ある秋の日

花月 里羽 (かずき りこ)

ある秋の日 ~一年目~

 ポツン、ポツンと歩道に大き目の水玉。

「えっ、雨⁈」と思っている間に本格的に降ってきた。

 休みの日にちょっと遠めの散歩をしていたら、突然の土砂降りの雨。

 ツイてないなぁと思いつつ、小走りで雨宿りができるところがないかと探していると、一軒の喫茶店があった。

 あそこで雨宿りと、ついでに休憩をさせてもらおうと急いで中へ入る。

 カランコロンと音を立てる扉を開けると、少し古びてはいるが落ち着いた雰囲気の店内。

「いらっしゃいませ。お好きなお席へどうぞ。」と店員さんに言われて、窓辺の四人掛けの席に座る。

 夕方前でピークを過ぎたのか、客はほとんどいない。

 置いてあるメニューを見て、ホットコーヒーと何か食べたいと思い、ふと目についたチーズとハムのホットサンドを、お水とおしぼりを持ってきた店員さんへ注文。

「コーヒーとホットサンドは、ご一緒でよろしいですか?」と聞かれ、

「一緒でお願いします。」と頼んだ。


 濡れた上着やカバンをハンカチで拭いて、椅子の背に掛けていると、

「お待たせいたしました。ブレンドのホットコーヒーと、ハムとチーズのホットサンドです。」と音を立てないようにそっと置いて、

「ごゆっくりどうぞ。」と微笑みながら去ってゆく。

 湯気の立つ熱いコーヒーと、焼き立てのホットサンドだ。

 まずはコーヒーを一口。

 熱めのコーヒーの香りと味を楽しんだあとは、ホットサンドへ。

 まだ十分に温かいホットサンドにかぶりつく。

 パンの外側のカリカリとした食感と香り、中の少し厚めのハムととろけたチーズが、最高に美味しい。

 あっという間に一切れ食べていた。

 残りのもう一切れも温かいうちに食べようと、コーヒーと共に先ほどよりはゆっくりと味わった。

 晩秋の雨に打たれて、思ったよりも体が冷えていたのだろう。

 温かい物が、美味しさと共に体に染み渡るような感覚に、気づけばほっこりしていた。

 窓の外はまだ雨。

 せっかくだから、ゆっくりしようと、追加で同じコーヒーと、店員さんお勧めの季節限定のモンブランのケーキを注文。

 置いてあった雑誌を取ってきて見ていると、コーヒーとケーキがやってきた。

 一杯目はブラックで飲んだので、二杯目はミルクを入れて味わう。

 そしてモンブランをフォークで一口パクリ。

 モンブランは思っていたよりも大きめで、外の栗のクリームも中の生クリームも両方共たっぷりで、甘さもちょうど良くて美味しい。

 お皿も、チョコやフルーツで少しデコレイトされていて嬉しい。

 ケーキなんて久しぶりだ。

 雑誌を見ながら、のんびりとコーヒーとケーキを頂く。

 コーヒーは半分近く飲んだところで、最後は砂糖を入れて飲む。

 父のコーヒーの飲み方だなぁと気づいて、ちょっと笑えた。

 父は外で飲む、ちょっと美味しいコーヒーの時に、まずはブラックの味と香りを楽しみ、次にミルクを入れて楽しみ、最後に砂糖を入れて飲んでいた。

 こうすると、一杯のコーヒーが三度楽しめると楽しそうに飲んでいた。

 それが印象に残っていたのだろう。

 大人になり、外でコーヒーを飲みだすと、自然と父の飲み方でコーヒーを飲んでいた。

 そういえば、しばらく仕事が忙しくて実家に帰っていなかったな。

 疲れて休日はずっと家でゴロゴロしているだけだったので、今日はせめて散歩でもしようと思い立ち、外に出たのだった。

 近いうちに一度帰ってみようかな。

 父にコーヒーの事を聞いてみたくなった。


 ふと気づくと、窓から夕日の光が射していた。

 雨も止んで、雲が流れて晴れてきた。

 どうやら帰れそうだ。

 レジで会計をして、

「ごちそう様。」と言うと、店員さんが笑顔で

「ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております。」と

「また来ます。」とこちらも笑顔で答えて店を出ていた。

 ここの喫茶店はものすごく居心地が良かったし、コーヒーも食べ物も美味しい!当たりのお店だったなぁ、また来ようと思いつつ、先ほどは気づかなかった公園の横道に差し掛かる。



「綺麗だなぁ………」と思わず口から言葉が出ていた。

 そこには、先ほどの雨でイチョウや桜の紅葉した葉が、道路や歩道に一面に隙間なく散りばめられていた。

 雨に洗われたその色は、落ち葉とは思えないほど生き生きと色鮮やかで、今までに見たどんな景色より美しい。

 少しずつ色の違うイチョウの葉の黄色達。

 桜の葉の絶妙な赤や黄色のグラデーション。

 虫食いの痕さえ芸術的だ。

 一つとして同じ色のものはない。

 これはこの瞬間にだけ見ることができる、秋の絨毯だ。

 夕日に照れされたその景色を、感動しながら眺める。

 心の中が、満たされてゆく感覚。

 大きく深呼吸した後、スマホでその景色を写真に収めながら、ゆっくり帰る。


 今日は、ツイてる日だったなぁと思いながら。




 ~読んで頂き、うれしいです。ありがとうございました~

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ある秋の日 花月 里羽 (かずき りこ) @kazuki-riko

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