あなたは誰ですか?

美倉美奈子

マリアの場合

 駅構内にあるフクロウの石像の前で人を待っていた。しかし私は相手がどんな人かよく知らない。知っているのは身長、体重、年齢、趣味、顔写真だけだ。

 通常の人付き合いならばこれだけの情報があれば十分知っていると言えるかもしれないが、この情報の真偽は定かではないと思っているので、それはよく知らないのと同じである。

 真偽不明の顔写真をもとに相手を探して、間違った人に声をかけるという失敗はしたくないので私は正真正銘私自身の写真を相手に送り、待ち合わせの時間よりも30分早く来ることで相手から声をかけられようと待っていた。


「すみません、マリアさん……ですか?」

 声をかけられた方へ顔を向けると、そこには顔写真とほぼ同じ顔があった。

 私は彼からの問いかけに頷き、一応彼の名前も確認した。

「ジュンヤさんですか?」

「はい。お待たせしてしまってすみません」

「いえ、私が少し早く着きすぎてしまっただけなので」

「そうでしたか。でも無事会えて良かったです。とりあえず近くでお茶でもしますか」

 彼の提案に乗り、駅構内のカフェに行くことになった。そこはカフェなのだが、お酒やフードメニューが豊富で18時という時間も相まってお酒を楽しむ客たちで賑わっていた。

 幸いにもすぐに席に着くことができた私たち。私はレモネードを、彼はジンジャーエールを注文した。どうやら彼も私と同じく下戸のようで早速その共通の話題で盛り上がることができた。酒飲み同士がお酒を飲んで盛り上がるように、下戸同士もソフトドリンクを飲みながら酒飲みの悪口で盛り上がるものなのだ。


 それからもジュンヤさんとの関係は続き、最後に会ったのは2日前、4回目のデートだった。2回目のデートでメッセージアプリでの連絡先を交換し、それ以降はマッチングアプリではなくメッセージアプリで連絡を取り合っている。

 ある日スマホにメッセージが届いた。私はそれを見て困惑した。

 ジュンヤさんから一言「アナタハダレデスカ?」とメッセージが届いたのだ。

 返信もできず画面を見つめていると、今度はマッチングアプリのほうからメッセージが届いた。それもジュンヤさんからだった。

「メッセージアプリが乗っ取られた。そっちは無視してくれ」

 しかしメッセージはそれでは終わらず、記入中の表示が出ている。

 続けて送られてきたメッセージを見て私は背筋が凍った。

「トコロデアナタハダレデスカ?」

 そしてすぐにメッセージアプリからも新たなメッセージが来た。

「マッチングアプリのほうが偽物だ。こっちが本物だ」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

 そこから両方のアプリからのメッセージは止まらなくなった。

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」

「トコロデアナタハダレデスカ?」


















 私はその場に座り込んで、震えることしかできなかった。このメッセージの送り主は誰なんだ……確かにジュンヤはあのとき殺したはずなのに……

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あなたは誰ですか? 美倉美奈子 @mikuraminako

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