第七話「友達」

翌日……


俺は朝食を食べ終わると、外に出る準備をした。


(この本とー、あとこの本もだな)


俺は魔術関連の本を2冊手に取った。


はて、どんな魔術をあの子に見させてあげようか。

とりあえず、待ち合わせ場所に行くか。


「母上!外に出かけてきますね!庭じゃないですよ!」


「遅くならないうちに帰ってくるのよー!」


「はーい!」


「それにしてもリアが自分から外に出るなんて珍しいわね」


俺はそんなアイリスの声を背にして玄関の扉を開けて外に出た。


友達か。

友達なんて小学生までしか居なかったからなー。

昨日は結構グイグイいって待ち合わせの約束をしたけど嫌われてないよな…?

少し不安だ。

ああいう子は押しに弱いからきっと大丈夫か。

そういえばあの子の服泥まみれだったけど、母親は自分の子供がいじめられている事に気付かないのか?

あの子はいじめられてることをきっと誰にも言ってないんだろうなー。

それに漬け込んであのクソガキ共はあの子の母親に偽情報を垂れ込んだりして自分達に都合が良いようにしたんだろう。

本当にタチが悪い。

やはりもう1回、お仕置するべきか……。


ーーーー



暫く歩いていると、待ち合わせ場所に昨日の子がいるのが見えた。


(あれ?もういるのか)


「ごめーん!待った?」


「ううん…待ってないよ…」


「ごめんね。昨日忙しくて時間決められなくて」


「うん、けど、君が昨日ここに来た時間帯に行けば間に合うと思ったから。」


「えっと……僕がここに来るどのくらい前からここで待ってた?」


「1時間ぐらい…」


「え?そんなに!?」


「え、いや、けど自分が早く来すぎただけだし…」


(俺はこんなか弱い女の子を1時間も待たせてしまったのか…)


「本当にごめん!」


俺は深々と頭を下げた。


「そ、そんな謝らないで……。え、えっと…じゃ、じゃあ名前を聞いてもいい…?」


ああ、そうだ。名前を言うのを忘れていた。


「リアエル・クラエシスです。ちなみに4歳です。リアと呼んでください」


「4歳…」


「えっと…私の名前はルリニア・アルカーシャです。7歳です…」


「良い名前だね。ルリって呼んでいい?」


「ルリ…うん、良いよ!」


「ではルリに見せたいものがあります!」


「え?な、なに?」


(とっておきの魔法でルリを驚かせてやるか…)


「村の外で見せたいんですけど、良い場所とかありますか?」


「うーん、分かった、じゃあ、ついてきて」


俺はルリに付いて行った。


今まで家の中か庭にしかいなかった俺にとってはここの景色は初めてだった。


(こんな風になってたのか、この集落は)


「もしかして、ここまで来るの初めて?」


「はい、実はそうなんです」


「じゃ、じゃあ案内するね」


(めちゃくちゃ良い子だ…)


「えっとね、あそこの大人がゾロゾロ入っていってる建物が冒険者ギルドだよ」


「多分あそこがこの村で一番賑やかだと思う」


「あれが冒険者ギルドですか!?」


「もっと近くまで見に行きましょうよ!」


「ダメだよ…お母さんにあそこは大人気ない人もいるから近付かないようにしろって言われてるの」


「そうなんですか?」


「過去に依頼の取り合いで殴り合いが起きたってお母さんが言ってた」


「そ、それは確かに近付かない方がいいですね…」


(ジェイルも毎日あそこに行って依頼を受けてるのか…)


「どうしたの?」


「僕のお父さんが冒険者なんです」


「怖くないの?」


「何がですか?」


「その…依頼を引き受けてる途中で死んじゃうの…」


(考えたことも無かったな…ジェイルが死ぬなんてこと。)


でも、この周辺にそこまで強い魔物や魔獣はいないからジェイルが死ぬなんて事は無いだろう。


「この辺にそこまで強い魔物や魔獣なんていませんから大丈夫でしょう」


「そう…」


「でも、私のお父さん…5年前にこことは違う冒険者ギルドで依頼を受けてる最中に死んじゃったの…」


(え?そんな辛い過去あったの?お父さんの事とか話さない方が良かったか!?)


