お試し!ダイジェスト!子供戦争(チルドレン・ウォー)

とみき ウィズ

複合施設での戦闘

4日後、民兵の大群は病院と学校の複合施設付近に姿を現し、オチュア達がもたらせた情報の元にそれぞれの攻撃部署に展開した。

ンガリの属する小部隊は病院正面の攻撃を担当する部隊に組み込まれていた。

複合施設内は突如現れた民兵の大群に職員や民間人がパニック状態に陥った。

情報将校が中佐の病室に駆け込み、民兵の出現を報告した。


中佐は情報将校に守備兵達を使って職員、民間人を病院に収容しパニックを収めるように命じると情報将校は敬礼をして命令を復唱すると部屋を出て行った。

中佐はむっくりと起き上がると、テープで腕に止めているだけの見せかけの点滴チューブをむしり取り、慌ただしく戦闘服に着替えた。

同室内の護衛兵士達もそれぞれ戦闘の準備に取りかかった。

中佐達はずっと病気の振りををしていてなまった体を動かし、それぞれしばらくストレッチをした。


中佐は護衛兵士が差し出した愛用のショットガンを受け取ると、さて、一汗流しに行こう!と言った。

護衛兵士達がどっと笑い足早に廊下に出た中佐の後に続いた。


その頃大量の死者が運び込まれた事になっていた偽りの墓場では棺桶の中に入って運び込まれ、仮設テントで息をひそめ、話す事も温かい食事も摂る事が許されなかった傭兵団兵士達がコンテナに隠されたそれぞれの装備を受け取ると、身をかがめながら続々と墓場を出て行き、あらかじめそれぞれ割り振られた場所に行き、身を隠した。

その数450人、戦闘歩兵第2大隊の内、威力偵察に出撃している兵士、ほぼもぬけのからになった駐屯地の守備兵を除いた中佐手持ちの全兵力だった。


中佐は病院西側の土嚢を厚く積んだ胸壁にやって来た。

中佐の胸の高さまで積み上げられた土嚢の壁の陰にはおびただしい数の兵士達が、すでに配置についている10人ほどの守備兵の足元の地面に伏せて息を潜めていた。


中佐は双眼鏡を覗いて押し寄せてくる民兵の布陣を見て笑みを浮かべた。

中佐は偽情報に騙され、病院の北と南に配置された重機関銃陣地とその前面に設置している「事になっている」クレイモア地雷の破壊範囲を避け中央を密集してやって来る民兵の大群を見ながら、胸壁から顔を出して銃を構えている守備兵に、土嚢の壁に密かに直接設置してあったクレイモア地雷を隠している厚い板をどかすように命じた。


民兵組織はここに設置してある大量のクレイモア地雷に気が付いていなかった。


守備兵達は厚い板についた紐を引っ張り、クレイモア地雷の前面を開けた。

中佐は迫り来る民兵の大群を前にして、ことさらゆっくりと胸壁を行きつ戻りつしながら歩いた。


地面に伏せている兵士達の視線が自分を追って動いている事を確認した中佐は、時折目があった兵士に微笑みかけた。

民兵の大群が銃を構えて押し寄せて来た。

民兵達には胸壁にぽつりぽつりと配置されている守備兵しか見えず、その足元に隠れて待ち構えている傭兵団主力に全く気が付かなかった。


彼らは意気揚々とやって来た。

まだまだ突撃銃の有効射程には程遠かった。


中佐は武者ぶるいで全身がガタガタと震えた。

いつも戦いが始まる前に激しい武者ぶるいが起きるのだ。

中佐は足元に伏せている兵士達にそれぞれが信じる神に祈れと命じた。

兵士達はそれぞれ信仰する神への祈りを唱え始めた。

信じる神を持たない兵士達はそれぞれに愛する恋人や妻、子供や親たちの名前を唱え続けた。

中佐は子供の頃、母親に連れて行かれたカトリック教会で覚えさせられた詩篇の一つを唱え始めた。

教会から足が遠のいて久しいが、いくつか覚えていた詩篇の中から一番気に入っていた詩篇を、ガチガチと歯を鳴らしながら、唱え始めた。



いと高き方の隠れ場に住む者は、全能者の陰に宿る。


私は主に申し上げよう。「わが避け所、わが砦、私の信頼するわが神。」と。


主は狩人の罠から、恐ろしい疫病から、あなたを救い出されるからである。


主は、ご自分の羽で、あなたをおおわれる。あなたは、その翼の下に身を避ける。主の真実は、大盾であり、砦である。


あなたは夜の恐怖も恐れず、昼に飛び来る矢も恐れない。




民兵の大群はどんどん近づいて来た。

民兵達が上げる憎悪の雄叫びが遠く聞こえて来た。

フィックス、バイヨネット!(銃剣付け!)

