第4話 先輩とお誘い

「古賀先輩こんにちは」

「ん、こんにちは」

名前を聞いたあの日から数日が経ち、今日は水曜日である。あの日以来、私は、お昼休みにこの屋上に通っている。ちなみに昨日、授業をサボってここへ来たのだが、屋上のドアは開いていなかった。つまり、先輩はいなかったのである。初めて会ったあの日は、本当に偶然だったのだ。


「ねえ、西下さん」

「はい、何ですか?」

「突然だけれど、貴女、趣味とかある?」

「趣味、、ですか?」

ここ数日間、屋上で先輩と色々な話をした。他愛のない淡々とした会話だった。だけど、所々で先輩が変なことを言うのが面白かった。それなりに多くのことを話したつもりだったのだが、趣味のこととか、そういう学校にはあまり関係のない話はこれが初めてだった。昨日までの話題でいうと、学校の授業とか、友達についてとか、行事とか勉強とか、そういうものだった。

「うーん、、そうですね、、アニメとかゲームとか、あとは漫画にラノベとかですかね。」

「ラノベ、、なるほど、ラノベね。」

そう言うと先輩は、いつも屋上に持ってきている小さなカバンの中からブックカバーのついた一冊の本を取り出した。おそらく、この間、読んでいた本だと思う。

「貴女、この本、知ってる?」

先輩はブックカバーを外して、表紙を見せてくれた。

「ああ、なんか最近話題になってるやつですよね。ついこの間に知りました。」

「そう、出版はだいぶ前だけど、最近になって急に売れ出してきて、話題沸騰したかと思いきや、映画化が決定して、なんと、本日公開なの。」

「へぇ~、そうなんですか。」

「そう、それでさっき、今週の土曜日に観に行くことに決めたのだけれど、、、」

ここで私は、閃いた。もしかして、先輩は一緒に映画を見ないかと誘ってくれるのではないか!?うん、嬉しい。

「そうなると、来週の私は、映画の感想の話ばっかりするかもしれないのだけど、貴女、そういうの嫌だったりする?もしそうなら、しないように何とかして言いたい衝動を抑えておくことにするのだけれど。」

ああ、違った、、、と、残念に思いつつも、

「全然いいですよ、確かに、映画の感想って誰かに話したいですもんね。」

先輩の話したい気持ちは、私もそうだからよく分かるし、しかもその上で、話したいのにも関わらず、私に気を遣ってくれている。それがどこか嬉しかった。

「ふふ、ありがとう。私、この作品、結構好きだから、誰かに話したいのだけれど、クラスメイトの友達とかに話すのは何だか違う気がしててね。」

先輩は本を閉まってお昼ごはんを取り出しながら言った。


先輩は、私と似ているところがあるから、きっと私と同じように、波長の合わない人に無理に合わせて生きている気がする。そして、世の中の大半の人とは波長が合わないはずだ。まあ、単なる推測にすぎないけれど。


「ねぇ、ちなみに貴女は普段どんな本読んだりするの?」

「へ、?ああ、本ですか?うーんと、、そうですね、、、」

私は家の本棚を思い出しながら、

「恋愛小説とかが一番多いですかね。」

と言った。

「へぇ、、そうなのね、、、」

先輩は相変わらずの仏頂面だが、どこか神妙そうな雰囲気の顔をして、

「貴女、、恋とかしたりしてる?」

と言った。

「え!?、、いや、特にはしてないですけど。何でですか?」

「ん、別に深い意味はなくて、ただ恋愛っていう単語が出てきたから、興味が湧いたの。」

顔が真剣そうに見えるから、真剣に聞かれたとように感じたけれど、きっと先輩は軽く聞いたつもりだったのだろう。

「ああ、なるほど、、、あの、ちなみに先輩はどうなんですか?気になってる人とか、、」

「私?、、そうね、今まで一度も恋愛をしたことがないし、そういう人はいないわね。私のこと好きになる人とかいなさそうだから、無意識に諦めてるのかも。」

「そうなんですか?先輩モテそうなのに。」

「ふふ、ありがと。でも、私と性格が合う人なんてそうそういないから、難しいのよね。」

先輩ならなんだかんだ言って、将来的にはいい人と出会ってそうな気がする。なんとなくそう思いながら先輩を見ていた。先輩は空を眺めている。ああ、本当に綺麗な人だなと思っていると、

「あ、気になってる人はいるかも。」

と言った。

「そうなんですか?クラスメイトとかですか?」

「ん、クラスメイトじゃなくて、」

先輩は私に目を合わせると、

「貴女、、、西下小夏さん」

とさらっと言った。

「へ、、?ええっ!?」

私は急速に心拍数が上がるのを感じていた。先輩が、私のことを好き、、?

「ああ、あれね、恋愛的な意味じゃなくて、存在的に気になってる人ね。」

「え、ああ、そういうことですか。」

ああ、また勘違いというか、早とちりをしてしまった。恥ずかしい気持ちになる。顔が熱い。これは顔が赤くなっている時の感覚だ。

私はそれを見られたくなかったため、すごく焦った結果、

「まあ、それで言うと、私も先輩のこと気になってるかもですね。さっきも映画の話の時、最初てっきり誘われるのかと思っちゃいましたもん。」

と、何を血迷ったのだろうか。口から勝手に矢継ぎ早に出てしまった。

人は、恥ずかしい気持ちを隠すとき、何かと早口になってポンポン喋ってしまう性質を持っているのではないだろうかと思う。

最後まで言い切ったあと、頭が冷静になり、恥ずかしさが余計に込み上げてきていた。

一体私はなぜこんな余計なことを、、。

その時だった。

「あ、それ、いいね。」

「へ、、?」

「ねえ、夏下さん、、、」

と言いながら先輩は私に近づいてきて、

「今週の土曜日、空いてたりする?よければだけど、一緒に行かない?」

と誘ってくれるのであった。

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