W4FF-1-7:デュデーソンと議会
『さて。お歴々に集まって頂きました今回の議題を整理しましょう。』
見慣れた議会のメンバーの集まる会議室は緊張感が漂っていた。
集まることの最大の意義はいつの時代でも情報漏洩を防ぐため。通信に関してはどうやったって傍受されてしまうので、盗聴とのイタチごっこは地球時代に分かりきっている。テロが頻発しているので公の議会は通信電波等あらゆる盗聴対策として電波を遮断する席を設け直接話をせざるを得ない。
「そんな形式ばった会にはとても思えないけれどね。」
第1コロニーのヴェッキオ首長は歴が長いので勝手知ったる様子で卓上の晩餐や酒類を見つめてため息をつく。
「本来なら、息子さんのお披露目と歓迎会を兼ねた晩餐会でしたから残念ですね。」
「事件後で気が気じゃないのに、晩餐がてら話す内容じゃないだろう。」
第2コロニーのティエンぺ首長と第4コロニーのガガッジェス首長は互いにテーブルの酒宴に手をつけるのに躊躇っている。
「事件で食欲が湧かないのはもっともだが、乾杯くらいは良いだろう。」
銀色の酒器を片手にすでにアルコールを楽しんで陽気な様子の第3コロニーのトジケリイム首長は髭を撫でご機嫌だ。彼がご満悦ならこの宴席の意味はある。
「さあみんなせっかくご用意いただいたんだ。リラックスして会議をしようじゃないか。」
ヴェッキオ首長は「ふむ。」とこちらに目配せをしそれに合わせるように各領地の各員が盃を用意して回る。
琥珀色の食前酒に盃の縁は薄く青く光るのを確認しみんな口をつける。ヒューマノイドやアンドロイドは見た目の似ているエネルギー補給液をそれぞれ盃のフチが赤と黄色に発光する。見た目の似ている飲み物で人間用と間違えないよう成分を判別できるようになっている。ヒューマノイド用は生理食塩水やブドウ糖液がほとんどだけれども、義肢義足程度の人の場合は人用と変わらない人もいて中々面倒なのだ。
『さて。議題は大きく分けて〔テロ問題〕〔輸血治療関連〕〔地球からのゲスト〕になります。通常の議題は後日、通常日程で行います。』
「地球からのゲストは議論することかね。」
『テロが起こっている現在、地球側の研究者にバレてしまい今後の研究旅程に関しても対外的に対策は必要でしょう。』
「ああ、そうゆうことね。頭が痛いわ。」
ティエンぺ首長は長い首の首輪をカチャカチャ鳴らしながら頭を抱え周囲にアレコレと指示をする。
「結局のところ地球の研究者が何の用なんだ。」
『単純に鉱山や地質調査ですよ。皆さんのところを伺うので鉱脈なんか相談するのも良いかもしれないですね。』
「いやぁ鉱山地帯の第4としては……少々危険なので若い女性は遠慮したいですのぉ……。」
それはみんな一緒だと、それぞれ言い訳をするが言い訳は弱点を自ら言っているようなものなので決め手に欠ける回答に歯噛みし牽制しあう。
「第4はテロの拠点がありそうだから、さっさと中央の介入で粛清してもらった方がいいだろう。」
「それは乱暴ですよ!!」
「当日の調査はそちらの若手が受けたのでしょう?」
「それはみんな一緒ですよ。」
『今回、後継で調査を受けたのはあと第一のヒイトさんですね。問題はなかったですが。』
鎮まる空気に目線が集まる。ヴェッキオ首長が鎮痛な面持ちで盃を煽る。第1は親族に被害も出ている。我息子が一番懐いている叔父が犠牲者なので犯人なわけが無いと主張したいが感情的になると言い訳がましくなるので考えを巡らせる。
「嫌疑は各地あるでしょうが地球からの研究者の来訪は“全てのコロニーが対象”なのですか?」
『ええ。第1から順番に。これは内々の事前打診から変わりませんよ。』
ふむ。とヴェッキオは髭を撫でながら「危険が見込まれるのでしたら候補から外れるようでしょうが、私が安全に研究行脚にご協力できることを保証しましょう。」一番古株の威信を持って嫌疑を払拭するには良い機会だと言わんばかりに鷹揚に応えた。
「その代わり。」ギョロリと大きな瞳を編み込まれたビーズデバイスの髪の隙間からのぞかせ周囲を見渡す。頭中に散りばめられたビーズがまるで瞳のように広間全体を見据え鈍くひかる。
「今回のテロでわれらの重症者の輸血治療の優先的な配分を要求します。客人がいる間に不幸があっては、警備や案内に支障が出ますから。」
『リストでは領地からの支援は全コロニーで一番多いですね。到着後は他のコロニーに配分しても?』
大きく頷き、順番に輸血やコールドスリープのユニットの配備配分を被害順に整理していく。手腕はさすが古参だけあり、その様子に第3の首長も満足げな様子で酒肴が進む。
「地球への我が惑星の喧伝にもよかろう。我地はいつでも歓迎の用意はできていますからな。」
やや赤ら顔でふくみのある笑みを浮かべながらご機嫌な様子で食事に舌鼓を打つ。各々が和やかな様子で歓談がまとまっていく。
……
………
…………
「正直、びっくりしたわ。」
ティエンぺはナプキンで口元を拭いながら食事の跡を眺める。
普通はテロの後なら毒殺など用心するだろうけれど、肩透かしをくらってしまった。
これは信頼なのか、試されているのか、ただ第3対策なのか……。
“地球の地質学の研究者ね。”
首元のリングを指で撫でながら祈るように深く目を瞑った。
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