ごめんね、ムムくん。
人が人を殺すのは簡単だけど、人が人を生かすのってすごく難しい。僕はそう思う。
僕とムムくんはちいさい頃から一緒で、だからこそ僕はムムくんが死にたい理由について、誰よりも詳しくなってしまった。そうだよなあ、そうだよ、そんなの、僕だって死にたくなるよ。とは思いつつ、ムムくんには生きていてほしいという矛盾を抱えるのが、僕という生き物である。大切な人が苦しむのは見たくない。だけど、大切な人が死んでしまうのはとても悲しい。僕はムムくんに生きていてほしいのだけど、ムムくんはそれを望んでいない。ムムくんには幸せになってほしくて、でもムムくんが幸せになるには死ぬしかなくて、僕はそれが嫌で……このどうしようもない矛盾にうむむと頭をひねった僕は、悩む時間を増やすために、とりあえず世界の理を壊すことにした。
これが超能力と呼ばれるものなのか魔法と呼ばれるものなのか、はたまた呪いと呼ばれるものなのか。どう名付けようが僕に普通じゃない力があることには変わりがないのだから、名称問題についてはとりあえず放置している。人の生と死を入れ替えることのできるそれは、当たり前に取り扱い大大大注意、むやみやたらにホイホイ使っていいものではない。そう言い聞かされて育ったおりこうさんの僕はその都度はーいわかりましたーと答えていたのだけど、実のところはとっくの昔に両手に収まり切れないほどの回数をムムくんのために使っていて、これが「むやみやたら」に入るのか入らないのか、分からないけれどとにかくよくはないんだろう。
だけどムムくんが自殺する度に、僕はその力を使う。そうして、見知らぬ誰か、もしくは見知った誰かの生とムムくんの死を入れ替える。ムムくんの死と引き換えに、今日明日明後日何十年と生きていたはずの人の命が奪われる。誰と入れ替わるのかなんてアトランダムなのだから、ムムくんの代わりに死ぬのが全然知らない人とは限らなくて、僕のお父さんお母さんかもしれないし、ムムくんのお父さんお母さんかもしれないし、もしかしたら僕自身かもしれない。誰が死のうがどう死のうが、とりあえずムムくんが生きてさえいればいいので気にしたことはない。ムムくんが生きかえってよかったなあ、とだけ思っている。
だけど生き返ったムムくんが「また死ねなかった」って泣いているのを見る度に、僕の胸はじぐじぐと痛んでしまう。僕が本当にムムくんのことを思っているのなら、穏やかにその死を見守るべきなのだ。「ムムくん、よかったね。もう悲しくも苦しくもないんだね。おめでとう」と笑って見送るべきなのだ。それができないのは僕がまだ子どもだからなのか、それとも僕自身がわがままだからなのか。分からないけど前者だったらいいなあ、とは思う。ムムくんの死を笑って見送れる、そんな日が来るのを僕は楽しみにしているのだ。
ムムくん以外の人を殺すのは簡単で、ムムくんを生かすのはとっても難しい。いつか本当に幸せになったムムくんのことを、心から祝福してあげられる日が来ますように。僕はそう祈りながら、ムムくんの代わりとなる何十人目かの命を奪った。
不幸な子供 漏溜 @zombiplanet
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