春和の候

「それは恋心も一緒だと思うの」

 

 貴方と出会った春、初めて花が自分の体から出てきてから私はずいぶんと春の花に詳しくなった。出てくるのは専ら貴方に出会った春に咲く花ばかりだったから。けれど、こんな偏った知識じゃ花屋にもなれないのにね。

 でも、貴方の恋人にだってもうなれないから。もう、抱きしめてもらえないなら。こんな空っぽの胸を抱えて生きていきたくはないの。

「だからね、その花は燃やして灰にして、どうか快晴に還してね」

 私はポケットに入れていた携帯を取り出して録音を停止した。ちゃんと声が入っているかも確認せずに貴方へボイスメッセージとして送り付ける。

 貴方に伝えたかった言葉は携帯の外に落として。


「あのね、好き、だったよ」

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拝啓、なずなの君へ。 熒惑星 @Akanekazura

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