ニュースター発掘オーディション編

また明日。

 渚と真子の演技対決から一か月半が経った。

 

 舞台『聖女転生』は、主役の真子を見るために全国から集まったファン達のおかげもあり、大盛況の中幕を閉じた。

 

 「そもそも台本通りに演技してねえんだから負けるに決まってんだろ」

 

 というのが、春彦による今回の敗因分析である。

 

 「ギリギリまで台本読むなって言ったのはそっちじゃん!」

 

 ごもっともな渚の意見を、「うるせえ」の一言で春彦に無理やり誤魔化されたところで、渚の役者への道初挑戦は終わった。

 

 ただ、渚自身多少の悔しさはあれど、特に後悔は無く、落ち込みもしなかった。

 

 渚の『役に入り込みすぎる演技』は、真子の『観客に自分を見せるための演技』と比べてまだまだ未熟。それを分かっているからこそ、今回の結果にも満足していた。

 

 渚は、最後の文化祭を舞台下のマイク担当として終えた。

 

 時間は放課後、あの日以来宇田川演技スクールに通い出した渚と真子の話から始まる。 

 

 スタジオ内、モップ掛けをする二人。

 

 「思ったんだけどさ、演技初心者の私と違って真子ちゃんがわざわざこんなオッサンの下で勉強する必要ってないんじゃない?」

 

 綺麗にする。というよりも、とりあえず掛けたという口実だけ出来ればいいと言わんばかりに雑に作業をする渚がそう言った。

 

 「役者にとって演技の勉強っていうのは一生続くのよ。誰かから盗んで、誰かから学んでって、そうやって永遠に正解を探し続ける仕事なの。あんなオッサンだけど、学んで損はないわ」

 

 徹底的に綺麗にする。そういう感情が見えるは真子は、隅々までモップを丁寧に掛けている。

 

 「まっ、そんな真面目な話より、私今暇なのよ。卒業するまで仕事はセーブしてもらっててさ。ほら、秋田から東京まで通うのって大変じゃん?事務所的にも学校生活楽しんでおいでーだってさ」

 

 「そういえば真子ちゃん、卒業したら東京の高校に行っちゃうんだっけ?」

 

 「もちろん。ナギ、あんたの方こそどうすんの?本気で女優になりたいんだったら、絶対にあんたも来るべきよ」

 

 「私も……行けたらいいのにな」

 

 渚の目に映るのは、壁に貼られた『ニュースター発掘オーディション』の張り紙。

 

 これは、バーンズを始めとした日本五大芸能事務所合同で毎年開催されている俳優&女優発掘オーディションだ。決勝は毎回東京の会場で行われ、グランプリや入賞を果たした者には、同時に新作映画の出演権利が得られる様になっている。まさに、女優への道の最短距離にあるオーディションだ。ちなみにこのオーディション出身者には、渚の憧れの女優である上瀬ユイも含まれている。

 

 ただ二カ月前には既に応募を締め切られてしまっている様で、渚には現在縁の無い物となっていた。

 

 「何?事務所探してんだったら、ブロッサムに聞いてあげよっか?」

 

 「えっ?ほんと?」

 

 願ってもない提案。断る理由も無い。

 

 「じゃあお願……」

 

 そう言いかけた時、奥の扉をけ破り、春彦が大声を上げながら姿を見せた。

 

 「おい!渚!朗報だ!聞くか?聞きてえよな?てか聞け!いや、その前に見ろ!」

 

 ドコドコと大きい足音を鳴らしながら渚の正面に立つと、春彦は一枚の紙を開いて見せた。

 

 渚はその紙に目を通す。真子も気になった様で、横から覗き込んでいる。

 

 『この度はニュースター発掘オーディションにご応募頂き、ありがとうございました。厳正なる審査の結果、南 渚様は一次審査通過となり、二次審査に進んで頂く事が決定致しました。つきましては……』

 

 目を真ん丸にさせながら見つめ合う渚と真子。春彦はそんな二人を見て、満面のオッサンスマイルを見せている。

 

 「えっ?どういう事?もう募集って終わってたんじゃないの?」

 

 信じられないと戸惑う渚。

 

 「無理やりねじ込んでやったんだよ。安心しろ。卑怯な手は使ってねえ。ちょっとばかし締め切りを誤魔化してもらっただけだ」

 

 それが卑怯でなくて何だというんだ。と渚と真子の二人は思ったが、ひとまず言葉を飲み込んだ。

 

 「いいか渚。ここ一か月でお前には演技の基礎を教えた。次はこのオーディションで実戦経験を積んでこい。その間にこっちも色々準備しとくからよ」

 

 「何、準備って?」

 

 「あれ?言ってなかったか?お前と圭の中学卒業のタイミングで東京に事務所建てる予定だって」

 

 「いや知らないでしょ」

 

 「……まあ今知ったんだからいいだろ。とにかく渚、お前はうちの看板女優としてバーンズだとか他の事務所にご挨拶して来い!」

 

 「ご挨拶って言われても……そもそもこのオーディションの二次審査って一体いつ?」

 

 さっきの紙に再び目を通す渚。そこで見たのは、驚愕の内容だった。

 

 「ちょっと待ってこれ……」

 

 「そうだ。二次審査は、明日だ」

 

 「んなあほなぁぁぁああああ!??!?!??」

 

 スタジオ内に、渚の叫び声がこだました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アクトマジック 4N2 @4N2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