中佐が叫び、自分が持つショットガンに銃剣を装着すると地面に伏せた兵士達も一斉に突撃銃に銃剣を装着した。





また、暗やみに歩き回る疫病も、真昼に荒らす滅びをも。


千人が、あなたの傍らに、万人が、あなたの右手に倒れても、それはあなたには、近づかない。


あなたはただ、それを目にし、悪者への報いを見るだけである。


それはあなたが私の避け所である主を、いと高き方を、あなたの住まいとしたからである。




土嚢から顔を出している守備兵が散発的に射撃を始めた。

民兵側からも銃弾が飛んできた。

民兵の大群が立てる足音が地響きと共に聞こえて来た。

中佐はまっすぐ体を起こしたままショットガンを持ち、胸壁を行きつ戻りつ歩いた。

ロックンロール!ユア、ガン!(装填せよ!)

中佐が叫びショットガンのスライドを引き弾丸を薬室に入れた。

地面に伏せた兵士達も同時にスライドを引き突撃銃を射撃可能な状態にした。





災いは、あなたに降りかからず、疫病も、あなたの天幕に近づかない。


まことに主は、あなたのために、御使いたちに命じて、すべての道で、あなたを守るようにされる。


彼らは、その手で、あなたをささえ、あなたの足が石に打ち当たることのないようにする。


あなたは、獅子とコブラとを踏みつけ、若獅子と蛇とを踏みにじる。





民兵達が200メートルほどに近づいた。

歩きまわる中佐を追って着弾の土ぼこりが立った。




彼がわたしを愛しているから、わたしは彼を助け出そう。彼がわたしの名を知っているから、わたしは彼を高く上げよう。


彼が、わたしを呼び求めれば、わたしは、彼に答えよう。わたしは苦しみの時に彼とともにいて、彼を救い彼に誉れを与えよう。


わたしは、彼を長い命で満ち足らせ、わたしの救いを彼に見せよう。





民兵達が胸壁まで100メートルを切った。

クレイモア地雷の発火クリップを握った守備兵が引きつった顔を中佐に向けた。

中佐はにやりと笑みを浮かべ、まだだ、と顔を横に振った。

民兵達が足を速め残り50メートルに差し掛かろうとしていた。

中佐が両耳を押えて、エクスプロージョン!(爆破!)と叫んだ。

地面に伏せた兵士達も一斉に耳を押さえた。

守備兵がクレイモア地雷の発火クリップを立て続けに握りしめた。

胸壁前面にもうもうと土ぼこりがわき起こり物凄い振動と大音響を発して、胸壁前面に隠された数十基のクレイモア地雷が火を吐いた。

民兵達は全く予期しない方向からのクレイモア地雷の一斉爆発を受けてその前列が文字通り粉々に吹き飛ばされ、その体の破片は地雷の鉄球と共に高速で飛んで行き二列三列目以降の民兵の体に食い込み切り裂き吹き飛ばした。



中佐がショットガンを高く掲げ、勢いが止まった民兵に向けて振り下ろしながら、チャージ!(突撃!)と叫んだ。

地面に伏せていた兵士達が怒号を上げて一斉に立ち上がり胸壁を乗り越えると銃剣の林を煌めかせ、突撃銃を撃ちながら、地雷で吹き飛ばされた民兵の前衛に向かって突撃していった。

中佐は兵士達の後姿を見つめながら胸壁を乗り越えると、ゆっくりとした足取りで突撃した兵士達の後を追った。

護衛兵士がつかず離れずの距離で中佐を取り巻き、進んでいった。

中佐の激しい武者ぶるいはすっかり治まっていた。



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