W4FF-1-8:シシィ@紅い大地 第1コロニー

明るい空と赤茶け荒涼とした広い大地を見渡す。地平線の岩肌をなぞるように、青空が惑星独自の色彩にゆらめく。煌々と照りつける大気光の下をアニマノイドのデュデュがスゥーっと飛んで行く。明るい日差しを受け乳白色の太陽光フィルムが大きく広がり柔らかい日陰を作ってくれる。


チャーター機で領主街の宿泊所にチェックインして数日…やっとフィールドワークに出ることを許可された。


「ここは領主街から一番近い町です。あちらが近場の廃坑山です。」


ヴェッキオ首長の息子と侍従の少年が事務的に案内する。同行者には護衛のガムズ氏も帯同することになった。民族独特のタトゥーと複雑に編み込まれカラフルなビーズを付けた少年たちと黒っぽい如何にも護衛風の身なりの大柄な男性が荷物をまとめながら少年たちに指示をする。


出発の朝、迎えに来た同世代の少年達の側で痩身の可愛らしい少女が見送りに来ていた。


「ねぇ!ヒイトってばなんでスミなしの女と旅行なんか行くの?」

「仕事だって。仕方ないだろう。」


スミなし……やっぱりタトゥーしてないと目立つのかな。ここ数日、宿屋でも市街地でもジロジロと余所者に対して不躾な視線が刺さって気になっていた。可愛らしいヤキモチの攻防にみんなお腹いっぱい。といった表情で事務的に男性陣が「はい。時間なので行きましょう。」と進行する。


「浮気しちゃダメだからね!タトゥーに誓って!!」

「ええ?!こんなところで?」


何を照れているのか分からないけれど、ヒイト少年は顔を真っ赤にして少女とてを合わせるとそろいのタトゥーが浮かび上がる。うーむ。お揃いは地球でもなかなかのバカップルなのでそんな感覚だろうか。若いなぁ。


「ほら。これでいいだろ!!もう行くからな!!」


耳まで真っ赤になる少年に満足したのか少女は「いってらっしゃい。お土産忘れないでね!」ととびっきり可愛い笑顔で頬にキスをする。……横目に牽制するオンナの視線が突き刺さる。


「あ。私は研究が恋人ナンデ。」


地球と変わらない言い訳をする。何光年も離れた星で私は何を言っているのだろう。虚しいとっとと解放されたい。


なんとなく、その場全員がそんな空気だった。


ーーーーーーー


移動中の車内は事務的な案内と、旅程の説明を受けながら淡々と進んでいく。

どこまでも広がる大地と雄大な地平線に彩りを添える岩山の間をホバーキャラバンで駆け抜けていく。

ホバーが巻き上げる砂埃が光を受けて噴煙のなか、ところどころキラキラと光輝く。


指定された観測地点で採取や観測をする。その度にデュデュは翼をふんわりと広げて日陰を作りながら『順調かい?』と声をかけてくれるので、我関せずの男性陣の中でちょっとした息抜きになる。


「この星でお友達ができたらよかったんだけど……私の共通語ヘンかしら?」

『警戒されてたねぇ。婚約したてでラブラブみたいだから仕方ないよシシィ。』

「そう!だからこそ聞きたかったの!この地域の冠婚葬祭とか文化について。」


先日の集まりで怒らせてしまったから無理だろう。テロに巻き込まれたのが彼の親族とは知らなかったのだ。この部族は独特の形状のタトゥーを全身に施していて興味深い。マイクロチップ以外にタトゥー状のデバイスは外宇宙では聞いたことがないので気になっている。私はタトゥーをしていないので街を歩くとすごく目立って視線が痛いのでフィールドワークに出てやっと視線から解放された気分になる。


遠目に泥を塗り固めタイル貼りをした建物群の小さな町を眺めながら、街道沿い約3キロごとの砂や土石を採取してシャーレに並べて黙々と保管する。


「採取地点はピンが差しやすくてよかったわ。」

ピン上部のスイッチを押すと、ピンについているラベルに観測地点のGPS情報と土壌の成分情報が記録される。そのまま手早く、採取キットの蓋にピンを刺すとラベルがケースに表示されるので黙々と同じ作業を繰り返す。何度目かの観測地点で長身の青年が手伝いをしてくれるようになった。