「それ以来、お母さんが私の事をずっと1人で育ててくれたの」


「そ、そうなんですね」


(どういう言葉をかけたら良いかなんて俺には分からない)


「お母さんは私のために一日中一生懸命働いてくれてるの」


「それなのに昨日の子達はそんな貧乏人に生まれて可哀想だって言ってきたの…」


「それで言い返したら………」


「う、う、うぁぁわぁぁぁぁん」


ルリはその場で泣き出した。


「ル、ルリ!?大丈夫ですか!?」


「次にあの子達が君に何か言ってきたら僕に言ってください。なんとかしますよ」


「僕はルリの味方です」


俺は必死にルリを慰めようとしたが、ルリは泣く一方。


(どうしたらいいんだ…)


「僕はルリのこと好きだよ」


「ルリは貧乏人なんかじゃない。ルリはこんな僕と友達になってくれた優しい人だよ」


そしてルリは泣き止んだ。


「あ、ありがとう…」


(何だか恥ずかしい事を言ってしまった気がする…)


「もう大丈夫ですか?」


「お水でも飲みますか?」


「この近くに水飲み場なんてないよ」


「違いますよ」


俺は魔術を唱えた。


世の理を支えし、力強き大地よ!その恵みは全ての原点を司る!」

「アース!」


俺は土魔法で土を召喚し、練り上げてコップを作った。


「この世の全ての生命の原点を司る水よ、その流れるような美しさと優しさは我に生きる素晴らしさを説く!」

「ウォーター!」


続けて俺は土魔法で練り上げたコップに魔法で水を注いだ。


「ほらね」


「す、凄い…」


俺は水の入ったコップをルリに差し上げた。


「あ、ありがとう…」


「このくらい朝飯前だよ」


「魔法使えるんだね…」


「ルリも詠唱さえ覚えれば使えますよ」


「けど、私、記憶力そんな良い訳じゃないから…」


「でも、君と同じ白色の髪の凄い魔術師を僕は知ってるよ」


「髪色は関係ないよぉ…」


「学校でも最近習い始めたけど良く分からなくて…」


「じゃあ後で僕が教えますよ」


「うん、ありがとう」


「何でそんなに魔術に詳しいの?」


「小さい頃から魔術に関する本とか結構読んでたので」


「本とか結構読むんだね…」


「ルリは本とか読まないの?」


「ううん、家に本がないだけ」


(また、聞いちゃいけない事聞いちゃったか?)


「でも、学校で教科書を読んだりはするよ」


「あ、あぁ、そうなんですね…」


学校で教科書を読む……書物に触れる機会が少ない彼女にとっては普通の事では無いのだろう…


「もう大丈夫!行こ!」


水を飲み終わった彼女は元気そうにそう言った。


「はい!元気になったようで良かったです!」


「あ、このコップどうしたらいい?」


「そこら辺に捨てて良いですよ。土ですから」


「そ、そういうことじゃなくて、貰ってもいいかなって」


「今日の記念にしておきたいんだ」


「あぁ、そういう事でしたか!もちろん良いですよ!」


彼女はコップをポケットの中にしまって歩き出し、

俺はそれに付いていくような形で後ろを歩いた。


「ルリ!あれは何ですか!」


俺は健気にルリに質問した!


「あれは酒場だよ!多分この村では2番目に賑やかだね。でも1番危険なとこでもあるから気をつけてね」


「2日に1回はあそこで大人達の殴り合いの喧嘩が起きてるから」


「恐ろしい場所ですね…」


「でもこの村唯一の酒場だから夜にはあそこに沢山の大人が集まるんだ」


「確か僕のお父さんが打ち上げはいつも酒場でやっているとか言っていました」


「冒険者同士であそこに行く人が多いみたいだね。」


「へー。いつか僕も行く事になるんですかねー」


すると、ルリに少し睨まれた。

あれ?俺もうそんなにルリに好かれてる?

