これもノンフィクションホラー

崔 梨遙(再)

1話完結:1200字

 それは、僕が中学3年生の時だった。早朝、5時過ぎに、マンションのベランダから、


ドーーーン!


という大きな音が聞こえた。みんな目を覚ました。僕の家は、マンションの3階。上の階から、布団でも落ちてきたのだろうか? 僕と両親は、ベランダ側のカーテンを開け放った。


 そこに、長い髪の女性がいた。


 ウチのベランダと、隣のビルの間に挟まっていた。頭から血がダラダラと流れ、ウチのベランダに血だまりを作っていた。ピクリとも動かない。見た瞬間に、“これは死んでいる!”と思った。思ったのだが、僕等親子3人は、口を開けたまま声を発することができずに金縛り状態だった。


 誰が最初に言葉を発することが出来たか? 多分、母だったと思う。何秒か? 何十秒かの沈黙が破られた。動き出したら早い。スグに警察に電話した。ビックリするほど早くパトカーと救急車が来た。僕等は、手出ししなかった。プロに任せたのだ。


 警察は手早い。スグに血まみれの死体(やっぱり即死していたらしい)を回収して運ぶ。現場検証がこんなに手早いとは思わなかった。早朝過ぎて、学校には間に合ってしまう。そのくらい警察の処理は速かった。


 そこで、僕等は警察官に言われた。


「すみません、思ったよりも出血が多いので、死体を包める毛布か何かを貸していただけませんか?」


 何故か、僕の毛布が警察官に渡された。


「ちゃんと洗って返しますので!」

「「「返さないでください-!」」」


 屋上に、揃えて置かれた靴と遺書があったらしい。たまたま、屋上の鍵がかかっていなかったようだ。なんという偶然! 僕等にとってはトラウマ! 同じマンションに住んでいた同級生達が、上の階のベランダからこちらを眺めていた。その日、学校ではその話で盛り上がった。盛り上がっていたのは、見物していた奴等だ。僕は、生々しい死体を間近で見ていたので盛り上がる気にはなれなかった。



 そして、“返さないでくれ!”と言ったのに、クリーニングされた毛布が返って来た。僕等は、その毛布をジッとみつめていたが、確かに血の汚れは綺麗に無くなっている。だが、気持ち悪い。


「よし、使おう!」



 結局、母の判断で僕が使うことになったのだが、時々、高いところから落ちる夢を見るようになった。それは、僕の恐怖心が見せた夢かもしれないが、結局、その毛布は捨てて、秋には新しい毛布を使うことになった。


 警察の人は、掃除はしてくれない。ベランダの血溜まりは、母がホースの水で洗い流した。血を洗い落とすのは大変だったらしい。



 だが、あの血まみれでベランダに挟まっていた女性の姿は目に焼き付いてしまい、30年ほど経った今でも思い出すことが出来る。僕が知る、どんな作り話のホラーよりも怖かった。“あなたの家のベランダは大丈夫ですか?”







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これもノンフィクションホラー 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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