第8話 旅の目的

 部屋に買ってきたものを置き、俺は一息つく。

 宿屋は二階建ての民宿みたいな感じの建物だった。

 一階に食堂があって、好きな時間に食事が食べられるらしい。レストラン兼宿屋、と言った方が近いかもしれない。

 そういえばゲームの宿屋って寝泊りだけで食事ってどうしてるのか考えたことなかったな……

 酒屋は出てくるけど食事するような場面なんてないしな。

 とりあえず貴重品だけは持ち歩こう、と思い、ショルダーバッグだけ持って俺は部屋を出て食堂へと向かった。

 食堂に入ると、酒が入って完全に出来上がっている近所の住人らしきおじさんたちが盛り上がっていた。


「でな、この間川ででっかい水晶見つけたんだよ! 紫色の水晶だったんだけどな」


「アメジスト見つけたのかよ! 俺は普通の水晶ばっかりだよ!」


「たまにルチルやグリーンファントムも見つかるんだろ? 俺もみてみたいぜ!」


 なんていう話をしている。

 水晶って石の水晶かな。川でとれるのかよ? そういえばさっき見たチラシ、川で何かを拾ってる人が描かれていたっけ。

 水晶が特産品なのかな。


「ユーキ! こっちこっち!」


 椅子から立ち上がってアレクシアが大きく手を振る。

 俺はテーブルのすき間をぬって彼女の方へと向かった。


「お待たせ」


 言いながら俺は、彼女の向かいに腰かける。


「ユーキ、何食べる? 川魚のムニエル、おいしそうだし羊肉のステーキもすてがたいわよ」

 

 言いながら、彼女は俺にメニューを見せてくる。

 羊肉って食べたことないなぁ……

 エールって酒だよな。あ、ワインもあるんだ。

 やっぱりジュースはねえよなぁ。水も有料らしい。

 何がいいんだろう……


「アレクシアさんは何を頼むの?」


「そうねぇ。今日はたくさん歩いたからお肉食べたいなぁ。だから羊肉のステーキにするわ!」


 羊肉かぁ、俺も興味あるからそれにしようかな。

 あと飲み物は……酒にチャレンジしてみるか。

 わかってはいたけど米はないらしい。

 パンがあるのでそれも注文することにする。


「俺も決まった」


 そう言うと、アレクシアさんが店員さんを呼んでくれた。


「羊肉のステーキとサラダ、バゲットとスープ。それにワインをお願い」


 さらさらっと、アレクシアさんが注文して俺の方を見た。


「えーと、俺も羊肉のステーキとバゲット、それとエールをお願いします」


「かしこまりました。羊肉のステーキをふたつ、バゲットをふたつ、サラダ、スープ、エールとワインですね。飲み物は先に持ってきちゃっていいですか?」


「お願いします!」


 俺が言うよりも先にアレクシアが答えた。酒は食前だよな、やっぱり。エールってどんな味なんだろう……すっげーわくわくする。

 すぐに飲み物が運ばれてきて、俺とアレクシアさんの前に、どん、とジョッキとワイングラスが置かれる。

 ジョッキの中身がエールだ何だろうな。見た目、黒ビールみたいだけど、エールってビールなんだな。

 俺とアレクシアは互いにジョッキとグラスを持ち、


「かんぱーい!」


 と、どちらともなく言った。

 ジョッキに口をつけて俺は大きく息をつく。ビールだ。正真正銘のビールだ。苦味が強いけど、冷えてておいしい。

 どうやって冷やしてるんだろう? 冷蔵庫みたいなのがあるのかな。やばい、気になることが多い。  

 

「アレクシアさん」


「何?」


「あっちのお客さんが水晶がどうのって言っていたけど、水晶って川で採れるの?」


 俺が聞くと、アレクシアさんは驚いた顔をした。


「当たり前じゃないの! この辺りの町や村はどこも名産の鉱石があるのよ。それを使った特産品がつくられていて。この村は水晶がよく採れるから、水晶を使った食器とか作られてるわよ」


「へぇ、そうなんだ」


 だからさっきのチラシ、川で石を拾っている描写があったのか。鉱石かぁ、ちょっと面白そうだな。せっかくここに来たんだから、何か目的が欲しいって思っていたけど。

 俺は、さっき手に入れたチラシを出して開く。このチラシと石を集めるっていいかもしれない。この町は水晶かぁ。明日、川に行ってみるかな。


「アレクシアさん、石って簡単に見つかるの?」


「うーん、そうねぇ。そんなに大きいものじゃなければ見つかりやすいかな。小さいものは皆採りたがらないから」


 なるほど。それなら俺にちょうどいいかも。決めた。明日、石を探しに行こう。


「アレクシアさん、俺、明日その川に行ってみたいんだけどいいかな」


 そう俺が言うと、彼女は満面の笑顔で言った。


「えぇ、いいわよ! 人間の事を知るのが私の旅の目的だし、急ぐ旅でもないから」


 まあエルフにとって一日なんて一時間にもならなさそうだよな。

 そう思いつつ、アレクシアさんにお礼を言った。

 

 

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