ダンジョンマスターメグミ
咲良喜玖
お仕事
ダンジョン。
それは、人間と魔物の生死をかけた死闘を繰り広げる場所。
人間は己の地位を確立するため。
ダンジョンの奥深くへ突き進む。
魔物は己の生存のため。
出世や自らの進化を目論む。
両者は互いを誇りと命をかけて戦う。
それがダンジョンだ。
◇
「お~い。嬢ちゃん。今日も元気に働くね」
スコップを持っている私はゴブリンのおやっさんに話しかけられた。
「ええ。頑張りますよ。あそこには戻りたくないので」
今日も私はダンジョンで働いている。
私の今の仕事は、冒険者を落とし穴に落とすべく、ゴブリンのおやっさんと共に落とし穴を作ることだ。
ダンジョンマスター。
ダンジョンで仕事をする魔物の役職。
ダンジョンマスターにはランクがある。
そのランク最下層のアルバイターである私メグミは、元々は悪魔メイドであり、その仕事を辞めて、ここ、カラウエダンジョンにアルバイターとして入社した。
私の前職はメイド。
アルバイトよりも、実入りがいいはずのメイドを辞めた理由はこうである。
―――――
メイド時代の話。
魔王様が言った。
「おいメグミ。なんだこれは、シーツがヨレヨレじゃないか。直せ」
「はい」
これは全面的に私が悪い。申し訳ありませんでした。
魔王様が言った。
「おいメグミ。ここにあった水晶はどこにやった」
「わかりません」
それは魔王様がどっかにやった。私は触れてもいない。あんたがどこに無くしたんだよ。
アホの魔王様が言った。
「おいメグミ。なんだ今日のご飯は、何故魚じゃないのだ。肉はヤダ」
「知りません。そんなこと」
これは魔王様が悪い。なんでも食えよ。みんな頑張って用意してんだよ。
クズの魔王様が言った。
「おいメグミ。この椅子。後ろの部分に埃があるぞ。ちゃんと拭け!」
「・・・はい」
お前は小姑か! 気になるなら自分で拭けよ。
クソの魔王様が言った。
「おいメグミ。おい。メグミ。お~い」
私は魔王城から出て行った。
――――――
そんなこんなで色んなことがあったメイド時代の私。
今は楽しくアルバイト生活を送っている。
「嬢ちゃん。穴掘り上手いね」
「そうですか。ありがとうございます!」
「あ。そろそろ人間がくるみたいだよ。隠れよう」
「はい」
私たちはダンジョンの壁の中に入った。
隠し装置があるダンジョン。
私たち魔物は。
ダンジョンでの修復作業中は人間たちに見られてはいけないのである。
人間が通り過ぎた後・・・。
「よし。落とし穴の発動は準備OKだ。次にいこうか。嬢ちゃん」
「はい。お願いします」
私たちは次の作業に向かった。
◇
「嬢ちゃん、間違えるなよ」
私は空になった宝箱を開けた。
「はい。青です! おやっさん!」
「うむ。ポーションだ!」
「はい!」
空になった宝箱を開ける。
すると宝箱は光る。
その光った色で宝箱の中に入れるアイテムが決まっているのだ。
青の場合は回復系である。
それが落とし穴の作成以外のお仕事。
宝箱補充のお仕事である。
「ん。ここはノーマルですか? ハイですか?」
「うん。ノーマルだ!」
「了解です。おやっさん」
私はノーマルポーションを宝箱に補充した。
「嬢ちゃん。次の仕事に移るぞ」
「へい!」
◇
カラウエダンジョンの三階北廊下。
「汚れはよく落とすんだぞ。次の人の迷惑になる」
「へい。おやっさん」
私は今、スライムモップで人間と魔物の血を処理している。
ダンジョン内を清潔に保つための清掃だ。
これもまたダンジョンアルバイターのお仕事の一つである。
「やばい。人間来たぞ」
「え? おやっさん。隠れましょう」
「おう」
この作業の時も、魔物は人間に見つかってはならないのだ。
◇
「いよいよだ。メグミ! 準備はいいか」
「はい!」
「俺たちのパーティー。残り二体はスライムになった。上からの命令で、バランスを考えてだそうだ」
「そうですか。おやっさん!」
今の私は戦闘前のエンカウント待ちをしている所である。
魔物がパーティを組み、エンカウント待機所で待つ。
侵入してきた人間たちを襲うための順番待ち中なのだ。
私のパーティーは、悪魔メイドとゴブリンとスライム二体。
たぶん、私の実力がここら辺の魔物よりも強いので、微調整が入ったかもしれません。
おやっさん。すまねえ。
「メグミ! 頑張んぞ」
「はい」
「いくぞ。お~~」
「お~~」
長蛇の列で待つ私の一つ前のミニデビル二体とアルミラージが転送された。
「いよいよだぞ。メグミ、緊張すんなよ」
「へい。おやっさん。大丈夫です」
「そうか。よし。俺たちの番だ」
私たちは魔法陣の上に立った。
