ブラックFランクパーティのさらに孫請派遣会社所属のワイ、ムカつくけど逆らえないブラック正社員に脅されて隣の会場でやってるSランクパーティー会場からピッチャーくすねてきたら、あいつらも発泡酒出されてた件

タカナシ トーヤ

酒好き呑兵衛《のんべえ》の下剋上

「今期の売り上げ目標を達成できたのは、優秀なる協力会社様皆様のお陰であります。我々ヒューマン・S・キャリアの成長は皆様と共にあると言っても過言ではありません。誠に感謝申し上げます。」


…本部長の川田がまた、心にもない台詞セリフを吐いとるわ。


開会の挨拶ともに、会場の数百人の拍手が巻き起こった。


ここにいるのは、ヒューマン・S・キャリアの正社員が2割。残りの8割はその下請け企業だ。

ワイも、今日は懇親会と称したこのパーティにしとる。

開始時刻は5時。この会に間に合わせるために勤務時間を別日にシフトされ、5000円の参加費も徴収されとるが、孫請けのワイには強制参加を断る権利などない。



休日出勤、深夜残業当たり前、休みの日でも当たり前のように電話が鳴る。

36協定にひっかからないよう、残業時間は調整され、一向に給料は増えない。

今のプロジェクトの納期は6月末。ワイの契約期限も6月末。


ワイの上司にあたる村田むらたが上機嫌で話しかけてきた。

「今日はもたくさん参加してくれて、我々正社員プロパーも嬉しい限りです。」


左様でござんすか、

ありがたや、ありがたや。

ワイは孫請まごうけさんじゃなくて酒匂さこうさんやがな。


「そっすね、村田さん、お酒いかがっすか。」

ワイは下からジョッキを合わせ、村田に酒を注いだ。


「あん?なんだこれ、ビールじゃねぇ、発泡酒じゃねぇか。」

村田の顔が険しくなり、いつもの口調になった。村田は感情が全て顔に出るめんどくさい奴だ。


「売り上げ好調なはずなのに、ケチくさいですねぇ。」


「嫌味言ってねーで、とっととビール探してこい!発泡酒じゃなくてビールだぞ、ビール。あ、酒匂さこう、隣で今、マンパワー・バンクスXのパーティがやってるはずだ。そっちに紛れ込んでビールくすねてこいや。絶対バレねぇから。」


なんて野郎だ。

ヒューマンSキャリアも、所詮しょせんはマンパワーバンクスXの下請け会社だ。

元請もとうけ会社のパーティに潜り込んで酒を取ってこいとか、正気かコイツは。


だがワイに断る権利などない。

断ろうものならワイの契約は6月で終了となるだろう。


「へいへい、わかりやしたー。」


野郎どもの人混みを掻き分け、ワイは隣の会場に忍び込んだ。

みなスーツ姿のおっさんばかり。ワイがどっちの会場にいようと誰も気づかないだろう。


人気ひとけのないテーブルにこっそり歩み寄る。



伊達だて酒屋さかやの血は継いどらん。

ワイには見ただけでわかる。

これはビールではない。発泡酒だ。



—村田の野郎は気づくだろうか。



いや、気づくまい。

あいつは酒に弱くてすぐ顔が赤くなる。

試しにビールだと言って持っていってやろう。



ちょいと芽生えた悪戯心いたずらごころがワイの顔をにやけさせた。




会場に戻ると村田は既に出来上がっていた。

いくらなんでも弱すぎだ。

ワイが席を外して10分もたっていない。

これはチャンスだ。


「村田さん、持ってまいりやした。」

ワイは発泡酒の入ったピッチャーを村田に渡した。


「おぉ〜う、酒匂さこうよくやった。でかしたぞ。」

村田はヘロヘロと俺の肩を叩く。


「お隣さんはユウヒビールでございやした。さ、飲みましょう、飲みましょう。」

ワイは泥酔した村田のジョッキに並々と発泡酒を注いだ。


「おぉおー!!!美味うまい!!!さすが、ビールは違うなぁあ!!!元請さんは、やっぱり違う。俺らと違ってリッチだなあ!!」


普段はワイに偉そうに威張り散らしている村田だが、ワイもお前も実は一緒だ。

所詮は、マンパワーXの下請けなのだ。


「さぁさ、飲んで飲んで。」

ワイはここぞとばかりに村田に酒を勧める。


「酒匂、お前も飲めよぅ。」

村田がワイの肩にもたれかかって酒を勧める。


「村田さんが継いでくださればいくらでも飲みましょう。」


ワイは空になったジョッキを村田の前に差し出した。


村田がワイのジョッキに発泡酒を注ぐ。

いい気分だ。


ワイはわざと、村田より高い位置でジョッキをあわせて乾杯した。


「カンパーイ!」

酒屋の息子のワイには一気飲みなんて屁でもねぇ。


2杯、3杯、4杯、5杯。


「村田さん、ワイのジョッキ、空きましたよ。」

「…あぁ!?…ああ。…待ってくれ…」

「待ちくたびれました。早く。」

「…すまん、酒匂さこう、ちょいと具合が…」


村田は手を口で抑えながら、うっぷと声を出して会場から出て行った。



ニヤけが止まらない。






ここはパーティという名の戦場だ。


かかってこいや


酒でワイに勝てる奴など、1人もおらんのだ!




去り行く村田の丸まった背中を見て、ワイは酒ではなく、【勝利】に酔った。










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ブラックFランクパーティのさらに孫請派遣会社所属のワイ、ムカつくけど逆らえないブラック正社員に脅されて隣の会場でやってるSランクパーティー会場からピッチャーくすねてきたら、あいつらも発泡酒出されてた件 タカナシ トーヤ @takanashi108

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