第5話 先輩との距離(物理)
私は、教室の机に座って、
「はぁぁぁ~~~」
とため息をついていた。
すると、そこに、
「なーに、そんなおっきいため息ついてんの?大丈夫そ?」
と、クラスメイトであり、小学校からの友達である、
「あー、いや、何でもないんだけど、何でもあるっていうか。」
「何それどういうこと?」
昨日、先輩に映画に誘ってもらった。そして、私は困惑しながらも、「はい、行きます。」とだけ言うと、先輩は、「ん、分かった。」と言って、お昼ごはんを食べ始めたので、私も食べた。そして食べ終えると、丁度お昼休みが終わった。おそらく先輩は、時間のことを考えて、一旦話を中断したのだということに、その時気づいた。
結局それ以上話さず、屋上から出るときに、「また明日も来てね。」とだけ言われて、教室に戻った。これが昨日の流れ。
うん、楽しみ。先輩と映画に行く。うん、楽しみで仕方がない。だが、それと同じくらい緊張している自分もいて、心がジェットコースターのため、何も手につかない。昨日、家に帰ってもずっとボーッとしていて、今日も学校に来てからずっとボーッとしている。何というか、現実味がないのである。
そして、この事を早苗に言うべきなのだろうか。別に、先輩のことを話すのはいいのだが、なんというか、先輩と二人だけの、あの屋上での時間のことは話したくない気がする。きっと私は、先輩との二人だけの秘密の時間でなくなるのが嫌なのだろう。多分。
早苗とは、かなり仲が良いし、キャラは完全完璧に陽キャで、クラスの中心人物に限りなく近い存在である。それに加えて、心配してくれる、優しい子なのだ。だから、ほどよく話すことにした。
「んー、まあ、実はある先輩と映画を一緒に観に行くことになって、、」
「え!?、、、あの、恋の『こ』の字も知らなさそうな小夏が、、!?」
「あー、待って、勘違いしてる。先輩は女の子。」
「いやでも、別に相手が女の子でも、、」
「まあ、その可能性もあるけど、私の場合は別!ただの友達!」
勢い余って友達って言ってしまったけれど、私と先輩の関係って一体何になるのだろうか。
友達、、、は何だか違う気がする。
「ふーん、なるほどねぇ、、その先輩、名前なんていうの?」
「古賀小雪先輩っていう人。」
「あー、二年の人か。」
「え、知ってるの?」
「うん、顔はずっと仏頂面だけど、学校で一、二を争うぐらいの美人だって、言われてる人で、ちょっとした有名人だから。」
「へぇ~、そうなんだ。」
「ていうか、どんな経緯でそうなったの?」
「あー、いや、ちょっとしたご縁がありまして、、」
「ふーん、、怪しいな、、やっぱり恋か?」
「それは否定しておきます。」
「ま、いっか。で、映画を観に行くことになったのは分かったけど、なんでそんなため息ついてるわけ?嫌なの?」
「ああいや、ただ単に、緊張、、してて。」
「へぇ~、あんたが緊張って何だか新鮮ね。」
「そうかな?」
「うん。だって普段のあんた結構ふてぶてしいというか、怖いもの知らずというかで、緊張することすら楽しいみたいな感じのタイプじゃない?」
「一体、私を何だと思ってるの!?」
まさかそんな風に思われていたとは、知らなかった。まあ、確かに言ってることは当たらずとも遠からずという感じで、否定はできないのだが。
そうして、早苗と雑談し、再び授業を受け、待ちに待った昼休みの時間である。いつものように、少し影を潜めて屋上の階段を上り、扉に手をかける。ゆっくり回すと、カチャッと音がなる。そうして、扉を開けると、
「ん、こんにちは。西下さん。」
先輩が、そこにいる。
「古賀先輩、こんにちは。」
ここまではいつも通りだった。そう、ここまでは。
「ん?座らないの?」
「あ!はい!座ります!」
うん、どうしよう。楽しみと緊張が混ざりあって、普段通りにできていない。