何だか照れるなぁ


「もうすぐで畑が見えてくるよ!」


「畑?何が栽培されているんですか?」


「小麦だよ」


すると、草木を掻き分けた先にはあたり一面の小麦畑。


「わあああああ」


(初めてだ。前世を含めてもこんな風景を見るのは」


「この道結構好きなんだ」


「はい!今、僕も好きになりました!」


俺が冗談混じりにそう言うとルリは苦笑した。


「あそことか良いんじゃない?」


そう言ってルリは木の下を指差した。


「はい!あそこはだったら丁度良いと思います!」


そして俺達は木の下に着くと、荷物を地面に置いた。


「何を見せてくれるの?リア」


ルリは早く知りたいというような顔で俺に聞いてきた。


「じゃあ、しっかり見ててくださいよ!」


俺は平原に向かって詠唱を開始した。


「天を引き裂き、大地を揺るがす雷よ、万物の生物を畏怖させる程の力強き雷鳴を大地に轟かせよ!」

「ライトニング!」


その瞬間、空から天を裂く程の一本の光が降り立ち、その数秒後に「ゴロゴロ」といった力強い音が響き渡った。

もちろん田んぼに被害がいかないように何もない平原に向けて撃ったからトラブルは起きないはずだ。多分。


「わぁぁ」


「どう!ルリ!」


「少し怖かったけど凄かったよ!」


「でしょ!」


「初めてだよ。こんな規模の大きい魔法を使ったのは」


「確かにこの魔法は村の中じゃ撃てないよね」


「ルリにここまで連れてきてもらった甲斐があったよ!」


「うん!どういたしまして!」


「このあとどうする?」


「さっき言ってくれたよね?魔術を教えてくれるって」


「あぁ、そうだったな」


(すっかり忘れてた…)


「じゃあまずは基礎魔法を使ってみようか」


俺はエリーシャに魔術を教えるような感覚でルリに魔術を教えた。


「まずは基礎魔法を使っていきましょう」


俺はまず、ルリに適した属性を見つける為に、ルリに全部の基礎魔法を使わせた。


「どれが一番やりやすかったですか?」


「うーん、水と治療かな?」


「2個もありましたか」


「2個あるのって普通より凄いの?」


「はい!そうですよ!僕は氷だけですし」


「でも治療は詠唱が長いのでルリは苦手でしょう。なので、まずは水を重点的に教えます」


「7歳となると初級魔法を扱える程の魔力はあるでしょう」


「まずはウォーターボールとかが良いと思います」


「ウォーターボール…」


「では自分に続いて詠唱してみてください。いきますよ!」


「うん!」


「万物の生命の源である水よ、優しさからなるその力で我に立ち向かう敵を打て!」

「ウォーターボール!」


敵を打て!」

「ウォーターボール!」


すると、ルリの手の先からゴルフボールぐらいの大きさの水球が現れた。


「できた!できたよ!リア!」


「それをあちらの木に投げましょう!」


「それっ!」


俺は手に持った水球を思いっきり木に投げた。

そして水球は木に当たって弾け飛んだ。


「こんな感じでね。」


「うん!やってみるね!」


「お、おりゃ!」


ルリの投げた水球は木に届く前に落ちた。


「あ…」


「木までは届きませんでしたが、上出来ですよ!ルリ!」


「も、もう一回やらせて!」


(どうやら向上意識が強いらしい)


「分かりました、ルリ、もう一回ですね!」


「さっきの詠唱は覚えていますか…?」


「えっと…万物の生命の源である水よ、優しさから………何だっけ?」


「優しさからなるその力で我に立ち向かう敵を打て!です。はいどうぞ!」


「万物の生命の源である水よ、優しさからなるその力で我に立ち向かう敵を打て!」

「ウォーターボール!」


ルリの手に水球が現れる。


「ではルリ、それをさっきと同じようにあの木まで投げてください」


「そりゃ!」


ルリの水球は木に当たって「バシャ」と音と共に弾けた。


「ルリ!今度は完璧です!」


「やった!」


ルリは吸収が早い。

このままいけば直ぐ中級魔法も使えるようになるだろう。


「そろそろ、昼ご飯の時間だから戻りましょうか、ルリ」


「うん、確かにそろそろ戻ろうか」


俺とルリは木の下から自分達の荷物を拾って来た道を戻った。


20分後……


「じゃあそろそろここで」


「うん、今日はありがとね!リア!」


「明日も今日と同じように集合しましょう、早く来すぎないようにしてくださいよ!」


「うん!分かったよ!それじゃあバイバイ!」


「バイバイ!」


この世界で初めての友達をこれからも大切にしていこう。

そう心に誓いながら俺はルリが見えなくなるまで手を振った。

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そして精霊は目を開ける〜せっかく異世界に転生したんだからこの世界では頑張って生きてみようと思う〜 赤い猫の目 @akainekonome

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