「ありがとうございます!」

「……いえ。手伝いなんで気にしないでください…。」


寡黙な青年はシャーレと採取キットを几帳面に黙々と番号ごと並べていくので研究職としてはありがたい。キャラバン車輌を運転するガムズ氏と手分けしてテキパキと荷物を片していく。


「これ、楽しいですか?」

「全部似たような石っコロに見えるな。」


帯同していた小柄な少年はヒイト氏と一緒に飽きてしまったようだけれど、緊張がほぐれたのかやっと普通に話してくれるようになってちょっと嬉しい。


「明日は廃坑山ですよね?鉱山の方が面白いですよ!どんな発見があるのかワクワクします。」


とはいえ、地球の友達もひたすら石を眺めている私に「何が面白いの?」とよく聞いてきたのでちょっと不安だけれども石マニアを増やすために気にしない。


「地球となんか違うの?」

「……見た目は大きくは変わらないです。人間が住めるように地球風に開拓されているので成分分析を見ないといけません。」


透明なシャーレ越しに砂や石をザラザラと振って日差しにかざしてみる。雲母か硝子質のような物質が含まれているのかややキラキラしている石、独特な赤味を含んだ質量の軽い砂など分析をすぐにしてみたくてソワソワしてしまう。


「ほらこれ!!ちょっと気孔があって斜めにすると色が濃くなるでしょ?これは初めて見る石なので面白いです!!」


「こんなのそこらに転がってんだろ。」


「だからいいんじゃないですか!地球にとってはレアメタルが含まれるかもしれないからいい輸出エネルギーの材料になるかもしれませんよ。」


「はぁ…こんなのがねぇ……。」

「いま活動している鉱山の方が色々採取できるので、シシィさんには面白いかもしれませんね。」

「どんなのが取れるのですか?」メモデバイスを取り出して聴き込んでしまう。


地球にも輸出しているメジャーなメインエネルギー物質・食料肥料用・鉄、銅、石材などの鉱山資源がメイン。多少のレアメタルもあるらしいが鉱脈はどれも分散して遠いらしい。


「女は宝石とかの方が喜ぶんじゃねーの?」

「ああ、そう言ったのも面白いですよね!」

「……面白いって。なんじゃそら。」

「明日行くのは宝石の取れる鉱山なのですが、ヒイトさんは婚約者のコアメリアさんにお土産をねだられてるんですよ。」


なるほど。婚約指輪でも作るのかと思案する。かなり装飾品を身につける習慣の多い民族なので宝石の需要も高いのか。改めて気になりだしジロジロと衣装を見聞していると彼らは怪訝な様子で睨み返してくる。


「そういった装飾品の原材料ですか?」

「まあ、そうだな。女どもはこういったビーズでやたら飾り立てたがる。」

「どこも変わらないんですね。」


ため息をつきながらビーズをマジマジと見つめる。


「なんか他の女の子とビーズ見るのは一緒なのに、なんでちょっと変な感じなんだろう。」

「俺に聞くな。」


呆れる男性陣の言い分も地球の兄弟友人と変わらない。ちょっと安心してしまいつい笑顔が綻んでしまう。


「……帰りはビーズの露天商でも見に行きますか?俺も旅用のデバイス予備欲しいんで。」


長身の青年が近場の投宿予定の町で補給を兼ね買い物を提案する。町並みや住人の様子もフィールドワークには大切なので大賛成だ。


「名案!土産はそこで買おう!!」

「こんな近場で買ったらバレそうですけど……まあいいのかぁ……」


楽しげな空気で賑やかな旅になってきた。石マニアはやっぱり宝石とか装飾品からかなぁ?地球と変わらず戦略を練りほくそ笑んでしまう。


「お子ちゃまたちは楽しそうだねぇ。」


大柄なガムズ氏が子守りに疲れたお父さんの体で大欠伸で呟き、デュデュがふわりとガムズの肩に留まった。ガムズは黒いフードの隙間からシルバーボディのアニマノイドに視線を送る。


「鏡は左右しか変わらんもんだな…。妙な空だ……。」


夕焼けの赤さと赤い大地で地平線が曖昧に溶け合う真っ赤な空間、シルバーの鳥は空の色が変わるたびに色を染めていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 12:00 予定は変更される可能性があります

Who 4 fork folkloren 小川かこ @Ogawa_kako

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