私はとりあえず普段の場所に座った。深呼吸をして、呼吸を整える。少し落ち着いた。先輩はまだお昼ごはんを食べ始めていなかったから、きっと、会話が先になるはず。さて、、どうしようか、と思って、先輩を見ると、先輩は身体をこちらに向けて、じーっと私のことを見ていた。
「えと、先輩?どうしました?」
「ん、貴女、スマホって持ってる?」
「スマホなら、ポケットの中に入ってます。」
「そ、じゃあ、連絡先交換しよ。」
「あ、そっか、映画行く時に交換してないと不便ですもんね。」
「ん、そういうこと。」
そうして、先輩と連絡先を交換する。先輩のスマホケースは、小さくうさぎの耳がついてるケースで可愛かった。ちなみに私はケースに入れない派である。
「これで、、、、大丈夫だね。」
「そうですね。おお~、先輩の連絡先がある。」
「ふふ、どういう反応なの?それ?」
「いや、何だか嬉しいなと思いまして。」
先輩は今日も変わらず仏頂面なのだが、なんだかテンションがいつもより高い気がする。そんな顔に見える気がする。気のせいかもだけど。
「そうなの?それなら良かった。ああ、そうそう、それでね、今日は、今週の映画のことで色々と話したいのだけど、いい?」
「はい、もちろんです。」
「ん、じゃあまず、場所と時間から話そっか。」
そうして、お互いの家のことや、交通手段を話し合って、一番近場の大型ショッピングモールの中の映画館に行くとこになった。しかも、その後に一緒にご飯を食べることになった。嬉しい限りである。
「ん、とりあえずこんな感じの予定でよろしくね。」
「はい、了解です。」
一通り話終えて、何だか先程までの緊張が少し和らいだ気がしていた。そしてその時、私はあることに気づいた。普段はドアを間に挟んで喋っているが、今は、隣に座っている。先輩の真横にいる。先輩の呼吸の音が聞こえるほどの距離にいる。いや、呼吸は流石に聞こえないか。
先輩は私より少し小さい。だから、この距離だと、私と目を合わせる時に先輩は少し上目遣いになっていて、それが本当にかわいい。ああ、本当にどうしたのだろうか私は。何だか先輩をすごく抱き締めたい。クラスの女子同士で軽いハグをすることはある、たまにだが。しかし、それとは全く違う、ぎゅーっとしたい。そんなかわいさが先輩にはある。早苗が先輩は学校で一、二を争うくらい美人だと言っていたが、美人というよりかは、どちらかというとかわいい系の気がする。
そんなことを考えていると、
「ん、どうしたの?」
と先輩に聞かれた。
「あの、このくらいの距離で話すと、普段と何だか違うな~って考えてました。」
「ふふ、確かに。いつもより近い。」
「ちなみに、、離れた方がよかったりします?」
「んーん、、そばにいてほしい。」
「へ、、、?あ、はい。」
何となくのつもりで聞いてみたのだが、予想外の返しが来て少し戸惑ってしまった。
そばにいてほしい、、、って、何だか特別な言い方じゃない!?
と考えていると、
「あ、、、まって、言い方、間違った。そばにいても大丈夫ってこと。いてほしい、、は、ちょっと言い過ぎた、、かもしれない。」
と、訂正の言葉が飛んできたのだが、、、
先輩の耳が赤い。真っ赤になっている。顔はいつも通りなのだが、耳だけ普段と違う。まさか、先輩、照れているのか、、?心なしか普段より先輩の動きがそわそわしている気がする。とてもかわいい。あと、写真撮りたい、、、。そう、思った。
まあ、そのことを特別、指摘しようとは思わず、 その後は普段のように他愛のない会話をしたり、お互いの時間をゆっくりのんびりしたりした。
ちなみに、先輩に映画のことを少し教えてもらったのだが、ジャンルはラブコメらしい。先輩と一緒に外へ行くのも楽しみだが、映画も楽しみである。
結局、昼休みの後も、ずっと落ち着けない一日だった。おそらく明日もそうだろう。明後日の土曜日まで、きっと私はこうなのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます