ついにゴール!

にゃべ♪

さまよえるワナビを救うカクヨムの精霊

 俺はつい最近執筆に目覚めた初心者ワナビ。絵心とかもないので、挿絵機能のないカクヨムに登録した。とは言え、カクヨムも上手い人が多く、下手な俺の作品なんて読まれやしない。

 PV0が続く自作の編集画面を眺めながら、俺は大きくため息を付いた。


「ああ、うまくなりたいなー」

「その望み、叶えてやるホ」

「うわ、何?」


 気が付くと、いつの間にか俺の側に全長30センチくらいの丸っこいぬいぐるみのような鳥? が現れた。絶対普通の生き物じゃない。何だコイツ。


「僕はカクヨムの精霊ホ。迷えるワナビを導く役目があるんだホ。気軽にトリと呼んで欲しいホ」

「俺に執筆の指南をしてくれるのか?」

「そう言う事ホ」


 どう言う仕組みかはよく分からんけど、突然現れたこの謎の物体は俺の執筆サポートをするために現れた存在らしい。何だかよく分からないけど、これはチャンスと見た方がいいんだろうな。

 そう割り切った俺は、早速コイツに頼る事にした。


「じゃあ、早速教えてくれ」

「上手くなる秘訣は書いて書いて書きまくる事ホ」

「は? 自慢じゃないが、俺は毎日長編を書き続けてるぜ。じゃあ今後は自動的に上手くなるんだな?」

「バカホー!」


 いきなり俺はトリに殴られた。一体何が気に入らなかったって言うんだ。でもまぁ、小さなマスコット精霊に殴られたからって痛みはそれほどでもない。

 けど、ここは心の痛みも加味して痛がっておいた方がいいだろう。


「痛い! 父さんにも殴」

「小芝居はいらないホ。好きな話を書いているだけじゃ成長は遅いって言ったんだホ」

「でも好きな話しか思い浮かばないだろ」

「そこでお題小説ホ! お題はボクが出してやるホ」


 流石は小説指南のプロ。ちゃんと考えがあっての行動だと分かって、俺は何度もうなずいた。それから、学校で先生に教わるみたいにトリの出すお題の話を考え始める。

 お題は多岐に渡っていて、予想のつかないものだった。食べ物のお題が出たので次もそうかと思うとジャンル縛りにしてきたり、最新の流行の話題を出したかと思ったらその次にはやたら抽象的なお題になったりもした。


「書けん~」

「だからお前は底辺だって言うんだホ」

「ぐぬぬ……」

「うまくなりたければ書くホ! 書いて書いて書きまくるホ!」


 意外とスパルタなトリの指導で、俺もちょっとは書けるようになってきた。技術的な事よりも、まずは書いて書いて書く癖を身につける事が重要らしい。お題小説は出来たらすぐに別のお題を出されるので、必然的に短編小説と言う事になる。

 50作品くらい書いたところで、トリが俺の書いた作品を覗き込んできた。


「いい調子ホ。では最後の試練ホ」

「いきなり最後?」

「この作品の文字数の都合ホ!」

「ぶっちゃけたー!」


 そんなメタなやり取りをはさみつつ、俺の執筆修行は最終段階に進んだらしい。規定の文章量を規定の時間内に書けるようになった事以外、まだ特に褒められていないんだけどな……。


「KACに挑戦するホ!」

「えっと、毎年3月に行われる運営からのお題ってやつ?」

「そこでひとつのお題につき2作以上作品を書いていくホ」

「えっ?」


 トリからの指導に俺は声が裏返る。KACはひとつのお題にひとつの作品を書けばいいだけのイベントのはずだ。今までの短編もKACと同じくらいの期間で一作書けばいいものだった。ここに来てそのペースを2倍に上げろと?


「期間内に1作品書くのなんて楽勝すぎるホ! それじゃあ修行にならないホ! とっととやるホー!」

「ひえ~っ」


 こうして、有無を言わさずに俺はKACに挑戦する事になった。これで筆力が上がるならと、文句は言いつつも真剣に取り組んでいく。


 まず最初のKAC20211に挑戦だ。お題は『おうち時間』。このテーマですぐに思いついたのは引きこもりの話だ。実体験をベースにサクッと書いてしまおう。ま、すぐに思いついただけあって1作目は楽に書けた。問題は2作目だな。

 しばらく悩んだものの、何とか閃きが降りてきた。と言う訳で、2作目。次は魔法で閉じ込められて強制的におうち時間を過ごす羽目になった男の話を書いた。


 KAC20212のお題は『走る』。1回目の反省点を生かして、まずは2作分の話のプロットを先に書いてしまう事にした。

 まず1つ目の話は……ヒーローが悪いやつを追いかけて倒す話にしよう。2つ目は……ここで昔ヒットした洋画の物語を思い出す。それをヒントに、走る呪いをかけられた少女を助ける話を思いつけた。


 KAC20213のお題は『直観』だ。直感ではなく直観。その違いが分からなかった俺はググって意味を調べるところから始める。そこで直観は経験に基付くもので、外れてもいいと言う事を知った。

 で、1つ目の話は失敗ばかりする占い師の話にした。この話は自分でも上手く書けたと思う。2つ目は逆に直観がうまくいく話のパターンにしようと、直観のおかげでお宝をゲットする話を書いた。


 KAC20214のお題は『ホラー』or『ミステリー』と来たもんだ。まさかのジャンル縛りでくるとは……。俺はホラーもミステリーも書いた事がなかったものの、トリックの必要なミステリーより怖がらせるホラーの方が書けそうな気がする。

 考える時間が限られている以上、書けない話にける時間はない。


 そこで、すぐに1つ目の話の構想をささっと練る。今トリに指導を受けている事自体がホラーだから、まずはこの話をネタにしよう。

 2つ目は……そうだな、遊びに行った先で事件に巻き込まれた勇者が謎を解決する話にするか。敢えて異世界を舞台にする。結構いいんじゃね?


 KAC20215のお題は『スマホ』だ。身近なアイテムだけに、これは話が浮かびやすい。なので、サクサクとプロットも出来上がっていった。

 1つ目の話はスマホをなくして世界の真実に気付く話にしよう。短編だから展開を早くしなくちゃだな。2つ目は、スマホから化け物が出てくるのでスマホを壊す話はどうかな? アホみたいな展開にすれば意外と受けるかも知れないぞ。


 KAC20216のお題は『私と読者と仲間たち』。はぁ? 何だこのお題。いきなり難易度が上がったぞ。うーん。読者が出てくると言う事はやっぱり主人公は小説家縛りなのか? まぁ1つ目はそう言う話で行くか。えーと、そうだな。小説家が仲間たちと協力して読者を救う話にしよう。

 問題は2つ目だけど、やっぱり違うパターンにした方がいいよな。えぇと、閃いた! いつも遊んでいた仲間たちに文章を褒められてコンテストに出したら読者が出来た話にしよう。展開的には普通だけど、普通の話もたまにはいいだろ。


 KAC20217のお題は『21回目』。ちょ、何だよ21回目って。どう解釈したらいいんだよこれ。トリとのお題修行でも流石にこのパターンはなかったぞ。

 方向性の変わったお題に俺は苦しんだものの、頭を捻って最初の話を何とか思いつけた。街に怪獣が攻めてくる。21回目もしっかり追い返すヒーローの話だ。王道やね。


 問題はもうひとつだ。うーん、21回目……。成功し続けている話を書いたから次は逆で攻めるか。と言う訳で、2つ目はダイエットにずっと失敗し続けていて21回目こそ成功するぞって言う内容の話にした。

 今回はダメかと思ったけど、意外と思いつけるもんだなぁ。


 KAC20218のお題は『尊い』だ。尊いと言うのも、最近のオタク用語かそれ以前のものかで意味はかなり変わってくる。なるほど、歯応えのあるお題だぜ。

 そこで、俺はまず尊いアイテムを泥棒から守り抜く話を最初に思いついた。次は2つ目。今度はやっぱ違うパターンだろうと言う事で、主人公が色々やっていたら偶然にも街を救って尊ばれるようになった話にした。この色々あったがちょっと難しかったけど、何とか書けたぜ。


 KAC20219のお題は『ソロ〇〇』。ああ、ソロキャンがブームだからかな。俺はプロのソロだからこのテーマだと色んな話をすぐに思いつける。早速ひとつ、どんどん仲間が抜けていったけどソロで頑張る冒険者の話と言うのを思いついた。2つ目はもっと違う方向性から攻めたい。何かソロで他にいいアイディアはないかな。

 俺はソロで思いつく言葉を探してみる。1人で何かを楽しむ以外にソロコンサートとか、単独で発表する使い方がある事を再発見。そこで、2つ目の話はソロライブを成功させようと頑張る地下アイドルの話にした。割とうまく書けた気がするぜ。


 ここまででお題9個消化。後ひとつを残すのみだ。もうしんどい。9個で18作品。もう十分頑張ったよ。ここで終わりにしたいよ。この時点で俺の創作力は限りなくゼロに近付いていた。

 けれど時間は容赦なく襲ってくる。そうして最後のお題が発表された。


 KAC202110、最後のお題は『ゴール』。最後にゴールとは、運営さんも粋なはからいをしてくれたもんだぜ。俺はすぐにここまで頑張って書いてきたぞと言うエッセイを書く。10個のテーマを完走した、もうこれで十分ゴールじゃないか。

 2つ目はゴールを目指して執筆を続ける俺をモデルにした話を書く。美化1000%の話だ。ああ、疲れた。完走おめでとう自分。


 こうして、KAC と言う試練をやり遂げた俺は達成感に満たされる。力を使い果たしてぼうっとしていると、急にトリが覗き込んできた。


「どうだホ? 執筆力もついたはずホ」

「でもしんどかった。しばらくはやりたくない」


 確かにこれだけの事をしたら、何かしらの筆力は身についた気もする。その実感も何もないまま、俺は布団に倒れ込んだ。今まで無理をしてきたツケが襲ってきたのだ。朦朧とした意識の中、ぼんやりとトリの声が聞こえてくる。


「もう僕は必要ないホね……」


 俺はどれだけ眠っていたのだろう。とにかく今まで取れなかった睡眠をしっかりとって、今の気分はとてもスッキリしていた。やはり睡眠は大事だな。

 周りを見渡すと、トリはいなくなっていた。最後の試練をやりきったからかも知れない。カクヨムのサイトにいるトリを眺め、俺はペコリと頭を下げたのだった。



(おしまい)

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