第4話 噂
次の日、ヘンリーはわくわくした気持ちで教室に入って行った。なにしろ、
「おはよう」
そんなに大きくはないが、ヘンリーにしてはかなりがんばった声で
「お前んちの父ちゃん、
なるほど、クラスメイトたちがこそこそと話をしていた
「…うん、そうだよ」
そう答えると、ボブは「ハッ」と言ってぐいと胸をそらし、ヘンリーを見下ろした。
「都会じゃどうだったか知らないけどな、この町じゃ働いてない大人はカスなんだぜ」
「うん、だから仕事を探しに来たんだ」
「もともと社長やってたんだろ? それなのになんでこんな町で
「え、そうなの? そりゃたいへんだねぇ」
そうこうしているうちに
どうにか授業を乗り切り、
「やあ、ミスタ・ハリー。父ちゃんの仕事は見つかったかい?」
ロバートが妙に
「むりむり。俺の父ちゃんは
ボブがニヤニヤと笑いながら言う。
「だってさ、ハリー。
そういうロバートの言葉をヘンリーが
「おい、なんとか言えよ!」
手をバン!と机に
「ちょっと、さっきから聞いてたら何よ。ハリーのお父さんは仕事を探しにここに来たんでしょ?働く気がないわけじゃないんだから、それでいいじゃない。どっかの父さんみたいに、役所のカウンターでぼーっとしているよりよほどいいわよ」
その声の主を見上げるとリサだった。リサは両手を
「なんだよお前、女のくせに!」
「女のくせにって何よ」
「女だろうが!」
「すぐにそうやって性別を持ち出すのは負けを
そう言われたボブはなんの事かわからないようだった。
「はぁ…?」
リサは小さく肩をすくめると、ヘンリーの手をとった。
「さ、こんなのほっといて行きましょ」
まごまごしているヘンリーに
「リサ、さっきはありがとう」
お礼を言うヘンリーの事を
「ちょっとハリー!なんで言われっぱなしで言い返さないのよ。
「え…?あの、なんていうか、その…」
言葉が
「…」
リサは両手を腰にあてたまま
「えっと、その、パパが仕事を探しているのは本当だし…」
「じゃ、本当の事だったら何を言われても平気なのね?」
最初に
「えっと…」
「だって、あいつが本当の事を言ってるからあなたは言い返さないんでしょ?」
「う、うん」
「それなら、ムカつくけど本当の事だったら言われても仕方ないってことよね」
そうなんだろうか。ヘンリーはすこし考えこんでしまった。どこか変な気はする。でも何が変なのかはよくわからなかった。ボブは
「それは、違う気がする」
リサは大きくため息をついた。
「やっぱり嫌なんじゃない。どうして言い返さないの?」
「なんていうか、言葉がすぐに出てこないんだ。あんなにポンポン言われても何を言うか考えている間に話が変わっているんだよ」
それを聞いてリサはなるほどという表情になった。
「それにしても、そんなのでよく今までやってこられたわね。あっちではどうやって友達と
こんどはヘンリーがため息をつく。
「前の学校では友達って呼べる人はいなかったから」
「友達がいなかった?」
「うん」
はてなマークがさらに増えたようだ。
「え?え?わけわかんない。
ヘンリーは
「えっと、本を読んだり、勉強したり」
「ハリーってほんと変わってるのね」
「ううん、みんなだいたいそんな感じだったよ」
今度はびっくりマークが10個浮かんだように見えた。なんだろう、リサを
「えー!?他の子みんな勉強ばっかしてるってこと?」
「うん。みんな
うええ、とリサは本当に気分が悪そうな顔をした。
「やっぱりお金持ちって考えることが違うわ。ハリーも習い事とかしてたの?」
「ううん。うちはそこまでうるさくなかったからね。そういえば、スクワートはお兄さんが有名な大学に入ったとかで大変そうだったなあ。最低でもお兄さんと同じ大学に入らなきゃって」
「ふぅん。お金持ちはお金持ちで大変なのかもね…でも、ハリー、それとこれとは話が別。今度ボブたちに変なこと言われたらちゃんと言い返すのよ」
ヘンリーは正直言えばまったく自信がなかったが、そう言うとリサが怒りそうだったので、少しだけ
「うん…ちょっとだけなら」
「まぁ、最初はそれでいっか。じゃ、
そう言うと、リサは右の手のひらをこちらに見せた。なんのことやら分からないでいると、リサがヘンリーの手をとり、同じように顔の
リサは「それじゃ、また明日ね」と言って走って行ってしまった。
ヘンリーは「約束の印」のままになっていた右手を
その日の夜、ヘンリーはなかなか
しばらく
くろねこのジャック 葛原瑞穂 @mizuhokuzuhara
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