転送されていく・・・。
◇
カラウエダンジョン五階ボス手前にて。
「な。なに!?」
おやっさんは驚く。
なんと、私たちの前にいる人間たちは総勢23名いた。
「なんだ。あと少しでボスなのに、ここでエンカウントかよ」
「ついてねえな」
「いや、それを言うなら、あそこにいる魔物の方が運が悪いのでは」
「そうですよ。たったの四体ですよ」
「とっとと片付けちまおうぜ」
人間たちは数の優位で、気が大きくなっていた。
私たちを見下していた。
「メグミ。もし逃げるチャンスがあれば逃げるんだぞ。俺なんか置いて逃げるんだぞ」
「おやっさん!」
おやっさんは、魔王様と比べてはいけないくらいにいい魔物だった。
「死ねえええええ。俺たちはボス戦するんだよぉおおおおお」
戦士風の人間の一声で戦闘が始まる。
二分後・・・。
「ぐふっ。逃げる隙が無い。メグミ。俺があそこに突っ込んで、一人でも倒す。そしたら逃げろ。お前だけでも逃げれば・・・俺は報われる」
スライム二体をすでに失ったおやっさんは、私だけでも助けようと動いてくれた。
こんないい魔物は珍しい。
魔王様も、このおやっさんの爪の垢を飲みまくって欲しい。
「今行くぞ。おおおおおおおお」
「おやっさ~~~~~ん」
おやっさんと人間たちとの死闘がここから・・・。
じゃなく、タコ殴りにあっておやっさんはあっけなく死んだ。
「仕方ありませんね。手出ししてはいけないかと思いましたが・・・はぁ。なぜあなたたちが23名でこちらが4体だったか。その真実をお見せしましょうか」
私は戦闘態勢を整えた。
◇
「あ・・・ああ。ああ、あ。こうだったかな。声はこんな感じかな。ああ、あ。人間たちよ」
私が人間の言葉で話し出すと。
「な、なんだこの悪魔」
「そういえばこいつ・・・メイドの格好をしてるぞ」
「ほんとだ」
人間たちは慌てた。
「説明は不要。私の実力を知るがいい。
人間たちの頭上から炎の渦が出現。
一気に数名を焼いた。
慌てる人間たちは、ダンジョンから逃げようと後ろを向き始める。
そこは逃がさない。
私は瞬間移動で進路を塞ぐ。
「どこへ行くのでしょうか人間。おやっさんを殺したのはあなたたち、人間でありますよ」
「うっ・・・」
「そんなの知るか。モンスターは狩られる運命なんだよ。死んでおけ。クソヤローが」
人間の中にはまだ言い返すことが出来るものがいた。
この実力差で気概はある。
「そうですか。では、その逆もありうるという事を知るといい。人間もまたこちら側からも狩られるのだとね」
私は人間たちに向かって、指を指す。
「
一人の人間の体から炎が生まれて飛び移る。
隣の人間、その隣の人間を地獄の炎が焼いていく。
人間たちはその炎の中で悲鳴を上げ続けていた。
「やれやれ。私たちだけが殺される運命だと思っていたのでしょうか。あなたたちは甘いですね。ダンジョンは甘くないのですよ」
人間と私に実力差があるのは仕方ない。
なぜならこのダンジョン、初級者ダンジョンである。
そして私は、魔王のメイドであった者。
だから、私に対抗するには、ラストくらいのダンジョン攻略者じゃないといけないのだ。
運が悪いと思って、来世を期待しなさい。
人間どもよ・・・・。
◇
こうして私は、アルバイターから出世していった。
アルバイターから、正社員。
正社員から、係長、課長、部長、社長。
登り詰めて行った先で。
私が社長になって配属された場所がなんと。
「おいメグミ。どこに行っていた。何をしていたのだ」
「あ・・・・」
私の最後の所属場所は魔王城であった。
メイドを辞めたのに、クソ魔王の配下となったのでした・・・・。
嫌だぁああああああああああああああああああ。
誰かもうこの魔王、倒してよ。
もういいからさ。
もうこいつは死んでもいいからさ。
この際、もう人間たちでもいいからさ。
とにかく誰でもいいから、この魔王を倒してください!!!!!
お願いします!
私の物語は魔王で始まり、魔王で終わったのでした。
―――あとがき―――
短いですがここで終わりです。
これの続きは、ちなみにあります。
長編のダンジョンマスターアカネであります。
アカネは、ギャグ寄りのハードバトルファンタジーです。
人間と魔物の死闘。
魔物と魔物の死闘。
人間同士の死闘。
とにかく死闘が続く、冒険もあるダンジョンお仕事ファンタジーであります。
メグミもギャグ寄りでしたが、中身は結構ハードでした。
ダンジョンマスターメグミ 咲良喜玖 @kikka-ooka
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