(まだアオハルと言っていいのかな?)もいいですよねぇ(*^▽^*)


 因みにですけど――


 元寄善人=元より善人

 元寄可憐=元より可憐

 山取好弥=山を取るの好きや=マウント取るの好きや!!

 待手恋=待って恋=待ってられん!!


 という感じで登場人物の名前は考えました(笑)

 恋だけは名字出せて無いけどね。(^▽^;)


 2024,05,02, 現行タイトルに変更。 

 2024,05,02, 恋について加筆。

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隣の席のやつがいきなり俺にマウント取ってきた!! いやいや勘違いしてるみたいですけど俺達そんな関係じゃないですよ? 武 頼庵(藤谷 K介) @bu-laian

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