第二話  海

「夏休みどこいく~?」

いつも通りの道を二人で歩いている途中、陽菜(ひな)がふとそんなことを言う。

彼女は小学6年生のころ小さなこの街に引っ越してきた。転校してきた当初から彼女とは気が合い、帰り道もずっと一緒だった。そのまま同じ中学に上がり2年のころから付き合っている。

彼女のことはたくさん知っているつもりだ。好きなものから性格、すべてわかっているつもりの僕は

「明日海に行こう」と言った

もちろん海にした理由はある。思い出の場所だからだ。そしてこれからもずっとずっと彼女らの心の中に残るものになるから。

ここ元宮町(もとみやまち)は、小さな村のような場所だ。山と海に囲まれており、僕の通う一花高等学校は自転車で30分弱かかる場所にある。バスもないし電車も近くは走っていない。田舎というものをまんま表したような場所だ。

けど僕はこの町が大好きだった。物心ついた時から母と二人で生きてきたこの町が大好きなのだ。

特に海。元宮町の塩見浜はとてもきれいなものだ。朝は海に当たった光が自分を照らしてくれているような輝きを放ち、夕方は海全体が夕日の色に変わる。小さいころ何度この海の先に何があるのか考えたことだろうか。


塩見浜は陽菜との出会いの場所でもあった。陽菜がこの町に来た夜のこと。僕は塩見浜のいつもの場所へと向かった。大きな流木のベンチ。いつもなら一人でそこに腰を掛け、その日あったことすべてを忘れてしまうくらいの月明かりに照らされた透明で綺麗な海を見て気持ちを浄化させていたのだが、その日は何かが違った。いつもなら空席のベンチに人影が見えた。身長が自分よりも小さく、髪型がロングヘアーの女の子が一人座っていた。その女の子の後姿はとてもきれいで、年上のお姉さんのように感じるくらいの安心感、そして儚さを感じた。結局その日はすぐ家に戻った。

次の日、転校生としてやってきたのは塩見浜で見かけた女の子。昨日感じたイメージとは違い活発で明るい彼女は、昨日の夜見た女の子とは違う人のように見えた。そんな彼女のギャップに一目ぼれし、惹かれていったとはよく言えない。

陽菜と一緒に帰るようになってからは毎日、塩見浜に行っては走り回って砂だらけになって帰るという日々を過ごしていた。いつしか僕と陽菜の中で塩見浜は特別な場所になっていた。


思い出の場所になっている塩見浜は高校になった今でもよく来ていた。そして夏休みが始まった今日も。






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あの日見た景色 くらり @Crali

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